Concert Report #622

ウィル・リー・ファミリー feat.
スティーヴ・ガッド、チャック・ローブ、ジュリオ・カルマッシ & オリ・ロックバーガー
Will Lee’s Family featuring
Steve Gadd, Chuck Loeb, Giulio Carmassi and Oli Rockberger
2013年12月4日(水) 21:00 コットンクラブ東京 Cotton Club Tokyo
Reported by 神野秀雄 (Hideo Kanno)
Photos: Courtesy of Cotton Club, by 米田泰久 Yasuhisa Yoneda

Will Lee (b,vo)
Steve Gadd (ds)
Chuck Loeb (g)
Giulio Carmassi (keyb,vo,tp,ts,perc etc)
Oli Rockberger (keyb,vo)

Intro - A Hard Day's Night
1. Quack!
2. Fooled Him
3. I Came To Play
4. I Know Too Much (about Sadness)
5. If You Wanna Boogie
6. Don Grolnick medley
7. Papounet's Ride
8. Watching The River Flow

Enc) Smile (will & chuck)
Shoppin'‘round Again         

スティーヴ・ガッドが2013年後半、3つのバンドで続けて来日した。ボブ・ジェームス&デヴィッド・サンボーン、スティーヴ・ガッド・バンド、そして締め括りがウィル・リー・ファミリー。今回、行くかどうか迷ったが、前日にコットンクラブのウェブサイトにあるメッセージ・ビデオを見て、ヴァーチュオーゾたちのコミカルなトークに、何か凄いことが起こる予感がして来てしまった。ウィル・リーにはそれほどなじみがあるわけではなく、矢野顕子トリオでのベースプレイが大好きという距離感で、リーダー・ライブに出かけるのは初めて。予備知識もほぼない。
まずお目当てのスティーヴ。スティーヴ・ガッド・バンドのレポートに「歌うドラムに酔う」と書いた。だが、ウィル・リー・ファミリーでのスティーヴのドラムは「歌わない」。もうシンプルにビートを叩き出すのが楽しくてしょうがない、という風だ。
ウィルのベースが弾き出す軽妙な楽しさに溢れたグルーヴ。言うまでもなくベースの表現の幅は、あまりに広く、全音符の中の微妙な音程と音量の揺らぎの中にさえ強烈なグルーヴを秘める。あえてかっこいいと言ってしまうが、ウィルの声質がまたそのベースにうまく載る。そしてベーシストが歌うのではなく、素晴らしい曲を書きベースも弾くシンガーソングライターである。そういえば、エスペランサ・スポールディングも天使の声とベースで自由自在にサウンドを作るという点で共通することに思い当たる。そんな優れた才能を持つウィル・リーだが、『Love, Gratitude and Other Distractions』が、20年ぶりのセカンド・ソロアルバムということには驚かされた。それは完璧な音を求め、それが実現したのが今ということだろうか。
チャック・ローブのブルース・フィーリングに溢れてファンキーで巧みな、しかしブルージーになりすぎない軽快な音がステージを飛び交う。チャックを初めて聴いたのは『スタン・ゲッツ/ホワイト・ヒート』での渋めのプレイだったし、フォープレイでの演奏とも違う。ファミリーでの音はとても好きだ。そしてウィルと一緒にステージから客席まで走り回ったりもする。
行くまでメンバーであることに気がついていなかったのが、ジュリオ・カルマッシ。じぇじぇじぇ、パット・メセニー・ユニティ・グループに迎えられたマルチプレイヤーがこんなところに。どんなミュージシャンかと楽しみにしていたら、まさか、いきなり目の前にいるとは。パット・メセニーは、彼は単なるマルチプレイヤーではなく、すべての楽器に世界最高のミュージシャンと対等のデュオが可能なプレイヤーだと言い、べた惚れで、ユニティ・バンドをユニティ・グループに発展させ、パット・メセニー・グループに替わるかもしれないレギュラー活動に踏み切らせたのは、ジュリオの存在が大きかったのではないかと思う。実際、キーボードをメインにしつつ、トランペットとテナーサックスも吹いていたが、いずれも本物だった。テナーサックスは、速吹きをするでもなく、似てる訳でもないのだが、何かマイケル・ブレッカーが持っていたようなスピリッツとの共通点すら感じる。ただものではない。そもそもパットが言っていた「友人のウィル・リーの推薦でレーダーに引っかかった」ところで、『Love, Gratitude and Other Distractions』からはパットによく似たギターが聞こえてくるのだが。
キーボードとヴォーカルのオリ・ロックバーガーは、ウィルの声との相性がよい。『Old Habits』というリーダーアルバムを聴いてみるとウィルの感性と近いことがわかる。ファンキーで洗練されたキーボードがファミリーのサウンドにエネルギーを加えている。
アンコールでは、ウィルとチャックによる、チャーリー・チャップリン作曲の<Smile>。ハーモニックスを駆使したベースプレイが素晴らしく、チャックのギターが寄り添う。『Love, Gratitude and Other Distractions』では最後の一曲だ。そして一転、24丁目バンドの<Shoppin'‘round Again>で盛り上がり、ウィルとチャックが会場を走り回り、後方のいつもはワインが置いてあったりするセンター・ボックスシート端っこの台に、左右に分かれて登って弾く。それも自然で嫌らしさがない。まして息が切れたりもしない。
この徹底して気持ちのよいやんちゃ感とグルーヴの共存。世界最高の名手が揃っているのに、高校生ロックバンドのようなやんちゃで爽やかで楽しい感覚が溢れ出る。もはやバンドではないファミリーの底抜けの楽しさが観客にダイレクトに届く。ショーが終わった瞬間、今年の最高のライブのひとつではないかと思った。ウィルにこのファミリーのライブはアメリカで聴くことはできるんですか?ときくと、「こんな忙しいメンツ揃うわけないっしょ。」しかもブルーノート東京よりもコンパクトで、ミュージシャンとの距離が近いコットンクラブで、特別な時間を共有できたことを嬉しく思った。(神野秀雄)

【JT関連リンク】
スティーヴ・ガッド・バンド feat. マイケル・ランドウ、ラリー・ゴールディングス、ジミー・ジョンソン&ウォルト・ファウラー
http://www.jazztokyo.com/live_report/report594.html
『スティーヴ・ガッド・バンド/ガッドの流儀』
http://www.jazztokyo.com/five/five1027.html
Pat Metheny Unity Band
http://www.jazztokyo.com/live_report/report537.html

【関連リンク】
コットンクラブ東京 公演ウェブサイト
http://www.cottonclubjapan.co.jp/jp/sp/artist/will-lee/
ウィル・リー 公式ウェブサイト
http://willlee.com
スティーヴ・ガッド 公式ウェブサイト
http://www.drstevegadd.com
チャック・ローブ 公式ウェブサイト
http://www.chuckloeb.com
ジュリオ・カルマッシ 公式ウェブサイト
http://giuliocarmassi.com
オリ・ロックバーガー 公式ウェブサイト
http://www.olirockberger.com



Love, Gratitude and Other Distractions

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#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
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#10 Contents
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