Live Report #636

Blue Note Tokyo All Star Jazz Orchestra directed by Eric Miyashiro with special guest Arturo Sandoval
ブルーノート東京オールスター・ジャズ・オーケストラ directed by エリック・ミヤシロ with special guest アルトゥーロ・サンドヴァル

2014年1月6日(月) 21:30 7日(火) 21:30 ブルーノート東京
Reported by Hideo Kanno 神野秀雄
Photos by Yuka Yamaji

ブルーノート東京オールスター・ジャズ・オーケストラ:
Eric Miyashiro(cond, tp, flgh, piccolo tp)
Arturo Sandoval (tp, p, perc, vo)
本田雅人(as, ss)、小池修(ts)、吉田治(ts)、本間将人(as, ss、1/6のみ)、近藤和彦(as, ss, 1/7のみ)、山本拓夫(bs、1/6のみ)、宮本大路(bs, 1/7のみ)
奥村晶(tp)、佐久間勲(tp)、西村浩二(tp)、菅坡雅彦(tp, 1/6のみ)、岡崎好朗(tp 1/7のみ)
中川英二郎(tb)、片岡雄三(tb)、五十嵐誠(tb)、山城純子(bass tb)
林正樹(p)、納浩一(b)、岩瀬立飛(ds、1/6のみ、1/7のアンコール)、大坂昌彦(ds、1/7のみ)

1. Trains (Mike Mainieri / Arr by Eric Miyashiro)
2. The Gathering Sky (Pat Metheny / Arr by Eric Miyashiro)
3. Get Well Soon (Eliane Elias / Arr by Bob Brookmeyer)
4. Domingo (Jaco Pastrius)
5. Funky Cha Cha (Arturo Sandoval)
6. Be-bop (Dizzy Gillespie)
7. And Then She Stopped (Dizzy Gillespie)
8. All the Things You Are (Jerome Kern)
9. Body and Soul (Johnny Green)
10. Things to Come (Dizzy Gillespie)

11. Mambo Caliente (Arturo Sandoval)         

静かにうねりをともなった低音から1曲目が始まり、ブラスのアンサンブルの中でテーマの輪郭が見えてくる。ステップス・アヘッドの『Magnetic』に収められた名曲<Trains>だ。リチャード・ボナ・バンドもテーマ曲のように使っている。もともとマイケル・ブレッカーがAKAI EWI(ウインド・シンセサイザー)を使い複雑なプログラミングでハーモナイズされたテーマを吹くが、ビッグバンドでは当然それぞれの音を各楽器に割り振る。あるときは、セクションに関係なく個人ごとに分かれてばらばらに音が出ているようでもあり、ときに3セクションがそれぞれまとまり違う方向に動きながら、3セクションが絡み合う。個人的にはエリックの秀逸なアレンジに1曲目からひとつのハイライトを感じていた。この複雑だが心地よい動きに魅了されながら、何かに似ていると思いながら思い出せない。2日目に思い当たった。エリックはそう思っていないかもしれないが、私には、イルカの群れの動きが見えた。バラバラに動き、ときにグループで動き、全体で動く。エリックは、ハイスクール時代にイルカに助けてもらったことがあり、また最近では故郷ハワイでのドルフィン・スイムから大きなインスピレーションを受けていると語っている。EMバンドにおける、イルカをモチーフにオリジナル数曲とは別な形で、ステップス・アヘッドの曲の中でイルカからのインスピレーションを見ることになった。
次いで、パット・メセニーの『Speaking of Now』から<The Gathering Sky>。エリックはパットの曲の世界観とストーリーの広がりが大好きだと言う。やはりエリックの素晴らしい編曲のもとで、林正樹(p, keyb)、納浩一(b)、岩瀬立飛/大坂昌彦(ds)のピアノトリオの表現力の高さで成立している。年末のEM バンド・ライブでも、イリアーヌ・イリアス作曲、ボブ・ブルックマイヤー編曲のコラボレーションから<Just Kidding>を取り上げていたが、今回は<Get Well Soon>を。ボブの編曲では、正しい編曲法を学んだ上で、正攻法ではやってはいけないことを敢えて行うことで豊かな表現を生み出すという手法「グラインド」を多用するという。ジャコ・パストリアスが、マイアミ大学で編曲を学んだときに初めて書いたビッグバンド曲だという<Domingo>。欲を言えばこの最高のメンバーでエリック自身の素晴らしいオリジナル曲も聴いてみたいところだ。

