Concert Report #653 |
<歌曲の森>〜詩と音楽 Gedichteund Musik 〜 第12篇 |
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クリストフ・プレガルディエンとミヒャエル・ゲースによるシューベルトの歌曲によるリサイタル。曲目と順序は、1992年に録音された 『Lieder von Abschied und Reise』 というタイトルのCDと同じもの。20年にわたり2人で成熟させてきたプログラムといえるだろう。
曲目をみると、「別れ」が死を意味するものも多いし、「旅」があてどもないさすらいを表しているものも含まれている。また、孤独な存在であることを歌っている曲もある。それらを12曲づつ前・後半に並べた形となっていて、それぞれ通して演奏するように考えられている。
1956年生まれのプレガルディエンは、歌曲を歌うとき、ピアニストとしてアンドレアス・シュタイアー(1955年生まれ)とミヒャエル・ゲース(1953年生まれ)のいずれか二人と共演する機会が多い。シュタイアーが1820年代モデルのフォルテピアノを用いるのに対し、ゲースはモダンピアノでの共演である。今回のゲースとの来日は2009年から5年ぶりであった。その間、2011年にはシュタイアーと来日し、シューマンの歌曲でのリサイタルを行っている(このときは用意されたフォルテピアノの状態が悪くモダンピアノでの演奏となった)。
ゲースは自身のコンサートでは即興演奏を行うこともあるそうだが、プレガルディエンとの共演のなかでもそういった側面をみせてくれる。ピアノのみのところでテンポをおとしたり、思い切ったアクセントをつけたりといったような変化をつける。もちろん意味なく行っているわけではなく、プレガルディエンの歌にもそれに合わせた変化が生じている。逆に、プレガルディンがテンポを変化させることもあるが、ゲースはそれに応じるときもあれば、その仕掛けには乗らずそのまま進んで行ってしまうこともある。そこに生じる、声とピアノのズレのようなものが(としかいいようがない)、聴いているものの意識を引き付け、刺激を与えてくれる。こういった二人のやりとり、かなりの部分はその場で即興的に行われているものだろう。彼らが前回の来日時やDVDの《美しい水車小屋の娘》で行っている多くの装飾音を付け加えるというほど大きな変化ではないのだが、形がくずれるのではというギリギリのところまで追い込む、彼らのバランス感覚の見事さには感心する。
プレガルディエンがシュタイアーと共演するときは、シュタイアーのつくるかっちりとした枠組みの中で、プレガルディンも大きな変化をつけることはあまりない。前回の東北大震災の直前に行われたシューマン歌曲によるリサイタルでは、二人でつくりあげた精緻な形を聴くことができた。プレガルディエンとゲースの組み合わせ、シューマンに較べれば自由度が大きいシューベルト歌曲に合っているように思われた。
60歳前後の二人の大家によるリサイタル、行書体による書が、筆の流れ自体も興味深く、全体としてもバランスがとれたものである、といったような印象だろうか、たいへん密度の濃いものであった。
400席ほどのトッパンホール、贅沢かもしれないが、声楽リサイタルにはこのくらいの空間が一番あっていると思う。歌手は無理に声を張り上げる必要もないし、同じ母音を伸ばしているなかでの微妙な音色の変化、ピアニストのペダリングやタッチの違いなどもよく聞きとれる。
このホールが<歌曲の森>というシリーズを継続してくれていることに感謝したい。
(おまけ)
前後半ともに途中で切らずに演奏することを想定したプログラムだっただけに、《魔王》のあとでブラーヴォと拍手が入ってしまったのは残念だった。演奏者たちも少し驚いた表情をみせていた。
追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley
:
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣
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JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi
#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報
シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻
音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美
カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子
及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)
オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美
ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)
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#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義
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#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
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