Live Report #657

スティーヴ・サックス『マンボ・イン』

2014年3月4日 ラジオNIKKEI
Reported and photos by 稲岡邦弥

スティーヴ・サックス(sax, fl)
小西勝明(producer)
山本 郁(personality)         

旧知のサックス奏者スティーヴ・サックスが新作『マンボ・イン』を引っさげ、ラジオNIKKEIの看板番組『テイスト・オブ・ジャズ』に出演するというので、旧知の番組プロデューサー小西勝明氏に誘われるまま、アソビに出掛けた。小西Pd. は、「小西啓一」のペンネームで、スイングジャーナルやジャズジャパン誌に健筆をふるってきたジャズ評論家として知られている。なかでもラテン・ジャズは氏の好物で、スティーヴの『マンボ・イン』もいち早く当誌3月号で取り上げ(http://www.jazztokyo.com/five/five1070.html)、さすがの蘊蓄を傾けている。
「ラジオNIKKEI」の前身は「ラジオたんぱ」(ラジオ日経、ラジオ短波の方が抜群に視認性が良いのだが、イメージを優先させたネーミング?)といい、本社とスタジオはアメリカ大使館前の自転車振興会館にあった。私も2、3度駆り出され、阪神大震災のベネフィットCD『レインボー・ロータス』や『ECM catalog』について喋った記憶がある。「短波」といえば、外洋航路の船員にリスナーが多く、ウリは、もっぱら「株」と「競馬」、「健康」であった。小西Pd. もよく病院へ出掛け医師を取材していたようだ。ところが、デジタル時代になって様相が一変した。2010年、広告代理店とラジオ各社が共同で株式会社radiko(通称:ラジコ)を立ち上げ、インターネットを通じ日本のラジオ放送のサイマル配信(ライヴ・ストリーミング)を始めたのだ。専用ラジオや3バンド・ラジオでしか聴取できなかった短波放送がインターネットを通じパソコンやスマホを使って街中で聴けるようになった!結果、ラジコでの聴取率はラジオNIKKEIが全国一に躍り出ることになった。ここを先途に同局ではRN2(第2放送)を立ち上げ、平日はトークと音楽を流しマニアックな放送局から音楽放送局への脱皮を図ったのだ。
この『テイスト・オブ・ジャズ』は、ラジオNIKKEI60年の歴史のなかにあって最古参の番組の一つで、50年以上の歴史を持つという。しかし、その歴史は茨の道であったようだ。小西Pd. がサイトのエッセイに曰く“かつてのラジオたんぱでは、音楽番組はまさに局の網走番外地的位置付けだった。この「テイスト・オブ・ジャズ」も、少し前に登場した業界の有名人、木全信大先輩から引き継いでまさに艱難辛苦の連続。「個人的趣味の番組は止めさせろ...」などと言われ続けたもので、それを掻い潜り、時に喧嘩をしながら、今日まで続いているという次第”(http://www.radionikkei.jp/music/jazz-program/)。氏の積年の労苦は頭髪が物語っているが、花は50有余年経ってデジタル革命が咲かせた、といえる。

ところで、スティーヴ・サックスだが、大阪花の博覧会(1990年)の来日時に出演以来というから、これまた24年ぶり...。ブラジルやラテン音楽を好み、デイヴィッド・バーンや小野リサらと共演してきた。ベテラン・アナウンサー山本郁さんの軽妙なおしゃべりとリードにより、スティーヴも得意の親父ギャグを交えながらトークをこなしていく。ハーバード大を卒業し、NYの日本語弁論大会で優勝したスティーヴは、日本人の奥さんを迎えたこともあり、日本語にはますます磨きがかかってきた。放送では、<マンボ・イン>や<ディア・オールド・ストックホルム>などお馴染みの曲が流れたが、とくに唱歌の<海>をラテンに編曲したピアノのジョナサン・カッツのセンスに感心した。
ラジオNIKKEIは昨年12月に竣工なった虎ノ門の新築の高層ビルの17階に移転したが、それを機にスタジオの機器も一新したようだ。名門スチューダー製のコンソールにジェネリックのモニター。マスターにはDENONのハードディスク、収録にはTASCAMのレコーダが用意されていたが、メディアは SDカード、フラッシュメモリ、MD(ミニディスク)などさまざま。とうにお役御免のMDが健在だったのには驚いた。とくに小西Pd.は紛失しやすいSDカードを嫌ってMDを愛用しているとのことだった。

* 関連リンク
http://ja.wikipedia.org/wiki/Radiko

稲岡邦弥
2004年12月本誌創刊号より編集長。トリオ/ケンウッド・レコードの制作部長勤務時代、竜鉄也の<奥飛騨慕情>のミリオン・セラーで積年のジャズの赤字を吹き飛ばした、といわれる。ルーツ・ミュージックからクラシックまで雑食性あり。

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