Live Report #651 |
川村結花 「private exhibition」Albumリリース記念Live「個展」 |
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天才シンガーソングライターがHometownで、心の内を歌い、前に進み出す
「外に出たがっていた言葉を出さないと前に進めなかった」川村が育った大阪でのライブ終盤で、今の気持ちを伝えた一言。
2014年12月『personal exhibition』をリリース。前作『a half note』から8年。その間も精力的に作詞作曲を行い、たくさんのアーチストたちに珠玉の作品を提供、自身のライブも続けてきた。2010年にはFUNKY MONKEY BABYSとともに「輝く!日本レコード大賞」作曲賞を受賞している。他方、プライベートでは親しい方々のご不幸など難しい時期、さまざまな想いを巡らす時期もあった。その中で生まれた川村が一人称で表現し伝えたい想い、セルフポートレイトとなる歌を集め、初の自主制作で作り上げたのが『personal exhibition』であり、今回のライブツアー「個展」だった。
その最終公演を迎えた地元の大阪。心斎橋JANUSでのライブは、1〜2年に一度ずつ継続してきたが、やはりホームでのライブには静かな一体感があり川村も他会場よりもより心を開き、特に今回は本人の言葉を借りれば、心が「すっぱだか」であることを感じる。川村の同級生多数や母親も来ていたようで、一人称の歌はリアルワールドでも連続し、また時間と空間を超えてもつながっているようだった。
大阪の高校から、東京藝術大学作曲科へ進み(塩谷哲と岩城太郎が同級生)、早稲田大学モダンジャズ研究会ではレギュラーバンドのピアノを務め、パット・メセニーやケニー・カークランド、ウェイン・ショーター、リッキー・リー・ジョーンズ、ジョニ・ミッチェルらの影響も受けたという川村。それらの感性を受け止め、矢野顕子に通じるようにジャズピアノを弾きこなせるだけの表現力と自由度を持ちながらの演奏と創作活動。また、メロディーに流され歌詞を載せるのではなく、必ず歌詞を先に考え、五線紙にメロディーを書いて頭で鳴らす、1日以上おいてピアノに向かうといい(1)、音楽が大切に丁寧に紡ぎ出される。作編曲にあたり「頭の中で鳴らす」能力を維持することの大切さには、以前、Apple Store銀座店における「Meet the Musician - 小曽根 真」において小曽根も言及していた(2)。そういった背景で紡ぎ出される川村の言葉と音楽は、ジャズファンをも含め幅広い層の琴線に触れる特別な力を持っている。これは日本の音楽界にあっても希有の才能であり、天才の域にもあると思う。
ライブでは新譜からの曲を中心に歌われ、重たい歌詞の曲もあるものの、それは悲しさや絶望の表明ではなく、むしろ自信と強さと優しさを内に秘めたもので、観客も穏やかに受け止める。また、人生後半に向けての前向きな気持ちを歌った曲の数々からはポジティブな気持ちとエネルギーが伝わり、観客はステージの川村に笑顔とエネルギーを反射していく。
他のアーチストへの提供曲から3曲。奇しくも奄美大島出身者2人、城南海(きづきみなみ)に書かれた<アイツムギ>、映画「火天の城」エンディングテーマとして、中孝介(あたりこうすけ)に書かれた<空が空>。いずれも人生にとって何が大切かを表明する川村のメッセージ性が強い曲が選ばれた。3曲目は、スガシカオの詞に川村がメロディーをつけてSMAPに提供、オリコンシングルチャート1位、SMAP初のミリオンセラーとなり、日本中で愛されるスタンダードとなった<夜空ノムコウ>。この曲は中国語詞による<夜空的彼岸>も存在する。ライブでは、新しくつけられたイントロから美しいピアノの響きが流れ出し、美しい夜空と朝焼けに向けての切なさと希望が交じった情景が描き出される。川村のセルフカバーは『Lush Life』に収められている(アルバムタイトルはジョン・コルトレーンも意識していると思われ、1曲目は高田馬場のジャズ喫茶マイルストーンにちなんだ<マイルストーン>)。
アンコールには「今年もまた公園の桜のつぼみ膨らんで」という歌詞を春の訪れにだぶらせながら歌い始めた<ビューティフル・デイズ>。親に優しく見送られながら夢を描いて故郷大阪を離れ、東京を目指し、そして故郷がいつも暖かく迎えてくれることを歌った<Hometown>、『around the PIANO』で2002年に発表された曲だが、新作同様、川村自身の姿が描かれていると思う。何度も聴いてきた曲だが今回の演奏は特別で、ステージ上でピアノに向かう今の川村の姿に、東京に出てきて間もない、確か19歳の川村の姿が重なって見えたほどだった(当時、早稲田大学モダンジャズ研究会つながりで見かけていた)。また夢を描いて飛び出した街が迎えてくれる優しさに涙するのは、大友良英、遠藤ミチロウや箭内道彦ら福島出身のミュージシャンやクリエイターたちを原発事故後に突き動かした想いでもあり、福島出身者としても胸を締め付けられながら、同時に優しさに包まれる特別な瞬間となった。
『private exhibition』の制作を終え、アルバムリリース記念の「個展」ツアーを地元大阪で完了し、いま伝えたい心の内を外に出し、観客からそのフィ―ドバックとエネルギーを受け止めて、川村はその喜びを明確に表明していて、次のアルバムを今すぐにでも作りたい、今回の一人称の表現に留まらず、これからは様々な歌を作りたい、ライブもどんどん行っていきたいという。そう言っている間にも次々に提供曲も生まれていて、川村の創造力は止まらない。次のアルバムで今度はどんな世界を見せてくれるのか楽しみでならない。
ツアー初日、2月16日札幌KRAPSHALLでのライブを聴く機会があった。首都圏の大雪のため、川村の前日羽田発フライトもキャンセルとなり到着が危ぶまれる中、なんとか無事開催。古い駐車場ビル1階にあるライブハウスの音に正直期待していなかったのだが、その音響と照明は完璧と言えるもので、PAは聴く場所による音のバランスの崩れも、スピーカー前の不快感もなく、マイクのセッティングとイコライジングの妙にもポイントがあるのか、ヴォーカルマイクは川村の声だけでなく、息遣いまでもうまく調和された上でピックアップし、ナチュラルなセクシーささえ感じさせるこれまでにない音響表現に成功していた。照明もクリアーで柔らかい光でピアノと川村を鮮明に浮かび上がらせていた。素晴らしい音楽と空間を見せてくれたKRAPSHALL、主催者WESSも含め、音響、照明の担当者に感謝したいと思う。
【JT関連リンク】
川村結花『private exhibition』
http://www.jazztokyo.com/five/five1059.html
川村結花&田中邦和デュオ
http://www.jazztokyo.com/live_report/report544.html
【関連リンク】
川村結花オフィシャルウェブサイト
http://www.kawamurayuka.com
週刊文春WEB 「YOUR EYES ONLY 川村結花」
(文:森 綾、写真:萩庭桂太)(引用1)
http://shukan.bunshun.jp/articles/-/3538
「Meet the Musician - 小曽根 真」2014年1月10日 Apple Store 銀座 (Podcast) (引用2)
https://itunes.apple.com/us/podcast/id807855188
川村結花『private exhibition』 (Boo Fee Records BFR-001) |
Yuka Kawamura Best『Works』 (Epic Records Japan ESCL-2474) |
川村結花『Lush Life』 (Epic Records Japan ESCB-1954) |
追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley
:
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣
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JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi
#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報
シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻
音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美
カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子
及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)
オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美
ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)
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#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義
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#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄
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