Concert Report #655

オーケストラ・アンサンブル金沢
第347回定期公演フィルハーモニー・シリーズ

2014年2月23日(日) @石川県立音楽堂コンサートホール
Reported and photos by 多田雅範/Niseko-Rossy Pi-Pikoe

1 三善晃 / 三つのイメージ(2002年度OEK委嘱作品)
2 (アンコール)三善晃編曲 / 「唱歌の四季」〜夕焼小焼
3 メンデルスゾーン / 交響曲第2番変ロ長調 op.52「讃歌」

演奏
山田和樹指揮
オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートミストレス:アビゲイル・ヤング)
木村かをり(ピアノ*1,2)
小林沙羅,熊田祥子(ソプラノ*3)
西村悟(テノール*3)
合唱:
 オーケストラ・アンサンブル金沢合唱団
 東京混声合唱団メンバー
 金沢大学合唱団メンバー(合唱指揮:富澤裕)
児童合唱:OEKエンジェルコーラス*1,2
プレトーク:山田和樹         

四谷三丁目 Tactile Sounds Vol.14 から帰ってすぐに寝て、起きたら朝6時、飛び起きて有楽町線丸の内線東京駅。みどりの窓口で金沢行き大人一枚。腹へった。野菜サンド、ヤマザキのランチパック。

二階建て新幹線、下の座席なので窓際なのに高速コンクリートしか見えない。速い。90分で越後湯沢。雪国。特急に乗り換えると風景が楽しめた。日本海が見えるとたいして雪が無い。金沢には雪がない。

駅から泉鏡花記念館に向かって歩く。暖かくて気持ちいい。電車で座ってただけなので全然金沢まで来ている気がしない(数年前にクレーメルを聴きに来た時は高速道路で山越え来たのだ)。この街に住んでいる自分を想像して、足が嬉しい。新しい靴で、余計に心が軽くなる。鏡花と柳田國男と小村雪岱のコラボという展示。小村雪岱の挿画イラストがかなりいい。鏡花の『山海評判記』は雪岱の挿画で新聞に連載されたもの。昭和4年。1929年。三善晃が生まれる4年前。この本、読んでないや。記念館の売店でちくま文庫を購入する。浅野川まで歩いてうめの橋を渡って徳田秋声記念館は入口だけ見て。あれれ?この通り・・・蛇の目寿司で食べたことあるようなフラッシュバックに襲われる。

バスに乗って金沢駅へ。駅ビル2階の「すし玉」回転寿司。朝獲れ三貫「のどぐろ・石鯛・ほうぼう」525円皿が美味すぎて3度も注文し、寒ブリを食べ忘れた。

長女かなみんが7月20日に上野精養軒で挙式だという連絡。

泉鏡花記念館と回転寿司でもう元が取れたなー。

コンサート開場時にエントランスホールではアンサンブルがグレツキの合奏・・・グレツキじゃないや、何だっけ。コンサートマスターのお話がかわいくて楽しい。金沢、最高だ。

コンサートの冒頭は三善晃「三つのイメージ」、この曲のために新幹線代も有給休暇も家族の反対も家賃滞納も押してやって来たのだ、合唱+オケ形式は聴き逃さないのだ、ほお、童声だけじゃないのだな、「三つのイメージ:童声・混声合唱とオーケストラのための」、オケは小さいな、それにしても合唱の響きはこうやってホールでしか聴けないのだな、録音物との差が激しいものだなあ、と、思いながら、何と、いつのまにか気持ちよくて寝てしまう(!)。ここで寝るところが、天性の見逃し気質であるものか。

起きて聴いていた友人は、作品の真価に触れられた名演だったと、山田和樹を讃えていた。

続いて三善晃追悼で、「夕焼けこやけ」管弦楽編曲鈴木輝昭。この世のものとは思えない感興の噴出。合唱。オケ。鐘が鳴る。

夕焼け小焼けで 日が暮れて
山のお寺の 鐘がなる
お手々つないで みなかえろ
からすといっしょにかえりましょ

子どもが帰った あとからは
まあるい大きな お月さま
小鳥が夢を みるころは
空にはきらきら 金の星

作詞:中村雨紅 作曲:草川信

「こどもがかえったあとからは まるいおおきなおつきさま」

恐るべき子どもだった三善晃、天に召された三善晃。

まるいおおきなおつきさま、すごい音楽だった。

思い出すだけで、嗚咽しそうになる。涙がでてくる。

昼間の金沢駅前は右翼の街宣車が威勢のいい怒声を響かせていたのだった。竹島をこのまま韓国に渡すものか。30代は都議選で田母神を支持した。戦後の日本音楽界に輝いた三善を失った2014年の現在はそんなふうだ。

メンデルスゾーンは合唱もオケも指揮も素晴らしいもの。おそらく曲が素晴らしくない。オルガンが弾いているのは見えるけれど音が聴こえないのはおれの耳がお年寄りなせいかホールのせいか作品のせいか。佐村河内モンダイが明らかにしたのは、やはりクラシック界は怠けているということだ。現代音楽作曲家が高みに安住して大衆を顧みないでいるのは、メンデルスゾーンで手打ちをするしかない現状に出ている。鈴木輝昭が「夕焼けこやけ」でこれだけのものを聴かせることはできるのだ。三善の足元にも及ばない作曲についての必然も動機もない世代が、コンセプトでうそぶいている。

夜行バスまで金沢ゆめのゆ(天然温泉施設)。タクシーのおじさんの金沢言葉がたまらなくいい。金沢は京都の文化圏なのだ。温泉に入ってC級な定食を食べて。金沢発の夜行バス。遮光カーテンで覆われて風景が見えない、これでは揺れる棺桶だ。血圧が高くないのですぐにケツが痛くなって動けない。有磯海サービスエリア松代サービスエリア高坂サービスエリア。抜け出してストレッチ。22時金沢発、6時半東京駅着。もう夜行バスには乗らない。

音楽都市、金沢を堪能してきた。間もなく新幹線が通って2時間ちょっとで来ることができる。井上道義が育てるオーケストラ・アンサンブル金沢。次に三善晃の合唱+オケ形式の作品を演るのはいつだろう。その時は帰りも新幹線にしようと思うのだった。

多田雅範
Niseko-Rossy Pi-Pikoe。1961年、北海道の炭鉱の町に生まれる。東京学芸大学数学科卒。元ECMファンクラブ会長。音楽誌『Out There』の編集に携わる。音楽サイトmusicircusを堀内宏公と主宰。音楽日記Niseko-Rossy Pi-Pikoe Review。

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