Live Report #635 |
エリック・ミヤシロ EMビッグバンド |
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エリック・ミヤシロ率いるEMビッグバンド恒例の年末ライヴ。ファーストコールのミュージシャンたち、それぞれにリーダー活動を行っていて、一癖も二癖もありそうな個性的な顔ぶれが集結した日本最強のビッグバンド。とくに管楽器の世界では憧れの的だ。年末にこのメンツのスケジュールを調整するだけで奇跡に近い。エリックはホノルル出身で、バークリー音楽大学卒業後、22歳でバディー・リッチ、ウッディ・ハーマンにリード・トランぺッターとして招かれ5年間世界を旅した後、日本に演奏の場を移す。日本に移ってからの仲間たちと、さまざまな編曲や作品を持ち込みながら続けてきたビッグバンドが今のEMバンドになる。
1989年のカルガリー冬季オリンピックのためにフォスターが作曲した<Winter Games>から始まる。秋にブラジルから招聘された際の印象もこめて演奏された<Knee Deep in Rio>。エリックも強く影響を受けているボブ・ブルックマイヤーの編曲で、イリアーヌ・イリアスの<Just Kidding>を。ボブは編曲の理論を学んだ上で、それを壊すことで表現の幅を広げる「グラインド」という手法を用いているという。Gordon Goodwin Big Phat Bandのレパートリーから<Backrow Politics>で最高のトランペット・セクションが繰り広げるトランペット・バトル。エリックの友人で米軍のバンドにいたマイケル・ブックマンもゲストで参加。ジャコ・パストリアスが初めて編曲したという<Domingo>で前半を締めくくる。
後半は、エリックの過去5枚のアルバムから1曲ずつたどるという企画。<Kick Up>はタモリに気に入られて「ブラタモリ」のテーマ曲に採用されている。<Ken’s Bar>は、事務所「キックアップ」の佐々木賢作社長がバーのオーナーだったらこんな音楽が流れるのではと考えた一曲。<Times Square>は、ニューヨークでのIAJE (International Association of Jazz Education)に小曽根 真 featuring No Name Horsesが招かれた際に、家族で訪れたタイムズスクエアで感じた幸せな気持ちを表現したハーモニーの美しい曲で、アルバム『Times Square』は、STB139での録音だっただけに特別な想いで聴くことができた。なお、EM BandとNo Name Horsesは共通のメンバーも多く、そのニューヨークでの時間を共有している。
2006年、エリックが師と仰ぐメイナード・ファーガソンが亡くなり、エリックは心の支えをなくしたと感じたと言う。その後、ハワイでドルフィン・スイムをするようになり、イルカからインスピレーションを受けるようになり、心が救われて前に進むことができるようになったと言う。ハイスクールのときサーフィンに出かけて、サメの群れに囲まれたときにイルカに救われこともあった。そして生まれた曲が<Pleiades><Sky Dance>であり、躍動感と親近感の溢れた曲とその演奏を心から楽しむことができた。
当時の曲を演奏するとその頃の想いが甦ると言っていたが、すべての曲に一貫した優しさと穏やかさがあり、わかりやすいメロディーを持ち、かつ心地よいテンションを含んだハーモニーがあり、それはぶれることがない。以前、塩谷哲が「音楽には怖いほど人柄が出てしまう」と強調していたが、まさにエリックの人柄が隠さず曲に出ているし、演奏の内容と構成からもメンバーと観客への暖かい想いが見える。
エリックはハイノート・ヒッターと呼ばれることが多く、高音域を多用するとだけ誤解されることも少なくないが、エリックの本質は超高音から低音まで豊かな音楽を生み出す表現力にある。そして作編曲者として新しく美しいハーモニーと躍動感のあるメロディーを生み出す能力は素晴らしく、2014年1月のブルーノート東京オールスタージャズオーケストラでの編曲ではさらに一歩先へ進んだように感じた。
このレポートではアンサンブルの妙や、そのグルーヴを支えるリズム・セクションの巧みさ、各プレイヤーのソロの素晴らしさには触れなかったが、それはもう書くまでもなく当然という領域にあるからだ、しかし、単に巧い職人がそろっているというだけの意味ではなく、この人の存在がなければEMバンドらしくないという、それぞれがバンドの顔になっていることを強調しておきたい。たとえば、バリトンサックスが宮本大路でない場合、バンドのサウンド全体が違って聴こえる。他方、編成に硬直性があるということでもなく、若手に参加の機会を与えたり、超一流のゲストプレイヤーを招くことでケミストリーを起こし、ミュージシャンと観客に大きな刺激を与えたりするのもまたEMバンドの凄さと魅力だ。
年末なのでしめやかにと<蛍の光>が演奏されたが、やはり最後は<Gonna Fly Now>つまり<ロッキーのテーマ>で賑やかに終え、2013年を締めくくる素晴らしいライヴとなった。
【関連リンク】
Eric Miyashiro オフィシャルウェブサイト
http://www.ericmiyashiro.com/
【JT関連リンク】br />
ブルーノート東京オールスタージャズオーケストラ
http://www.jazztokyo.com/live_report/report636.html
Sky Dance
Pleiades -Tribute to Maynard Ferguson-
Times Square - Live at STB139
City of Brass
Kick Up
追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley
:
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣
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JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi
#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報
シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻
音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美
カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子
及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)
オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美
ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)
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#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義
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#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄
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