Live Report #619

MultipleTap at Galaxy - Gingakei
2013年11月30日(土) 神宮前 Galaxy 銀河系
Reported & photographed by 剛田武(Takeshi Goda)
except ★ photos by Mikoshi Yoshi(*)

出演:非常階段(JOJO広重、JUNKO、T.美川、白波多カミン )/ドラびでお/田中悠美子/中村としまる/秋山徹次/伊東篤宏/石川高/若林美保/PAINJERK/大城真/川口貴大/毛利桂/康勝栄         

2014年2月22日(土)、23日(日) 二日間に亘りロンドンCafe OTOで“日本の音楽シーンの混沌さと過剰さを再現する”イベント<Multiple Tap>が開催される。企画したのは若干30歳の即興音楽家・ギタリストの康 勝栄。好きな音楽を聴き続けるうちに、デレク・ベイリーやジョン・ケージ等に触発され、手持ちのギターで自然に即興演奏を始めたという康は、ロル・コクスヒル、スティーヴ・ベレスフォード、美川俊治、中村としまる、川口貴大、山本達久、弘中聡等、国内外の様々な演奏家と共演し大きな影響を受けてきた。経験を積むうちに、自らが身を置く音楽シーンに漠然とした閉塞感と先行き不明な感じを抱き、それを打破して即興・実験音楽の環境・世界を変えることが出来ないか、と思うようになり、昨年秋に立ち上げたのが<Multiple Tap>構想だった。

面白いと思うアーティストに声をかけラインナップを選出し、会場はロンドンのライヴハウスCafe OTOに決定。2008年4月にオープンしたCafe OTOのオーナーは日本人女性で、欧米の先鋭的アーティストは勿論、日本人演奏家のライヴも多く開催している理想的な場所である。資金面に関しては、ネット上で寄付や出資を募る「クラウド ・ファウンディング」方式を取り入れた。

近年「クールジャパン」の名目の下に現代日本カルチャーを世界に発信しようという動きが活発である。政府や企業主体に世界各国で紹介イベントが開催されているが、その多くは秋葉原発信のアニメーション、コミック、コンピューターゲームなどのオタク文化と、原宿発信の「カワイイ」ファッションに偏っている。80年代から欧米の国際ジャズ・フェスティバルでセンセーションを巻き起こしてきたフリー・ジャズ/即興音楽、「ジャパノイズ」と呼ばれ世界に衝撃を与えたノイズ/インダストリアルといった、日本の先鋭音楽も大きな進化を遂げており、21世紀の今こそ、音楽を飛び越えて(音楽に留まらないで)、カルチャーとしてアピールできないか、既存の音楽や芸術の評価軸とは別の感覚で捉え、経済面を含め文化として成熟させられないか、という命題への挑戦がこのイベントの肝である。

前置きが長くなったが、この画期的な構想の第一歩となるプレミアムイベントが原宿のGalaxy 銀河系で開催された。渋谷・原宿駅から歩いて10分のアパレルショップの並ぶストリートにひっそり存在するこのギャラリーは、これまでも先鋭的なアート展とともに音楽/DJ/サブカル系ライヴイベントを企画しており、記憶に新しいところでは11月始めに五海ゆうじの阿部薫写真展に合わせて今井和雄のライヴが開催された。用途が限定された会場ではなく、企画に合わせてレイアウト変更できる自由空間なので、今回のような出演者が多岐に亘るマルチイベントには最適である。オールスタンディングの会場は出演者、関係者を含め熱心なオーディエンスで超満員。若い人も多く、先鋭音楽への関心の広がりがわかる。

●毛利 桂(turntable)+康 勝栄(g)

開演に10分程遅れて会場に着くと、何やら地響きのような音が漏れてくる。ギャラリーの奥に大道芸を見るような人だかりが出来ていて、強烈な重低音が会場を満たしている。人垣の頭越しに眺めると、フルアコを抱えた若いギタリストが座っている。彼がひとりでこの轟音を出しているのか、と思ったがどうも様子が違う。さらに奥に後ろを向いた女性が何かを抱えて身をくねらしている。最初短波ラジオか、と思ったらポータブル・レコードプレイヤーだった。男性はこのイベントの企画者の康 勝栄、女性は実験ターンテーブルユニットBusratchのメンバーだった毛利 桂。このイベントは組み合わせを変えてコラボレーションで演奏するスタイルである。会場の壁がマッサージ機のように震動する大音量にはさすがに階上の店舗からクレームがついたらしい。

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●田中悠美子(義太夫三味線)+石川 高(笙)

続いて和楽器デュオ。田中は坂田明の平家物語等で観た時は和服姿だったので、洋装が意外だった。三味線や大正琴を擦ったり叩いたりの変則奏法、ハチャメチャな義太夫節、急転直下の問わず語り、と目紛しくもユーモラスなパフォーマンスに観客から笑いも起る。対する石川はそれに動じない落ち着いた演奏で侘び寂びを体現する。雅楽のスタイルを借りたジャンルレスの即興パフォーマンスは、特に西欧人には興味深いだろう。

