Concert Report #621

第17回 相曽賢一朗 ヴァイオリン・リサイタル2013
2013年12月1日 津田ホール
Reported by 丘山万里子(Mariko Okayama)

<演奏>
 相曽賢一朗vl
 アリスター・ビートソンpf
<曲目>
 シューベルト:アルペジョーネ・ソナタイ短調D.821(vla&pf)
 シューマン:3つのロマンス作品94
 ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第3番変ホ長調作品12-3
 シューマン:献呈/ピアノ編曲版(pfソロ)
 サン=サーンス:ハバネラ作品83
 サラサーテ:プライェーラ作品23-1、サパテアード作品23-2         

 ペン書きの、楷書の音楽である。よけいな粉飾や演出のいっさいない、清々しい演奏。いかにも英国で学んだ人らしい品格がこの人の持ち味だ。東京芸大からロンドンへ留学、当地を拠点にソロ、室内楽、オケとの共演など幅広く活動、今年は英国で「音楽=瞑想=ヒーリング」のテーマで「サウンドネス・フェスティバル2013」を主宰、音楽療法的な視点からのアプローチにも取り組んでいる。
 一曲目、シューベルトにその美質が横溢する。もともとアルペジョーネというチェロとギターを合体したような当時の楽器のために書かれた作品で、通常はチェロで演奏されることが多いが、当夜はヴィオラで。ヴィオラらしい穏やかさ、深さ、艶やかさをもった音色(ねいろ)で太字のペン先が旋律を追う。フレーズの細部まで目配りの行き届いた「きちんと感」と、たっぷりした歌。アダージョ楽章のピアニシモは細字のラインで、しなやかな弧を描く。つつましやかな表情がとりわけ印象的だ。アレグロの終楽章は軽快にピアノと弾んだ。
 本来のヴァイオリンに持ち替えての『ロマンス』は、内声の動きをていねいにあぶりだしつつ、くっきりと旋律を浮き立たせ、シューマン特有の内省的なロマンを立ちのぼらせる。シューベルトとシューマンの歌い方の相違がはっきり判る知性に富んだ演奏である。
 ベートーヴェンは、それまでのヴァイオリンの伴奏付きピアノ・ソナタという形式からヴァイオリンも対等に活躍するヴァイオリン・ソナタへの移行期の作品で、両者のバランスのとれた絡み合いが楽しめる。ピアノがそのあたりをよく心得て、出るところは出、引っ込むところは引っ込んでヴァイオリンを盛り立てる。活発で力強い第1楽章、銀の糸で縫い取るようなヴァイオリンの弱奏が美しい第2楽章、快活なロンドと、ここでも折り目正しい筆致が端正なベートーヴェンを描き出した。
 ただ、そうした美点に、今ひとつ迫力を望みたいと思われたのがサン=サーンスやサラサーテ作品。ここでは多少、乱暴になってもかまわないような筆の勢いが欲しいところ。最後の『サパテアード』でスリリングなテクニシャンぶりを発揮しただけに、よけい、そんな欲求に駆られてしまった。誇張を避ける彼の美学は理解できるのだけれども。(丘山万里子)

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