Live Report #639

Yellowjackets

Cotton Club Tokyo January 15, 2014 21:00
イエロージャケッツ@コットンクラブ東京
2014年1月15日 21:00
text by 神野秀雄
photos courtesy of Cotton Club Tokyo by 米田泰久

Russell Ferrante (keyb, p), Bob Mintzer (sax, EWI),
Felix Pastorius (b), Will Kennedy (ds)

1. I Knew His Father
2. Like Elvin
3. Mofongo
4. Mark's Habit
5. Geraldine
6. Claire's Song
7. An Amber Shade of Blue

8. Timeline         

イエロージャケッツのオリジナル・メンバーであったドラマーのリッキー・ローソンが2013年12月23日にロサンゼルスで亡くなった。1977年にロベン・フォードが『The Inside Story』のために集めたリッキー・ローソン(ds)、ジミー・ハスリップ(b)、ラッセル・ファランテ(p, keyb)をメンバーに、1981年に『Yellow Jackets』が生まれた。ロベンはグループを去り、メンバーも変わっていく。以前の来日ではゲストでマイク・スターンが参加していた。2012年、ベースのジミー・ハスリップが健康上の理由で休養し、ボブ・ミンツァーの推薦でジャコ・パストリアスの息子フェリックス・パストリアスが参加、オリジナル・メンバーはラッセル・ファランテだけとなった今回の編成となる。オリジナル・メンバーが少ないことがグループの魅力と存在感を損ねるものではなく、36年にわたり進化し続けてきたバンドだ。なお、イエロージャケットとはスズメバチだ。
新生イエロージャケッツによる初来日公演に会場の期待が高まる。1曲目は最新作『A Rise in the Road』から、ボブ・ミンツァーがジャコ・パストリアスに捧げ、フェリックスのために書いた<I Knew His Father>。2曲目は『Timeline』から<Like Elvin>で、フェリックスがジャコを連想させる速弾きを交えたベース・ソロをとる。全般にアコースティック感の強いコンテンポラリー・ジャズで、ラッセルとボブの曲が多いが、よく練って作られた曲の構造が美しく、高い緊張感を持ちながら奇をてらうことのない上品でクールな演奏が心地よい。ただ、おそらく初日だからだと思うのだが、メンバーそれぞれのグルーヴが少し噛み合わず、パワーが減じられると感じる瞬間があった。翌日撮影された動画を見る限りそれが目立つことはなかったので、初日のコンディションの調整中に限ったことであるとは思う。最後は新作からラッセル作曲の<An Amber Shade of Blue>で締めくくられ、アンコールでは前作のタイトル曲<Timeline>が演奏された。
今回の注目点のひとつとして、ジャコ・パストリアスの息子のフェリックス・パストリアスが参加していることがあげられる。偉大すぎる父を持ち、生まれた時からプレッシャーを感じてきたと認めているが、『Word of Mouth』以降、ジャコの盟友として音楽をともにしてきたボブの下でキャリアを積むことはよいチャレンジになっていると思うし、フェリックスもそう考えて参加したと言う。先に述べたグルーヴに不安を感じる瞬間についても、フェリックスがさらに自信を持ち、バンドの要になっていく中でより安定化されると思う。奇しくも、今年パット・メセニーが血縁という意味の『KIN(←→)』(Nonesuch)をリリースし、その説明にはジャコが参加した『Bright Size Life』(ECM1076)の名前も上がっていた。音楽の世界でも「親の七光り」という以上の実力を血縁が生み出すことは少なくない。刺激的なソロをとるというよりも、全音符の中にも強烈なグルーヴを生み出すような存在としての成長により期待したい。

【追記】ボブ・ミンツァー「サックス&バンド・クリニック」
1月18日、東京・大久保の石森管楽器で、ボブ・ミンツァー「サックス&バンド・クリニック」が開催された。学生を中心に、第一線のサックスプレーヤーまで、立ち見も出る中、テナーサックス2人、ピアノ、ベース、ドラムのクインテットの演奏にコメントする形で、前半はボブ・ミンツァーの<Mosaic>、後半は<All the Things You Are>の演奏にコメントしながら進められた。
ここで強調されていたのは、徹底してディテールにこだわることだった。たとえば、クリニックに参加した学生バンドのピアノが、バッキングで1小節でもコードのテンションを弾かないと演奏を止めて、いかにそれが曲を壊すのかを力説していた。ここではクリニックの詳細を記述するのが趣旨ではないので多くは書かないが。サックスはバンド全体のリズムに責任を持つべきこと。そのコードで使えるスケールを理解せずにソロをとるべきではないこと。フレーズを単なるレガートで吹いては抑揚がなくなってしまう、全体の音量を抑えながら、音の頭にアタックをつけてすぐに減衰させ、テーマの中でもアクセントを巧みにつけながら表現すること。ピアノやドラムを演奏することはとても役に立つ、など日本のアマチュアのサックス吹きの陥りがちな点を捉えながら、非常に貴重なアドバイスを提示していた。スケールについても貴重なアドバイスがあったが、会場のスタンダードなレベルでは必ずしも理解がついていっていなかった感はあり、ボブの期待するほどインタラクティブなやりとりになりきれなかった残念さはあるが、スケールの重要さは伝わったと思う。
コットンクラブの来日公演とリンクする形で、石森管楽器ではこのようなクリニックがたびたび開催されてきた。ミュージシャンが来日する意義、大切なコミュニケーションとして、今後も注目していきたい。
(写真提供: 石森管楽器)

【関連リンク】
Yellowjackets 公式ウェブサイト
http://www.yellowjackets.com/
Yellowjackets Live at Cotton Club on Jan 16, 2014
http://www.youtube.com/watch?v=gOouVz13Bvk&feature=share
Yellowjackets / A Rise on the Road Preview
http://youtu.be/aJpJ0CldrS0

A Rise in the Road
Mack Avenue Records MAC-1073 (2013)
Timeline
Mack Avenue Records MAC-1058 (2011)
Yellowjackets
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