Live Report #633

“Umbria Jazz”winter #21
イタリア・ウンブリア・オルビエト

2013年12月28日〜2014年1月1日
text and photos: 伊藤秀治 Hideharu Itoh

真冬にジャズ・フェス、これだけで胸ときめきますねぇ。“ときめく”なんて言葉があまりにも似合わない歳になって、敢えて使いたくなる気持ち、長年ジャズと付き合っていると理解いただけそうな気がするのですが如何ですか。
2013年12月28日〜2014年1月1日、街はオルビエト(orvieto)、オルビエト駅の前のケーブルカーで街に入ります。高台の小さな街はジャズ一色に染まっているという感じです。
でも、歩いているとどこでも鳴っているという程ではないのです。ただ、音のない街角をちょっと背を丸めて歩いていると、シーンと冷えた空気をかいくぐってジャズが鳴ってきているような...、だから寒い中歩いていることがいい気分なのです。バカ騒ぎすることもなく、各会場も含めて“静かな高揚”という感じで新鮮です。“冬”が演出しているんですね、これは。

それほど有名な人が出ていないというのも、聴く姿勢に寄与してくれているいい要因です。大好きなジャズが、“何”と融け込んで行くか。街ゆく人々?、石造りの街?、ジャズが生まれていなかった頃からの石畳?、ワイン or カフェ・ラテ?、はたまたテイクアウトのピザ?。そして、それらの延長線上で、会場の席でステージを聴く。そこで生まれた聴く姿勢は“素で聴くジャズ”。そこには知名度のあるアーティストはいらない、却って居ないほうがいいいいのかもしれない。
オーディエンスの穏やかな高揚感が伝わってくる会場の空気。それは、会場がオペラハウスであれ、レストランであれ、・・。パフォーマンスの起伏にあまりにも自然な反応、過度に「ノッてるぞー」なんて奴はいない。そこには、ミュージシャンのインタープレイが浮き彫りにされてくる。聞こえないものまで聞こえてくるなんてことも生じるのかもしれない。耳をそばだてると隠れた感動をも引き出すということに自然つながってくる。オーディエンス自らがその環境を無意識に作り上げている。聴き上手だ。
それを、折角のそれを、主役のパフォーマンスが壊したら何にもならない、PAが壊したら何にもならない。お見事 !! 全く裏切らない、すべての会場で。

最も大きく感じたことは、「なんともいい気分ですよ、是非 行ってみてください」ということです。ですから、コンサート評的なことは一切書きません。たかが私ごときちっぽけな独りが聴いて感じたというだけのことですから、いい気分が味わえたという自分の思い出の中にしまっておきます。それだけに、お勧めすることとしては「行ってみてください」ですから、このあとは、行こうと思ってくださった方々のために旅の手引きとなっていただけるものになるか挑んでみます。

ローマ、フィウミチーノ空港(Fiumicino Aeroporto)からスタートでいいですか。
空港から国鉄で行くのには一度乗り換えが必要です。空港とローマを繋ぐレオナルド・エクスプレス(Leonardo Express)という列車が30分間隔でありますので、それでローマ・テルミニ駅(Roma Termini)に向かってください。ひと駅です。約30分です。空港駅での切符購入では、レオナルド・エクスプレス使用でオルビエトまでみたいなことを言ってみてください。たぶん、一番直ぐのレオナルド・エクスプレスに乗った場合にテルミニで乗り継ぎのいい列車の切符を用意してくれると思います。テルミニ〜オルビエト間は急行だったり鈍行だったりすると思います。テルミニでのオルビエト方面行きのホームはその都度変わる可能性がありますのでレオナルド・エクスプレスが着いたテルミニ駅のホームにある案内ボックスで聞いて確認してください。オルビエトまでは列車によって1時間から1時間半ぐらいです。車内放送はないでしょうから駅毎にホームの駅名を読み取っていてください。
実はローマの街なかに入って行かずに乗り換えて行く方法もあるのですが、その乗り換え駅では表示がほとんどなく、駅員さんが全くいないので、とても厄介ですから、一番旅行者対応になっているレオナルド・エクスプレス使用でテルミニ乗り換えをお勧めします。

さて、オルビエト(Orvieto)到着ですね。
駅を降りると目の前にフニコラーレ(ケーブルカー)の駅が見えます。フニコラーレ(Funicolare)は1ユーロちょいです。3分で到着です。運行時間が7:20〜20:30(休日8:00〜)で、それ以外は駅前から街なか行きバスがありますが、高台の街オルビエトへは明るいうちにフニコラーレで入りたいですね。気分が高まります。街なかのホテルへは少し頑張ればフニコラーレの駅から全部歩いて行けます。石畳の坂が多いですが、長旅の最後を徒歩でシメるのはいいもんですよ。空港からオルビエトまでの移動にもたっぷり時間を用意して、しかもオルビエトに明るいうちに着くタイム・スケジュールをお勧めします。

