Concert Report #663

シャルル・デュトワ指揮 シカゴ交響楽団 「Dutoit and Dufour」
Chicago Symphony Orchestra directed by Charles Dutoit
Dutoit and Dufour / Dukas, Connesson, Saint-Saëns

Chicago Symphony Orchestra Hall
March 7, 2014 (Thu) 20:00
2014年3月7日(木) 20:00-
text by 神野秀雄 Hideo Kanno
photos by Todd Rosenberg (4 CSOs on stage) except others by Hideo Kanno

Chicago Symphony Orchestra
Charles Dutoit: Conductor
Mathieu Dufour: Flute
Paul Jacobs: Organ

Paul Dukas La Péri, Fanfare and poem danse

Guillaume Connesson Pour sortir au jour, Concerto for Flute and Orchestra
Danse processionnelle-
Entrée dans la Douat-
Danse de la Justification-
La Balance des Dieux-
Danse dans les chmps de lalou
(CSO Co-commission, World Premiere, 2014)

Saint-Saëns Symphony No. 3 in C Minor, Op. 78 (Organ)
Adagio - Allegro Moderato - Poco Adagio
Allegro moderato - Presto - Mestoso - Allegro

Preconcert Recital by Paul Jacob: Organ
Romantic Organ Music From Paris, featuring works by Vierne, Messiaen, Duruflé and Guilmant.
March 7, 2014 (Thu) 19:00
Louis Vierne (1870-1937) Final from Symphony No. 1, Op. 14
Maurice Duruflé (1902-1986) Sicilienne from Suite, Op. 5
Charles-Marie Widor (1844-1937) Toccata from Symphony No. 5 in F Minor, Op. 42, No. 1         

 まだ雪が残る3月上旬のシカゴ。まだミシガン湖も凍っていて寒いが、それでも春の足音を感じさせ、街を歩く人も多く、表情も春らしい。木曜日のシカゴ美術館は20時まで開館(イリノイ州在住者以外は有料)。18時頃あてもなく館内をうろうろしていると、なぜかまず目についたのが、葛飾北斎のコレクション『富嶽三十六景』。そして、出口に向かう通路が奇しくもフランス印象派の充実した展示。その影響を知っていても、意図して北斎とモネ、セザンヌ、シャガールなどの実物を同時に見たことはなかった。1万km離れ、時代を越えて日仏の感性が明確につながっていることを実感する。
 ゆっくり見たかったが、急いでお向かいのシカゴ交響楽団(CSO)に向かう。19時から、グラミーを受賞しているオルガン奏者ポール・ジェイコブによる無料オルガンコンサートが開催されるのだ(この週のオルガン・シンフォニーのコンサート・チケットが必要)。19世紀後半から20世紀前半のパリで生まれた作品を演奏する貴重なプログラムだ。ステージの後上方に演奏曲目は下記の通り(追加曲もあった)。ジュリアードのオルガン科主任を務めるポールによれば、シカゴはオルガンに恵まれている、オルガンがないカーネギーホ―ルをはじめ、ニューヨークのコンサートホールにはよいオルガンがないという。この時期のフランス作品はパッセージの妙よりも響きの移ろいを重視し、伝統的和声から見れば不協和音の多用もあるが、ロマンチックで官能的な響きが、コンパクトなホールを満たす。
 ポール・デュカス(1865-1935)というとディズニー映画「ファンタジア」、ディズニー・アトラクション「ファンタズミック」でのミッキーマウス指揮!のインパクトもあって<魔法使いの弟子>が圧倒的に有名になっているが、<ラ・ペリ>は完璧主義者のためか発表作品が極端に少ないデュカスの中でも最後となる1910年の作品。約21分のバレエのための音楽。その後の半世紀は教育に携わりメシアンやロドリーゴを育てるがほとんど作品を残していない。華やかなファンファーレから始まり、半世紀にわたり活躍した主席トランペット奏者アドルフ・ハーセスを擁するなど世界最高水準のCSO金管楽器セクションだけに、その響きに圧倒される。初めて聴く作品なのにファンファーレはよく知っていたフレーズだった。以前、日本の民放ニュース番組の冒頭でも使われていて、ある年代以上の日本人には聴き覚えがあると思う。デュカスはドビュッシーやストラヴィンスキーとも親交があり時代を共有していた。影響というより同時性だと思うが、フランス印象派的な和声が聴こえてきて、ドビュッシーの交響詩<海>を想起させるような構成や響きも見受けられる。そしてさっきシカゴ美術館で見たばかりで、<海>のスコアの表紙を飾った北斎の「神奈川沖浪裏」を鮮烈に思い出した。その日の北斎から印象派絵画、フランス音楽コンサートへの流れ、偶然ではあるものの、19世紀から経済的に急発展したシカゴがフランス文化に憧れたことにつながっている。
 CSO委嘱によるフルート協奏曲<Pour sortir au jour>。CSO主席フルート奏者マチュー・デュフォーが吹く。フランス生まれで25歳のときにダニエル・バレンボイムによりに主席フルート奏者に抜擢され、日本でもリサイタルを行っている。フランスの作曲家コネッソンの作品で、タイトルは英語では「Going forth by day」、「エジプト 死者の書」の原題だという。難解な曲ではなくオーケストラとフルートが呼応するように美しく響き合う。マチューの輝かしさと風のような自然さを併せ持つ響きが美しい。ドビュッシーの描く牧神パンの世界観にも通じる空気が感じられた。
 そして、ポール・ジェイコブのオルガンによるサン-サーンス<交響曲第3番>、通称<オルガン・シンフォニー>。大き過ぎず平面形が円に近いようなホールに左右と中央の3つに分かれてオルガンが配置され、オーケストラとオルガンの音量が絶妙にバランスされ、オルガンの低域は建物ごとほどよく振動させ心地よい。終盤のオルガンとオーケストラのやりとりは迫力に満ちていた。何よりもこのバランスのよさがシャルル・デュトワとポール・ジェイコブの凄さだと思う。
 華麗で迫力のある金管楽器セクション、美しく輝かしい響きの木管楽器セクション、繊細でふくよかな音を作り出す弦楽器セクションを擁するCSOのアメリカ的な魅力に、シャルル・デュトワは、極めて小さい音から強音までの大きなダイナミックレンジを活かす形で音楽を作り、繊細さと大胆さを連続的に表現し、まさに近代フランス音楽を表現する最適な状況で、素晴らしい演奏となった。デュトワは表情も終始にこやかで、CSO団員とのコミュニケーションとその音楽に満足しているようだった。ほぼ満席の観客もスタンディング・オベーションで素晴らしい演奏に応えていた。

【関連リンク】
シカゴ交響楽団
http://www.cso.org
この公演のオーディオガイド(iTunes)
https://itunes.apple.com/us/podcast/cso-audio-program-notes/id373604397
Paul Jacob
http://www.pauljacobsorgan.com
Guillaume Connesson Website
http://www.guillaumeconnesson.com


マチュー・デュフォー&パスカル・ロジェ
フレンチ・デュオの饗宴-フルートとピアノのための20世紀作品集-
(Octavia Records OVCC-00082)




ⓒ Hideo Kanno







神野秀雄(かんの・ひでお)
福島県出身。東京大学理学系研究科生物化学専攻修士課程修了。保原中学校吹奏楽部でサックスを始め、福島高校ジャズ研から東京大学ジャズ研へ。『キース・ジャレット/マイ・ソング』を中学で聴いて以来のECMファン。

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