Live Report #658

Tamio Shiraishi & Camissa Buerhaus
LIVE IN JAPAN
Passion & Intension Vol.12
2014年3月5日(水) 新大久保EARTHDOM
Reported & photographed by 剛田 武

出演:
大凶風呂敷+木村由
魔術の庭
解体飼育団


大凶風呂敷:
白石民夫(as)
Camissa Buerhaus カミッサ・ビュアハウス(syn)
Guest:木村由(舞踏)

解体飼育団:
長谷川洋(electronics)
佐々木悟(as)
内田静男(b)

魔術の庭:
福岡林嗣 Fukuoka Rinji (vo,g)
河合 渉 Kawai Wataru (g)
山崎怠雅 Yamazaki Taiga(g)
ルイス稲毛 Louis Inage (b)
諸橋茂樹 Morohashi Shigeki (ds)         

1980年にインディー・レーベルの草分け「ピナコテカレコード」の第1弾としてリリースされたオムニバスLP『愛欲人民十時劇場』は、吉祥寺マイナーという小さなライヴハウスで夜の10時から開催されていた同名イベントでのライヴ演奏を収録していた。ごく少数の観客の前で演じられた極北の表現行為のドキュメンタリーとして、その名の通り少数派の活動の場であったマイナーに蠢く有象無象の地下表現者を戸外へ開放するきっかけとして十分なインパクトがあった。灰野敬二、山崎春美、竹田賢一、吉沢元治、篠田昌已など、有名無名のパフォーマーの演奏を収めたそのアルバムの冒頭を飾るのは、チープなリズムボックスとピーッというサックスの悲鳴。どんな過激かつ醜悪な演奏が始まるのかと身構えるリスナーを煙に巻くすっトボけた狂言回しを演じるのが、白石民夫という31歳の青年だった。

当時すでに東京地下音楽界の有名人だった白石は、灰野敬二の「不失者」の最初のメンバーであり、山崎春美と共にユニット「タコ」の中核メンバーであり、「うごめく、けはい、きず」「剰余価値分解工場」「愛欲人民十時劇場」などのイベントの中心人物であり、そして何よりも女の悲鳴かネコの断末魔を思わせる激烈なサックスのフリークトーンで知られていた。耳に突き刺さる高周波音は、灰野敬二の叫びとフィードバック、山崎春美の痙攣、竹田賢一の大正琴と並ぶ70年代末の東京地下音楽の象徴だった。

80年代最初の数年を過ぎると、ポストパンクの勃興と入れ替わるようにマイナー系地下音楽は解体し地下に潜ることとなる。再び地表に姿を現すのはテクノとニューウェイヴとビートパンクの狂騒の80年代が終わり、20世紀の最後のディケイドである90年代に入ってからのことになるが、その時には重要人物のひとりである白石はニューヨークに居を移し、日本のシーンとの交流は少なくなっていた。白石はニューヨークをベースに、愛用のサックスでアラン・リクトやマイケル・ヘンリッツ、ショーン・ミーハンなど異国の表現者と共演すると共に、ニューヨークの地下鉄構内やストリートでソロ・パフォーマンスを続けてきた。

2012年にフェミニスト/彫刻家/女優/サウンドアーティストである若き才女、カミッサ・ビュアハウスと出会い意気投合しデュオとして活動をはじめる。以来、詩人の吉増剛造と共演するなどユニークな活動を繰り広げてきたふたりが「大凶風呂敷」というユニット名で来日し、全国5ヶ所で新旧アーティストとの共演/対バン・イベント公演を行った。

日本ツアーの4日目は、魔術の庭主催の新大久保公演。マイナー音楽第二世代ともいえる2バンドとの対バンが興味深い。

●魔術の庭

轟音サイケデリック・ロックの権化「魔術の庭」は、この日から「鳥を見た」、灰野敬二率いる「Hardy Soul」、ソロ等で活動する若手ギタリスト山崎怠雅が参加しトリプルギター編成になった。ロングヘアーがズラッと並んだ構図だけで迫力十分。福岡林嗣と山崎が弾きまくるファズギターはこれまでの数倍の大音量。ギターアンプから放射される音の壁の真ん中を割るように迫るドラムが爽快。10分以上爆音ノイズが続いた終盤のインプロヴィゼーションが終わったとき、残されたのは鈍痛に似た耳鳴りだけだった。

●解体飼育団

90年代ジャパノイズの中心的バンド「C.C.C.C.」を率いたノイジシャン長谷川洋(別名ASTRO)が80年代にサックス奏者の佐々木悟と組んでいたプロジェクト「解体飼育団」は、昨年秋にユニット「長谷川静男」の内田静男を加えて27年ぶりに復活した。長谷川が放射するスペーシーなハーシュノイズ、佐々木のクールなサックス、内田静男のエフェクトをかけたベースが三つ巴となり、ノイズでもフリージャズでもドローンでもない芳醇な世界が広がる。展開らしい展開のない40分の轟音に、全てを忘れてただひたすら身を任せるという甘美な歓びに浸った。

●大凶風呂敷+木村由

白石民夫がゆっくりとアルトのマウスピースを銜えて、細い高周波音を絞り出すように紡ぎ出す。空気の狭間に真空を生じるような、居合い抜きの気迫に満ちた音。カミッサ・ビュアハウスは愛用のソビエト製シンセから鈍い波形の電子音をたぐり出し、ふたつの音は付かず離れず浮遊する。白いレースのリボンに包まれた木村由の肢体がゆっくりと舞い、スローモーション映像で想像力を喚起する。聴覚と視覚と知覚への刺激は、氷のように冷たく、同時にマグマのように熱い。客席後方に移動した白石の引き裂くハイトーンが背中に突き刺さる。木村も客席に降りて目の前で舞う。遠近感が暮夜けて超現実的な光景を描き出す。透徹したクールネスに貫かれたパフォーマンスは、前2者の地獄のような轟音に痛めつけられた耳の傷跡を癒す潤いをもたらした。

80年代の白石民夫、90年代の福岡林嗣と長谷川洋、21世紀のカミッサ・ビュアハウス、という3世代の地下音楽家の共演は、予想以上にスリルに満ちて実りある一夜の饗宴に結実した。方法やスタイルは異なれど、精神的に共通した姿勢が貫かれていることに、音楽表現の地下に流れる源流の迸りを見る思いがした。

剛田 武(ごうだ・たけし)
1962年千葉県船橋市生まれ。東京大学文学部卒。レコード会社勤務。
ブログ「A Challenge To Fate」
http://blog.goo.ne.jp/googoogoo2005_01

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