Concert Report #632

アンドレアス・シュタイアー プロジェクト8

2013年12月11日 トッパンホール
Reported by 丘山万里子
Photos by ⓒ大窪道治/提供トッパンホール

<演奏>
フォルテピアノ:アンドレアス・シュタイアー
ヴァイオリン:佐藤俊介
<曲目>オール・モーツァルト・プログラム
フォルテピアノとヴァイオリンのためのソナタ ハ長調K303(293c)
フォルテピアノ・ソナタ第8番 イ短調K310(300d)
フォルテピアノとヴァイオリンのためのソナタ ホ短調K304(300c)
「ああ、私は恋人を失った」の主題による6つの変奏曲 ト短調K360(374b)
フォルテピアノとヴァイオリンのためのソナタ ニ長調K306(300l)
<アンコール>
モーツァルト:フォルテピアノとヴァイオリンのためのソナタ 変ホ長調より2楽章
<使用楽器>
フォルテピアノ:アントン・ワルター(1800年頃/ウィーン)の複製
ヴァイオリン:2009年製シュテファン・フォン・ベア
        

 フォルテピアノとチェンバロのスペシャリストとして国際的に活躍するアンドレアス・シュタイアーが2006年からトッパンホールで行ってきた<アンドレアス・シュタイアー プロジェクト>。今回はソロでのベートーヴェンの夕べ(12月4日)に引き続き、ヴァイオリンの佐藤俊介を迎えて全モーツァルトのプログラムを組んだ。佐藤はジュリアードからパリを経て、ミュンヘンでバロック・ヴァイオリンを学んだ若手のホープ。現代作品にも卓抜なセンスを示す奏者だが、モダン、バロックの両者をこなし、古楽アンサンブルとも共演など、活動の幅を拡げている。
 1777年秋からおよそ1年半にわたるモーツァルトの「マンハイム=パリ」旅行の間に書かれた4作品を中心とし、冒頭と締めくくりに長調の曲を置き、なか3曲を短調でまとめている。宮廷楽団への就職活動の一方で、旅にうつろうモーツァルトの心象風景が浮かんでくるような選曲である。
 『ハ長調ソナタ』は典雅なフォルテピアノと質朴なヴァイオリンの音色がしっくり溶け合い、華やぎのなかにも落ち着いた色合いを見せる宮廷画の趣。濃やかな装飾がレースのように楽句を縁取り、メヌエットの優美が宙を舞う。モダンでの佐藤の超絶技巧を知る筆者には、こういう音世界での彼ののびやかな呼吸が実に新鮮に映る。続くシュタイアーのピアノ・ソロ『第8番イ短調』はパリでの母の死とともに語られることの多い作品だが、モーツァルトの「疾走する哀しみ」(ゲオン)がひたひたと胸に迫る演奏。玉を転がすような俊足のフレーズの連なりの合間からわずかに滲み出す哀感が透明な響きに一瞬の影をつくる第1楽章。第2楽章のカンタービレ、細密にほどこされる陰影にシュタイアーの卓越した楽器コントロールが見て取れる。ときにガラス細工のように輝き、ときに鈴を振るような声音で語り、ときに乾いた響きで微笑んでみせ、とその豊かな彩色には耳を奪われる。プレスト楽章の疾駆に伴走する切なげな表情は、モーツァルトの瞳に宿るある種の虚無を映し出すようだった。
 プログラム中、ただひとつウィーン時代の作品である『6つの変奏曲』は、いかにも愛らしく、一つだけ含まれる長調の変奏のそこだけふっと日向に歩み出たような明るさが印象的。他の2曲のヴァイオリン・ソナタ、いずれもシュタイアーの変幻自在の音と、これに多彩なニュアンスで応える佐藤のヴァイオリンの紡ぎ出す楽興の時を堪能。最後の『ニ長調ソナタ』での終楽章の両者のカデンツァと親密な呼び交しはとりわけ魅力的だった。
 モーツァルトの青春の旅、その光と影が交錯する優れたプログラミングと演奏に拍手。

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