Concert Report #627

小曽根真 クリスマス・ジャズナイト
2013年12月12日 文化村(渋谷)オーチャードホール
Reported by 悠 雅彦 (Masahiko Yuh)

小曽根真 piano
ブランフォード・マルサリス (ts,ss)
ジェフ“テイン”ワッツ (ds)
クリスチャン・マクブライド (b)         

<Jazz Is Alive !!>。プログラムを開くと小曽根自身が寄せた簡潔な挨拶文の見出しが目に飛び込む。その中の「この10年余、クラシック音楽と真剣に向き合った事であらためてジャズを奏でる喜びに感動しています」という彼の言葉には、いささかの偽りも誇張もないはずだ。ジャズを演奏する、その喜びが大爆発したかのようなコンサートだった。
 オーチャードホールで行われる3年ぶりという小曽根真のクリスマス・ジャズナイトの夕べ。お留守にすることが少なくなかったジャズと真摯に向かい合い、ジャズへの変わらぬ愛情を素直に出したい気持をあらわしたいという思いが強く働いたからか、あるいは3年ぶりということもあって久々に気心知れたミュージシャンと理屈抜きの演奏を楽しみたいと考えた結果か、今回はバークリー在学時代の親しい仲間の1人だったブランフォード・マルサリスを招いての豪華な一夜となった。マクブライドとワッツとはトリオを組み、すでにCD『マイ・ウィッチズ』も発表し好評を博しており、昨2012年の<東京ジャズ祭>での聴衆を歓喜させた熱演は記憶に新しい。ブランフォードとはバークリー音大で親しく交流した間柄であり、またワッツもバークリー時代の仲間の1人だった(マクブライドはジュリアード音楽院出身)こともあり、それ以上にわが国のジャズ・ファンには彼が90年代初頭、ブランフォードの当時の最強クヮルテットになくてはならぬドラマーだったということも手伝って、まさに気心の知れた面々がこの日本に集まって再会を喜びあう格別な一夜となった。それが、この一夜の快演を生む最大のファクターだったことはもはや疑う余地はない。
 ファンの期待が大きかったことは場内の熱気で分かる。それかあらぬか客席はほぼ満員で、空いていた席も演奏が進むにつれてすべて埋まった。この広いオーチャードが超満員とは。あらためて目をみはった。
 舞台も客席も真っ暗な中、スポットライトで浮かび上がった小曽根のソロで幕が開く。何かしらドビュッシーの「沈める寺」を思わせる幻想的ニュアンスが反響する。次のワルツを提示したところでワッツがスポットを浴びる。ついで登場したマクブライドがベースを弾き出した瞬間の、思わずぞくぞくっとした快感。そう滅多に味わえるスリルではない。3者が顔を見合わせたりすることは皆無。黙々と、しかし自信溢れる力強いトリオのプレイは、有無を言わさぬ説得力で聴くものを喜びの渦に誘い込む。
 4曲目からブランフォードが登場。この夜の演奏曲の大半は小曽根がマクブライドとワッツで吹き込んだ先掲作からの自身のオリジナル曲で、たとえば、「バウンシング・イン・マイ・ニュー・シューズ」での演奏の喜びがジャズならではのノリを生むけれん味のないスウィング感だけでも、彼らの一期一会の喜びが手に取るように分かる。トリオだけでも隙なし、無駄も逡巡もいっさいなし、野暮なプレイは微塵もないという、ナイナイ尽くしの演奏の妙は、ブランフォードが入って以後も変わらない。4者の呼吸がこれほどピタリと合い、音の動きがスリリングな「テイク・ザ・テイン・トレイン」でも何一つの乱れもないのが、むしろ不思議なくらい。むろんブランフォード自身の音楽とは趣きを異にするが、それだけの柔軟な思考と洗練性が彼にはあるということだろう。気の合う親しい仲間との会話をこれだけ自由に楽しむ度量が彼の魅力でもある。思わず聴きほれたのは彼のソプラノをフィーチュアした「パンドラ」。小曽根が彼のソプラノに惚れ込んで書いた曲だというが、彼のソプラノ演奏は泣けるほどに素晴らしい。ソプラノでクラシックのアルバムを吹き込んだブランフォードならではの、当夜唯一の感動的バラードだった。
 第2部で演奏者たちが客席後方から現れて観客とじかに親しく触れ合うアイディアなど、演出、照明も申し分なし。アンコール曲は表題にちなんでの古い「レット・イット・スノウ、レット・イット・スノウ、レット・イット・スノウ」だったが、再登場して演奏したXマス・キャロル「聖夜」では聴衆も唱和。そして爆竹とともに金のテープが場内を蝶のように舞う幕切れへ。人々の喜びの笑顔が弾け飛ぶ素敵な一夜だった。(悠 雅彦/2013年12月15日記)

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FIVE by FIVE 注目の新譜


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追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
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#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

INTERVIEW
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義

CONCERT/LIVE REPORT
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
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