Live Report #642

本田珠也 SESSION

2014年1月21日(火) 新宿ピットイン
Reported by 剛田 武
Photos by 船木 和倖

本田珠也(ds)
近藤等則(electric tp)
灰野敬二(g, air synth, vo)
ナスノミツル(b)         

新宿ピットインで不定期に行われているドラマー本田珠也名義のセッション企画が、昨年1月16日に近藤等則と井野信義(b)を迎えて行われた「本田珠也SPECIAL SESSION」からほぼ1年ぶりに開催された。今回は近藤に加え灰野敬二とナスノミツルという興味深い組み合わせ。

筆者は今まで本田を少なくとも3回観ている。ペーター・ブロッツマン、ケン・ヴァンダーマーク、坂田明、八木美知依などとの共演で、会場は六本木Super Deluxe、新宿ピットイン、渋谷WWWだった。灰野はブロッツマンとは来日の度に共演しているし、坂田明や八木美知依とも共演経験がある。それぞれの会場には何度も出演している。何処かで遭遇していてもいいはずだが、今回が初顔合わせとのこと。

さらに驚いたことに、灰野と近藤等則も初共演だという。それぞれ間章と深い関わりがあり、間が企画するイベントに何度も出演していた二人だが、瞬間的なすれ違いはあっても、真っ向から対峙したことはないらしい。80年代以降もどちらも音楽シーンの最前衛として精力的に活動しているのに、ステージを共にする機会がなかったのは、ロックとジャズという目に見えないジャンルの壁に阻まれたのだろうか。

この微妙な関係の三者を繋ぐキーパーソンがナスノミツルだった。今回のセッション参加に際し、近藤からベーシストを入れたいとの要望があり、それぞれのミュージシャンと交流のあるナスノが抜擢されたという。実際演奏面に於いてもナスノの柔軟なプレイが土台を固めている印象があった。

つまりこの日のセッションは単なる一夜の饗宴ではなく、別々に輝いていた4人の希有の演奏家たちが一堂に会する運命的な邂逅だったのである。というのは後になって判明した事実だが、実際この場に集まった観客は予想を遥かに超える激烈な魂の交感に戦慄することとなった。

平日にもかかわらず全席埋まるほど集まった観客の中には近藤目当てが多かった模様。調べた限りでは近藤のピットイン出演は2011年3月のビル・ラズウェルTOKYO ROTATION以来2年10ヶ月ぶり。ライフワークの「地球を吹く IN JAPAN」や海外公演で多忙な近藤をキャパ100人のジャズの聖地で観られるのは貴重な機会である。

ステージに登場した4人を見て、最初に目についたのは本田のTシャツ。ヘヴィメタル・バンド「SAXON」のロゴが大きくプリントされている。ジャズの聖地では余り目にしないファッションだが、本田はレッド・ツェッペリンの曲を演奏するピアノトリオ「ZEK3」に参加する程の大のロック好きで、自分自身の景気づけのためにステージでロックTシャツを着ることが多々あるという。因みに前日のライヴでは「JUDUS PRIEST」のTシャツを着たとのこと。ロック好きだからといってロック的なプレイをするわけではないが、一つのジャンルに限定されない柔軟な志向が、本田のパワフルでフレキシブルな演奏の源であることは間違いない。

1stセットは灰野の深いリヴァーブをかけたガラスのような音色のギターでスタート。近藤の幻想的なエレクトリック・トランペットと共鳴して空間を絵の具のように塗り替えていく。細かく連打する本田のドラムと蛇行するナスノのベースがしっかりとボトムを固めるので、演奏が行き先を見失い迷走することはない。大きな意志の力に導かれるように衝突と和解を繰り返し、激しい情念が高く上り詰めていく。後半は灰野・本田・ナスノのギタートリオに近藤が穴を穿つようなスリリングな展開の40分。

2ndセットは灰野のエアシンセから始まり、宙を舞うトランペットがリードする導入部から、ハードコアな四つ巴の鬩ぎ合いへと突き進む。渦巻くサウンドの嵐の中で灰野が「たった一度しかない今という宝物〜」と歌った瞬間に四人のスピリチュアル・ユニティが姿を現した。トランペットが哀愁のメロディーを奏でる叙情的なアンコールを含み60分の旅路の果てから生還した四人の顔は全力を出し切った心地よい疲労感に輝いていた。

ジャズでもロックでもなくただひたすら「音楽」というセッション。我々は途轍もなく大きな奇跡を目撃したのではなかろうか。(剛田武 2014年2月11日記)

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