そしてスペシャル・ゲスト、トランペットのアルトゥーロ・サンドヴァルの登場。かつてキューバのスーパー・サルサバンド「イラケレ」でチューチョ・バルデス(p)、パキート・デリヴェラ(sax)らと演奏し、現在はアメリカを活動の場とし、ジャズ・ミュージシャンとしてはカウント・ベイシー以来となる「自由勲章」をオバマ大統領から授与されている。
トランペットの最初の一音を待っていた観客の期待を気持ちよく裏切り、ティンバレスを叩き始める。今回は新作の『Dear Diz (Everyday I Think of You)』からディジー・ガレスピーの曲を多く取り上げているが、それはアルトゥーロがディジーを尊敬しているという以上に、アルトゥールの演奏からも、むしろディジーがいかにキューバ音楽を愛していたかが伝わってくる。
アルトゥーロもエリックも、ハイノート・ヒッターと呼ばれることが多いが、その実態は低音から高音までどの音域でも豊かに音楽を表現できるという言い方が正しい。とくに驚かされたのはむしろ超低音域だ。チューバ的な音色さえ感じさせるこの低音域でも豊かな表現が成立する。<And Then She Stopped>では、テーマがアルトゥーロとエリックのトランペットのデュオで演奏される。ミュートを使ってのユニゾンも楽しい。
今回のオーケストラの編成は、EMバンド同様に、かつEMバンドとは少し違った顔ぶれだが、現在の日本で最高の管楽器プレーヤーが集結していてそのブラス・サウンドは本当に素晴らしい。自分が中学の吹奏楽から始めて管楽器と関わりのある人生であることをあらためて嬉しく振り返られるほど、管楽器の最高の響きに包まれる至福の時だった。またEQから4人中の最大3人、納浩一(b)、小池修(ts) 大坂昌彦(ds、1/7のみ)が参加している点にも注目したい。幅広い表現力でオーケストラを支えてよい影響を与えており、小池のサックス・ソロも光っていた。またEMバンドのレギュラーから林正樹(p)、岩瀬立飛(ds、1/6のみ)の参加も同様にこれだけの豪華すぎるメンツを支え輝かせるのに大きな役割を果たしていた。

いったんブラス・セクションと林正樹まではけて、アルトゥールはおもむろにピアノを弾き始める。<All the Things You Are>だ。どこまでも柔らかくピアノの後で下降していくコード進行が優しく移ろっていく。穏やかなのにとても新鮮だ。ついで林が戻り<Body and Soul>をカルテットで演奏する。

オーケストラに戻り、再びディジーのナンバーから<Things to Come>。鳴り止まない拍手とスタンディング・オベーションに<Mambo Caliente>で応える。終演するともう23:20に近かったと思う。観客は楽しさに満たされながら足早に家路についた。「オールスター」という企画は、豪華な顔ぶれにも拘らず内容の新鮮さを伴わないことも少なくないが、今回はエリックのプロデュース力と人脈と心意気が遺憾なく発揮されて、国内と海外のミュージシャンを結びつけ、観客を結びつけ、アマチュアで演奏している学生たちにも希望を与えて、未来へつないでいく素晴らしい公演となった。

【JT関連リンク】
エリック・ミヤシロ EMビッグバンド STB139
http://www.jazztokyo.com/live_report/report627.html
このCD2013 海外編『アルトゥール・サンドバル/ディア・ディズ』
http://www.jazztokyo.com/best_cd_2013b/best_cd_2013_inter_05.html

【関連リンク】
Arturo Sandoval ウェブサイト
http://www.arturosandoval.com
Eric Miyashiro ウェブサイト
http://www.ericmiyashiro.com


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