Live Report #646

Steve Kuhn Trio スティーブ・キューン トリオ

2014年2月5日(水)・6日(木)  コットンクラブ(丸の内)
Reported by 多田雅範
Photos by 米田泰久 写真提供:Cotton Club

5日(水)
Aaron Parks (p), Ben Street (b), Billy Hart (ds)

2014.2.5.wed. 1st
1. Con Alma
2. Prism
3. Airegin
4. Adrift
5. To My Wife
6. Pensativa
7. The Sorcerer
8. While We're Young
9. Birdlike
Enc) Darn That Dream


        

6日(木)
Aaron Parks (p)

2014.2.6.1st Aaron Parks Solo
1. Elsewhere
2. Riddle Me This
3. I'm Getting Sentimental Over You
4. Melancholy
5. In Your Own Sweet Way         

柔らかく、強靭なサスペンションの効いたピアニズムの行方

ジャズ・ギターを拡張し続ける現代の皇帝カート・ローゼンウィンケル・グループのピアニストであり、先ごろECMレーベルから新しいプロデューサーのサン・チョン制作によるソロ・ピアノ『Arborescence』をリリースしたアーロン・パークスが来日した。


「ピアノ・トリオ」

やはり背骨でピアノを弾いていたアーロン・パークス。手堅い実力者ベン・ストリート。そして、よもや73さい老兵ビリー・ハートの破顔一笑で突き崩すタイム感覚での快活のリズムワークに、このトリオのほとんどが支えられているのであった!ストリートとの沸騰するゾクゾクする感覚が3度訪れた。この3にんのコンビネーションは不思議に得難いものだ。

東京駅そばのTOKIAはJPモルガンと三菱電機の本社が入っているビルなのか、本社入口は改札口のようになっている、そこの3階にコットン・クラブはあった。人生初コットン・クラブ。主幹悠雅彦先生、稲岡編集長、鉄人コントリビューター神野秀雄という Jazz Tokyo カルテットでの鑑賞。

ECMのサン・チョンがプロデュースした森の中を歩み進むような幻惑的なピアノ・ソロ『Arborescence』は、パークスの資質を見抜いたものであったから、彼によるジャズの定番ピアノ・トリオには期待していなかった。3日間の公演日程のうちパークスの希望でラスト1日はソロになっていた。

アーロン・パークスのピアノは、背骨からスイングが始まっているから頭はグラングラン揺れているし、指はそれなりにちゃんとジャズ・ピアノできているので、制御困難な揺れが両手指先全体を宙に浮かせてしまうんだな。地に足をつけようと指は走るんだが、屋台骨がモアレ状態で揺れるものだからタッチの強弱や、着地のタイミングが揺れてバラけてしまうのだ。その身体感覚が、新らしいタッチとなっている。がっちりと、とか、深く、とかではない、極端に言えば、はぐらかしの切なさが真実だ。

ベン・ストリートは、そうさなあ、グレナディアの余った席を埋めるに相応しいタイプというか、ピチカートぽい挿入もカッコいい。

そして、73さい老兵ビリー・ハートはECMでマーク・ターナーらを従えたリーダー作を出していたけれど、リーダー名義の譲り合いや契約事情でそうなったかと推測していた。チガウんだなー、この勇敢なタイム感覚崩しのリーダーシップは、「わはは、おまいら、ついてきな!ふん、ふーん」とオヤジの威厳で音楽を持って行ってしまう。

ほんとにもう。笑いながら興奮したぜ。

もちろん若い主役のパークスに充分なソロを取らせて、スポットライトを浴びさせることも忘れない。

キースジャレットトリオ、ブラッドメルドートリオ、フレッドハーシュトリオには並べない水準ではあるんさ、ぶっちゃけ、ね、だけどもビリー・ハートが叩くと、すべてのトリオをハートで聴いてみたい気にさせられる。つくづくビリー・ハートには恐れ入った。

「ピアノ・ソロ」

アーロン・パークス、1983年生まれの30歳。悠さんが「彼はどこの出身?」ときいて、稲岡さんが即座にぼそっと「公園。」と言い、おれが「アメリカでしょ?」、稲岡「だからアメリカなのはわかってるって」と噛み合わないでいて、10秒遅れで「なにそれ!パークスだから公園?」と吹き出し笑い。パークスはワシントンの出なのだな。

2000年代のジャズ本『Jazz:New Chapter〜ロバート・グラスパーから広がる現代ジャズの地平 (シンコー・ミュージックMOOK)』を監修、上梓した気鋭のジャズ評論家柳樂光隆さんに「たださんは、ソロのほうでしょう?」と言われたが、わはは、ご明察。

コットン・クラブでのソロ、これはこれで絶品のものだった。スタンダード・ナンバーを装いつつ、すぐにはトランスさせない。ECMのソロ・ピアノ『Arborescence』の夢幻の空間へは、いくつもの曲がり角をくぐり抜けて、一瞬垣間見せたり、ジャンプへの手がかりとタイミングを待ちながら、そして何度かその境地に至ったのだった。

『Arborescence』の夢幻空間は、言葉は悪いがいわば自己没入とオスティナート地獄の彷徨でもあるから、世間が認知しているジャズ・ピアノとは大いに乖離している。アーロンがここに来て踏み出した領域は、コットン・クラブの観衆に受けるとは限らない。その意味で、まさに適切なアプローチなのであるが、この制約の中での創造は予想以上の聴き応えであった。

がんがんスイングしたり、超絶技巧に酔うジャズ・ピアノではないので、ざっくり派のリスナーには楽しんでいただけたのかはよくわからない、あ、そんなことは書く必要ないのか。

ジャズを学校で習った世代ならではの上質な傑作と評されたジョシュア・レッドマン、エリック・ハーランドらの『ジェイムス・ファーム』(2011)、そこでもアーロンは弾いていたが、その柔らかく、強靭なサスペンションがジャズ界で重宝されているのは事実、それで今思い出したんだけど、フェレンク・ネメスの『ナイト・ソングス』(2007)、これはマーク・ターナー、クリス・チークの2管の傑作で、そこでアーロンは弾いていたのだった。マーク・ターナー屈指の怪演に見とれていて忘れていた。

パークスの適切なアプローチによる成功のありようを、(おいらは十全にわかるよおー)という気持ちで拍手していたら、何度もパークスと目が合ってうれしかった。札幌から来ていた妹にそれを話したら「にいちゃんの座っている席がちょうど良かったのよ」なんて言う。ばか言え、おれはパークスと通じていたんさ、3日の公演を希望して1日ソロに振り分けたパークス、ありがとう!と伝わったんさ。(多田雅範)

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追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

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#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
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#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


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