Concert Report #643

東京フィルハーモニー交響楽団 第83回 オペラシティ定期シリーズ

2014年1月28日(火)東京オペラシティ・コンサートホール
Reported by 藤堂 清

曲目
チャベス :交響曲第2番「インディオ交響曲」
バルトーク :ヴィオラ協奏曲(ペーター・バルトーク版)*
ドヴォルザーク:交響曲第9番 ホ短調「新世界より」作品95

指揮:アンドレア・バッティストーニ
ヴィオラ:清水直子*
オーケストラ:東京フィルハーモニー交響楽団         

すばらしい若手指揮者があらわれた。
アンドレア・バッティストーニ、1987年ヴェローナ生まれ。
イタリアだけでなくドイツやスペインの歌劇場で指揮しているし、日本でも二期会の《ナブッコ》や東京フィルとの「ローマ三部作」で好評を得ている。オペラだけでなく、オーケストラ・コンサートへの登場も多い。
私自身は今回が初体験であったが、海外で聴いた人の評価や、日本での評判は聞いており、たいへん楽しみにしていた。その期待を裏切られることはまったくなく、彼の才能の大きさに驚嘆するしかなかった。
彼は、オーケストラから実に色彩感豊かな音をひきだすことができる。それを、繊細な弱音でも、爆発的なフォルティッシモでも聴かせてくれた。オペラシティのホールは、オーケストラを鳴らし過ぎると音が飽和してしまい、頭を押さえつけられたような感じを受けることがあるのだが、この日の演奏ではそういった瞬間がまったくなかった。むしろオーケストラは鳴りきって、空間は音で満たされているのだが、無駄な残響や反響は残らない。彼のホールの音響を把握した上でのオーケストラ・コントロールのすばらしさによるものだろう。

さて演奏の方であるが、どの曲も興味深いものであった。
一曲目の作曲家カルロス・チャベスは、メキシコに生まれ、そこで活動した人。この交響曲第2番は10分ほどの短い曲だが、民俗楽器を含む多くの打楽器の多様な響きや、テーマとして取り入れられた民謡などが興味深く、アッという間に終わってしまった。変拍子も含む、リズム感が楽しい。
でも何故メキシコの作品をイタリア人の若手指揮者が振ることになったのかと思われるだろう。実はこの演奏会、もともとはメキシコの若手指揮者アロンドラ・デ・ラ・パーラが出演予定であった。しかし彼女はこの3月に出産予定ということでドクターストップがかかり、代わりにバッティストーニが指揮することになった。
交代時に曲目を変更するということも選択肢にあっただろうが、そのままの曲で演奏したのは、おそらくバッティストーニの意思によるものだろう。彼の新たな曲へ挑む姿勢をみたような気がした。
二曲目のヴィオラ協奏曲はバルトークの遺作である。といっても草稿として残されたのは独奏楽器と楽器指定された2〜3段のオーケストラの部分のみであった。
この草稿に基づいてバルトークの弟子のティボル・シェルィが補筆した版により初演が行われ、その後も演奏され続けてきた。しかし、1995年に息子のペーター・バルトークが草稿のファクシミリを公開し、それに基づきネルソン・デラマジョーレによる新版が作成された。
第1楽章の出だしで、ヴィオラ独奏にティンパニが絡むなど、バルトークの記載により忠実に作られているようである。
ソリストの清水直子は現在ベルリン・フィルのヴィオラのフォアシュピーラー。彼女がこちらの版の演奏経験がどのくらいあるのかはわからないが、シェルィ版に較べ相当に難しくなっている(と感じられた)独奏部分をしっかり弾きこなし、オーケストラとのやりとりも、指揮者との間合いも安定感があった。
演奏会後半に置かれた「新世界より」は、全体としてはかなり早い演奏であったが、表情を付けたいところや、独奏楽器を浮き立たせたいところでは、たっぷりと歌わせるなど、聴きなれているはずのこの曲が新鮮に、そして心も体も弾むような印象をうけた。
当然のことであるが、彼の棒にしっかりついていき、また独奏者も充実していた東京フィルにも賛辞を贈りたい。

27歳のバッティストーニ、持てる才能をさらに開花させていってほしいものである。 オペラであれば、1974年のカルロス・クライバーの《ばらの騎士》に匹敵するような衝撃を与えてくれるかもしれない。

藤堂清 kiyoshi tohdoh
東京都出身。東京大学大学院理学系研究科物理学専攻博士課程修了。ソフトウェア技術者として活動。オペラ・歌曲を中心に聴いてきている。ディートリッヒ・フィッシャー=ディースカウのファン。ハンス・ヴェルナー・ヘンツェの《若き恋人たちへのエレジー》がオペラ初体験であった。

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