Concert Report #625

りゅーとぴあ開館15周年記念公演
りゅーとぴあカルテット・シリーズNo.29
ショスタコーヴィチ・マラソンコンサート
ショスタコーヴィチ弦楽四重奏曲全曲演奏会
2013年12月7日
新潟市芸術文化会館りゅーとぴあコンサートホール
Reported by 伊藤博昭(ゲスト・コントリビュータ)

アトリウム弦楽四重奏団
アレクセイ・ナウメンコ(vn)
アントン・イリューニン(vn)
ドミトリー・ピツルコ(va)
アンナ・ゴレロヴァ(clo)

セッション@ 11:00〜12:40
  第1番 ハ長調 op.49
  第2番 イ長調 op.68
  第3番 ヘ長調 op.73
セッションA 13:30〜15:10
  第4番 ニ長調 op.83
  第5番 変ロ長調 op.92
  第6番 ト長調 op.101
セッションB 15:50〜17:10
  第7番 嬰へ短調 op.108
  第8番 ハ短調 op.110
  第9番 変ホ長調 op.117
セッションC 17:50〜19:15
  第10番 変イ長調 op.118
  第11番 ヘ短調 op.122
  第12番 変ニ長調 op.133
セッションD 20:20〜22:00
  第13番 変ロ短調 op.138
  第14番 嬰ヘ長調 op.142
  第15番 変ホ短調 op.144         

ショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲、全15曲を一日で連続演奏するという、破天荒なコンサートが開催された。演奏するのは、作曲者ゆかりのサンクトペテルブルグ音楽院の学生で、2000年に結成された今注目のカルテット、アトリウム弦楽四重奏団。

ショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲といっても、ほとんど聞いたことがなく、この4月、『ラ・フォル・ジュルネ 新潟』で、名門「ボロディン弦楽四重奏団」による、6番、8番、10番を初めて聴き、また、先月日本の俊英「カルテット・エクセルシオ」による8番を聴いたのだが、そもそも室内楽のコンサートなんぞほとんど聞いたことのない私である。

当日頒布されたプログラムには、大木正純氏の楽曲解説が、また中田朱美氏による時代背景の理解に役立つ年表があり、門外漢の私には、大いに助けになった。以下随所に引用させていただく。

さて、弦楽四重奏曲1番が書かれたのは、32歳の年になってからだという。学生時代に交響曲1番を書いたのに比べてだいぶ後になってのこと。その頃第5交響曲の成功により、粛清の嵐を乗り越えたさわやかで明るい気分に満ちた曲で、作曲者自身“春の曲”と呼んだという。その6年後、第7番交響曲で世界的名声を獲得しての2番、さらに2年後の3番を経て、それ以降の12曲は比較的間断なく作曲され、それを続けて全15曲聴くことになった次第。それぞれに時代を重ね合わせ、また作曲者の境遇とも重ね合わせて順に聴いていくというのも、同じ20世紀を生きた我々にとっても、意義あることだろう。

コンサートは、3曲ずつ5回のセッションに分けて上演されたが、正直なところ、最後の頃には、最初の曲の印象はかなり薄れてしまっている。
その中では、堂々たる規模の2番、たびたび演奏される8番、そして最後の15番がとくに印象的だった。

常々、ショスタコーヴィチは、メロディが書けない人だと思っていた。第7交響曲の『戦争の主題』が、あまりに陳腐だといわれて、バルトークの『管弦楽のための協奏曲』が引用され、揶揄されたのは有名な話だ。彼に多大な影響を与えたマーラーは、それこそメロディつくりの名人だったのにである。ところが最後の15番を聴いて、もしや?と思った。
この人は、書けないのではなく、そういった歌を、あるいは感傷的なメロディを拒否しているのではないか? と思ったわけである。最後の15番は舞台を暗転して演奏されたが、アダージオ楽章が6つ間をおかずに35分。この中で歌といえるようなメロディ・ラインはなく。4つのラインがあるいは寄り添い、反発しあい、干渉し、時として一瞬重なり合って、時間と空間を構成していく。今では死語となった(?) 社会的リアリズム、中野重治の詩を思い出した。これは小生がなれ親しんだジャズ、すなわち歌謡性、舞踊性、即興性から成り立つ音楽とは対極をなす、緻密に計算された時間と空間であって、ここでは一切の感傷的なメロディが排されて成り立っているように思えた。
そうなるとDmitry Schostakovichのイニシャル、D、S(Es)、C、H、すなわち、レ、ミ♭、ド、シ、の音型が使われているハ短調の8番が妙になまめかしい。

1800人収容のコンサートホールに聴衆はわずか100名ほど。午前11時から午後11時まで、このぜいたくな時間と空間を共有したあと、私はふと長距離フライトから解放された乗客のように感じつつ、古町の馴染みの酒場へ。流れていたKenny Gが妙に心地よかった。

伊藤博昭(いとう・ひろあき)
東京世田谷生まれ。東京教育大米文学専攻。都内でジャズ・マネジメントに従事していたが、家業を継ぐため新潟に移住。ジャズ・ピアノをたしなむ。

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