ここで、ホテルに関してのことを。
先ずは、この期間はやはりどこも早くから埋まってしまうようです。と言って、どのくらい前に予約したらいいかというのは何ともお答えしようがありません。ただ最近はブッキング・サイトがとても便利で、みな埋まってしまっている状態になってからでも毎日ブッキング・サイトを覗きに行っているとポロリと出てきたキャンセルを拾いあてることができたりします。地図を見ると、高台という感じは読み取れませんが、道路の固まり具合でまさにクシャッと纏まった街だというのが分かります。その纏まった枠の中に入っているホテルでしたら、どの会場にも容易く行けます。治安も含めて深夜にホテルに戻るのも全く問題ありません。(もちろん日本よりは注意するようにというのは当然ですけど)
お勧めは断然“La Magnolia”です。女性オーナーの気遣いがいろいろなところに表れています。ブッキング・サイトで確認して直接メールしてしまうのもいいと思います。

ホテルにチェックイン後、もし直ぐに観たい公演があるというのでなかったなら、先ずザックリと街をひと回りしてみませんか。1時間もあれば大筋街状況が掴めます。そして、オフィシャル会場の位置を地図上に落とします。そして、その時にも既にさりげなく生も鳴らしているレストランの前を通りかかるのかもしれません。

オフィシャル会場をお知らせします。

♫ MUSEO EMILLIO GRECO
いい雰囲気を演出してくれている美術館です。Duomoの隣。
♫ SALA EXPO/PALAZZO DEL POPOLO
PALAZZO DEL POPOLOの1階にあるイベント空間で立ち見。隅にはバーがあります。
♫ TEATRO MANCINELLI
こんな小さな街にも在ることに驚かされるオペラ劇場です。
♫ SALA DEI 400/PALAZZO DEL POPOLO
PALAZZO DEL POPOLOの2階にあるコンサート・ホール。
♫ PALAZZO DEI SETTE
建物の中庭のような所で飲み物も頼める会場。だが、翌日には綺麗に片付いて何も無くなっていたのには驚きです。
♫ SALA DEL CARMINE
イベント空間で座席が組めるようになっている造りなのでここでは着席コンサート。
♫ RISTORANTE AL SAN FRANCESCO
オフィシャル会場としてのリストランテのようです。広くて、ランチはビュッフェ・スタイルにしています。



オフィシャル会場とは別に、いくつかレストランでは個々にライブを企てたりしています。屋外だったり中だったり。上手く見つけて食事のタイミングをそこに合わせるのも楽しいです。

そして、パレード演奏はほぼ毎日あると思います。今後も毎年ありそうな気配です。

カウントダウンは、身体は1つですので1ヶ所しか居られないですが、これは “SALA EXPO/PALAZZO DEL POPOLO” での “31 Dicembre 2013〜1 Gennaio 2014”です。


各公演のチケットは、もしもネットのプログラムから明快に聴きたいアーティストを見つけた時には、また、カウントダウンの時にどこに居たいか、とかいう希望があった場合は、ネットでの購入をしておいたほうがいいでしょう。ただ、ほとんど決めてなくて行き当たりばったりで空きがあったら入る、入れなかったら街をブラブラしてる、そんな過ごし方をずっとしているというのも悪くないですよ。そんなことも Umbria Jazz winter の魅力です。
ジャズ三昧の日々であったとしても、午前中とか移動の時に街を十分楽しめますが、期間の前や後にちょっと日にちを用意するのもいいですよ。イタリアで最も綺麗な街という言われかたもしています。ただただのんびり歩き回るのも...。街の端っこに行くと一周どこからも綺麗な眺めです。

とは言うものの、ローマを飛び越えて田舎街に行くなんて人はそうそう居ないでしょうが、ジャズ好きにだけくれたスペシャルな旅だ!!、と、一度企ててみませんか。

というわけで、フニコラーレでオルビエトとお別れです。

ジャズに関わっている者として思ったことを、最後に、少しだけ。
ピアノとトランペット、サックスとドラムスといったデュオが、この編成だからといってアバンギャルドになり過ぎないということ、そして、普通にお客さんが集まるということ、羨ましく思いました。
PAが押し付けがましく鳴らすことはないことは当然として、石造りの建物の弊害をもろともせず、生音重視でのコントロールの中にその響までも巧みに利用しているということ、羨ましく思いました。
街ゆくパレード・ビッグバンドの生音が抜群にいいです。感じた要因は2つ、1つは石造りの街角が生み出す響でしょう。歩きながらの演奏なので定在波を生む間を与えずに行くんでしょうね。もう1つは、エレキ・ベースがブラス・アンサンブルに馴染まないことを感じますが、ここではスーザフォンですからアンサンブルが爽快です。質感の統一がここまで気持ちよくさせてくれるもんなのだ、と感動でした。
街中が鳴っているジャズ・イベントの場合、「街中が」とやるが故に「どこでも鳴っている」を実現させるためにアマチュアの起用も含めて全体にクウォリティを保つことに苦労する訳ですが、ところが、どこで鳴ってる音も上手いんです。いい音なんです。

さて、1年後の“Umbria Jazz” winter #22 は、2014年12月28日から2015年1月1日です。

http://magazine.umbriajazz.com/notizie/umbria-jazz-winter21-a-orvieto-dal-28-dicembre-201

伊藤秀治 (いとう・ひではる)
“3361*BLACK”、山中湖を本拠地とするアコースティック・プロジェクト。レーベル、コンサート、イベント、施設構想、他、すべてアコースティックに徹するプロデュース。
http://3361BLACK.com

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#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
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第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


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