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●大城 真+川口貴大

ギャラリーの真ん中に大きな脚立が設置される。取り囲む観客が見守る中、ふたりのパフォーマーが様々な物体(オブジェ)を床に広げる。川口はアルミホイルを客席に貼り巡らせ、電流を流すと言って脅す。大城はがたがた震動する機械やスピーカーを針金で脚立に繋ぐ。ストロボが点滅する中、淡々と作業が進み、川口が小型扇風機でアルミホイルを震わせ、脚立を逆さまにひっくり返す。さてこれから何が起るのかと期待していると、突然終了を告げる声。大掛かりなセットを用意して結局殆ど何も起らずじまい。川口のバイオグラフィーに書いてある通りの「無意味の集積物の様相」を呈していた。

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●PAINJERK

PAINJERKこと五味浩平はソロでラップトップノイズ演奏。90年代ジャパノイズの代表格として活躍した頃と変わらぬ容赦のない大音量のノイズ放射がギャラリー全体に共鳴し震撼させる。日本のノイズが海外で大きな反響を呼んだ一因は際限のない大音量だった。よく考えれば、欧米に比べ住宅事情の悪い日本でなぜこんな大音量演奏が許されるのか、不思議な気がする。原宿のど真ん中に激烈な轟音ノイズが鳴り響くのは、まさに大都会のカオス&カタストロフィだった。幸いなことに時間が遅かったので、他の店舗は閉店しており、苦情はなかった模様。

●中村としまる(electronics)+秋山徹次(g)

インディジョーンズ風のハットを被った銀髪長身の秋山とハンチング帽の中村は、これまで何度も共演している気心知れた組み合わせ。派手さは無いが、高い演奏力と豊かな発想に裏打ちされた確信に満ちた演奏は、日本即興音楽が極めた到達点の高さを証明している。どちらも大ベテランでありながら、常に最大限の自由を追求する姿勢には感服するしかない。

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●ドラびでお(DORAnome)+伊東篤宏(optron)+若林美保(dance)

ヴィジュアル的に最大のハイライトとなるトリオ。ドラマー出身ヴィジュアル・コンピューター・アーティストのドラびでおこと一楽儀光は、音と映像を同時にコントロール出来る新世代楽器「DORAnome」を操り、パネルからカラフルな光を発する。伊東の蛍光灯を使ったノイズ発生器オプトロンも強烈な光を点滅させる。ふたりのライティング系演奏家に加え、ダンス・パフォーマーの若林がロープを使ったSM風エロチック・ショーを見せる。ドラびでお制作のあらゆる権威を罵倒するショッキングな映像もプラスされるので、見所だらけの盛り沢山なスーパー・ヴィジュアル・テロリスト・ショーだった。若林の艶かしい裸体だけでも充分過ぎる程刺激的なのに、強烈なノイズと明滅する光の放射で頭がクラクラする。頭の中に10数年前に多数の失神者を出し社会問題になったポケモンショックがフラッシュバックする。

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●非常階段(JOJO広重、JUNKO、T.美川、白波多カミン )

先ほどから満員の観客の中に、この場に似合わぬ幼い顔の少女が交じっていて、原宿ガールがノイズを聴きに来るとは時代も変わったな、と感慨にふけっていたら、その娘がギターを抱えて出てきたので驚いた。この日は出演が無かった初音階段で初音ミクのコスプレで歌う白波多カミンが、素顔に普段着で非常階段に参加。昨年秋に大阪でJOJO広重と共演したのがカミンのノイズ初体験だった。その時の感想をカミンは「とてもセクシーな気分」と記している。以降初音階段に留まらぬ共演を重ねるのは、セクシーな気分が今も続いているからだろう。自分の両親と同世代のベテランと対等に渡り合うカミンの成長(逸脱?)ぶりは著しい。広重、JUNKO、美川の三人にとっても、若い感性から刺激を受けることは間違いない。それを証明するかのように、最近ではピカイチのストロング・スタイルのステージだった。

当初の想像を遥かに超えるバラエティとユニークさに溢れたイベントだった。「世界でも類を見ない日本の音楽シーンの混沌さと過剰さを世界に発信する」コンテンツとしては申し分無い。来年2月のロンドン公演が日本の「混沌音楽」の曙となることは間違いないだろう。(剛田 武 2013年12月10日記)


【支援&拡散のお願い】
このイベントはクラウド・ファンディングを利用して行われ、インターネットを通して支援を募っています。公式サイトの「ABOUT PERK」を選んで寄付金の受付をすれば、寄付した額により入場券、新録未発表音源、ライヴレコーディングCD、Tシャツなどの特典が入手出来ます。
資金的な支援は無理、という方は、ツイッター、フェイスブック、ブログなどで拡散するだけでも大歓迎。例えばこの記事へのリンクをツイート・投稿等していただくだけでも結構です。
なにとぞよろしくお願いします。

JTコンサート告知へリンク http://www.jazztokyo.com/hotline/hotline_international.html
イベント公式ページへリンク http://multipletap.com/index.html

剛田 武(ごうだ・たけし)
1962年千葉県船橋市生まれ。東京大学文学部卒。レコード会社勤務。
ブログ「A Challenge To Fate」
http://blog.goo.ne.jp/googoogoo2005_01

WEB shoppingJT jungle tomato

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