Concert Report #653

<歌曲の森>〜詩と音楽 Gedichteund Musik 〜 第12篇
クリストフ・プレガルディエン&ミヒャエル・ゲース

2014年2月20日(木) トッパンホール
Reported by 藤堂 清
Photos by 林 喜代種

曲目
フランツ・シューベルトの歌曲によるリサイタル
   ――別れ、そして旅立ち――

―(第1部)―
逢瀬と別れ D.767
星 D.939
夜曲 D.672
弔いの鐘 D.871
さすらい人 D.489
さすらい人の夜の歌 D.224
ヴィルデマンの丘で D.884
亡霊の踊り D.116
魔王 D.328
さすらい人の夜の歌 D.768
あこがれ D.879
ミューズの子 D.764

―(第2部)―
ブルックの丘で D.853
夕映えの中で D.799
憩いなき恋 D.138
囚われの狩人の歌 D.843
竪琴弾きの歌より
 <わたしは家の戸口にそっとしのび寄っては> D.479
さすらい人 D.649
さすらい人が月に寄せて D.870
独り住まいの男 D.800
舟人 D.536
馭者クロノスに D.369
白鳥の歌より <影法師> D.957-13
夜と夢 D.827

―(アンコール)―
白鳥の歌より <鳩の使い>
冬の旅より <菩提樹>
冬の旅より <春の夢>

テノール:クリストフ・プレガルディエン
ピアノ:ミヒャエル・ゲース         

クリストフ・プレガルディエンとミヒャエル・ゲースによるシューベルトの歌曲によるリサイタル。曲目と順序は、1992年に録音された 『Lieder von Abschied und Reise』 というタイトルのCDと同じもの。20年にわたり2人で成熟させてきたプログラムといえるだろう。
曲目をみると、「別れ」が死を意味するものも多いし、「旅」があてどもないさすらいを表しているものも含まれている。また、孤独な存在であることを歌っている曲もある。それらを12曲づつ前・後半に並べた形となっていて、それぞれ通して演奏するように考えられている。
1956年生まれのプレガルディエンは、歌曲を歌うとき、ピアニストとしてアンドレアス・シュタイアー(1955年生まれ)とミヒャエル・ゲース(1953年生まれ)のいずれか二人と共演する機会が多い。シュタイアーが1820年代モデルのフォルテピアノを用いるのに対し、ゲースはモダンピアノでの共演である。今回のゲースとの来日は2009年から5年ぶりであった。その間、2011年にはシュタイアーと来日し、シューマンの歌曲でのリサイタルを行っている(このときは用意されたフォルテピアノの状態が悪くモダンピアノでの演奏となった)。
ゲースは自身のコンサートでは即興演奏を行うこともあるそうだが、プレガルディエンとの共演のなかでもそういった側面をみせてくれる。ピアノのみのところでテンポをおとしたり、思い切ったアクセントをつけたりといったような変化をつける。もちろん意味なく行っているわけではなく、プレガルディエンの歌にもそれに合わせた変化が生じている。逆に、プレガルディンがテンポを変化させることもあるが、ゲースはそれに応じるときもあれば、その仕掛けには乗らずそのまま進んで行ってしまうこともある。そこに生じる、声とピアノのズレのようなものが(としかいいようがない)、聴いているものの意識を引き付け、刺激を与えてくれる。こういった二人のやりとり、かなりの部分はその場で即興的に行われているものだろう。彼らが前回の来日時やDVDの《美しい水車小屋の娘》で行っている多くの装飾音を付け加えるというほど大きな変化ではないのだが、形がくずれるのではというギリギリのところまで追い込む、彼らのバランス感覚の見事さには感心する。
プレガルディエンがシュタイアーと共演するときは、シュタイアーのつくるかっちりとした枠組みの中で、プレガルディンも大きな変化をつけることはあまりない。前回の東北大震災の直前に行われたシューマン歌曲によるリサイタルでは、二人でつくりあげた精緻な形を聴くことができた。プレガルディエンとゲースの組み合わせ、シューマンに較べれば自由度が大きいシューベルト歌曲に合っているように思われた。
60歳前後の二人の大家によるリサイタル、行書体による書が、筆の流れ自体も興味深く、全体としてもバランスがとれたものである、といったような印象だろうか、たいへん密度の濃いものであった。
400席ほどのトッパンホール、贅沢かもしれないが、声楽リサイタルにはこのくらいの空間が一番あっていると思う。歌手は無理に声を張り上げる必要もないし、同じ母音を伸ばしているなかでの微妙な音色の変化、ピアニストのペダリングやタッチの違いなどもよく聞きとれる。
このホールが<歌曲の森>というシリーズを継続してくれていることに感謝したい。

(おまけ)
前後半ともに途中で切らずに演奏することを想定したプログラムだっただけに、《魔王》のあとでブラーヴォと拍手が入ってしまったのは残念だった。演奏者たちも少し驚いた表情をみせていた。

藤堂清 kiyoshi tohdoh
東京都出身。東京大学大学院理学系研究科物理学専攻博士課程修了。ソフトウェア技術者として活動。オペラ・歌曲を中心に聴いてきている。ディートリッヒ・フィッシャー=ディースカウのファン。ハンス・ヴェルナー・ヘンツェの《若き恋人たちへのエレジー》がオペラ初体験であった。

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