Live Report #670

Steve Kuhn Trio スティーブ・キューン トリオ

2014年3月22、23日 @ Jazzhus Montmartre, Copenhagen Denmark
ジャズハウス・モンマルトル / コペンハーゲン、デンマーク
Reported by Atzko Kohashi
Photo by Torben Christensen /Courtesy of Jazzhus Montmartre

Steve Kuhn スティーブ・キューン (piano)
Buster Williams バスター・ウイリアムス (bass)
Billy Drummond ビリー・ドラモンド (drums)         

ヨーロッパでのスティーブ・キューンの人気は高い。1967年から数年間をスウェーデンで過ごした彼は、当時北欧はもちろんのことヨーロッパ各地で演奏していた。またNYへ帰国後74年からECMアーティストの一人として現在までにECM10作品をリリースしていて、往年の熱烈なファンも多い。そんな理由もあってキューンはほとんど毎年ヨーロッパを訪れる。ツアー直前に本人からの連絡でスイス、デンマーク、ドイツでコンサートがあると知った私は、急遽アムステルダムからコペンハーゲンに飛んだ。――会場は「カフェ・モンマルトル」の愛称で知られるジャズハウス・モンマルトルJazzhus Montmartre。

壁面のオブジェは創業時からのものだという。長年この店とジャズの動きを見守り続けてきた。1959年発足から三度の移転を経た後1995年に一時閉店、その後2010年にカフェ・モンマルトルは再び元の場所Store Regnegade 19Aに戻って再開された。店の雰囲気は当時そのままだという。店内を飾るベン・ウエブスター、ローランド・カーク、ジョニー・グリフィン、アート・ブレイキーらの写真からは、60年~70年代の様子を垣間見ることができる。当時スタン・ゲッツをはじめデクスター・ゴードン、ベン・ウエブスター、ケニー・ドリューらもコペンハーゲンに住んでいた。カフェ・モンマルトルは彼らにとっての「ヨーロッパの住処」のような場所だったのだろう。入り口のガラス窓に貼られたニールス・ヘニング・エルステッド・ペデルセンの大きな写真は彼がここのハウス・ミュージシャンだったことを語っている。ペデルセンに限らず多くのローカル・ミュージシャンたちが、この店で米国人ジャズメンらとのセッションから学び育っていった。「スウェーデンに住んでいた頃、時折コペンハーゲンにやってきてはここで演奏した」というキューン。カフェ・モンマルトルは彼にとっても懐かしい場所だ。

3月22、23日両日にわたって行われたこのコンサート、メンバーはバスター・ウイリアムス(ベース)、ビリー・ドラモンド(ドラム)。バスター・ウイリアムスはハービー・ハンコック セクステットのベーシストとして知られる他、マイルス・デヴィス、マッコイ・タイナー、ベニー・ゴルソン、デクスター・ゴードン、ボビー・ハッチャーソンらとの数々の名演を残す超大物ベーシスト。ビリー・ドラモンドは「現在もっとも音楽的で味のあるドラマー」とNYタイムズ紙も絶賛するドラマーで、キューンとは長年コンサート、レコーディングで共演している。過去に何度もキューン・トリオを聞いている私だが、この三人のコンビネーションで聞くのは今回が初めてだ。

タッド・ダメロンの作品「スーパー・ジェット」でステージが始まるや、お馴染みのナンバーがいつもと全く違う印象で聞こえてくる。キューンは共演ミュージシャンの個性を引き出し、それを生かしたトリオに仕立て上げていくのが巧い。バスター・ウイリアムスの強靭なウォーキングをより際立たせ、ビリー・ドラモンドのオープン・ソロを随所に取り入れる。バスター・ウイリアムスのベースのサウンドは近頃好まれる「弦の生音」とは異なる電気的な音で、これでウォーキングをするとステージ全体が揺れるほどの迫力だ。一方のビリー・ドラモンドは創造的でダイナミック、かつ歌心溢れる音楽的なドラミングでリスナーを魅了する。マックス・ローチのドラムソロを思い出す。「トリオは三者がイコールパートナーであるべき」とキューンは語っているが、トリオとしての統一感を保ちながらそれぞれが独自の主張をする今回のトリオはそのよい証だろう。

スタンダートとオリジナルを巧に交えたステージ構成も面白い。タッド・ダメロン、ケニー・ドーハム、ソニー・ロリンズ、ビリー・ストレイホーンらの曲からはキューンのバックグラウンドが偲ばれる。一方でオリジナル曲はどれもキューンの音楽性溢れる個性豊かな作品ばかり。だが、そこに違和感はない。ビ・バップにルーツを置きながら、その強靭なリズムに加え色彩豊かなサウンド、ユニークなフレーズでどの曲にも独自の世界を生み出していく。それがキューンの魅力だろう。ステージの合間、ロータス・ブロッサムの曲目紹介で「ピアニスト、コンポーザー、ボーカリスト、そしてトランペッターだったケニー・ドーハム」と、キューンをNYで最初に雇ったかつてのバンドリーダーを懐かしむ様子も印象的。

テーブルの向かい側の席にはデンマーク人ドラマーのアレックス・リールが座っている。この店のハウスドラマーのような存在で、長年ケニー・ドリュー、ペデルセンと共演してきた人物。また、キューンはもちろんのこと多くの米国人ジャズメンらとこの店でセッションを繰り広げてきた。「キューンがスウェーデンに住んでいた頃、モニカ・ゼッターランドも一緒にみんなでよくプレイした」と語るアレックス・リール。その彼が2ステージの一曲目で参加するというハプニングに観客は大喜び。ふと60~70年代にタイム・スリップしたような感じがする。ユーロジャズがクリスタル・クリアーなサウンドで汗のかかないジャズなどと評されるずっと以前、こうしてヨーロッパのミュージシャンたちは本場NYのエッセンスを身につけようと米国人ジャズメンとの熱いセッションを毎晩楽しんでいたのだろう。

コンサート終了後の素直な私の感想をそのままトリオのメンバーに伝えたくて楽屋に立ち寄った。「ヨーロッパでは味わえないジャズのエッセンス・・・こういうのが聞きたかった! 」と。直球勝負のストレート・アヘッドなジャズの爽快感、大切なものを取り戻した気がした。
「僕たちが人生を捧げてきた音楽を、どうぞ楽しんで聞いて欲しい」――ステージ冒頭でのキューンの言葉が再び私の心に響く。このコンサートの翌日、キューンは76才の誕生日を迎えた。

Set list on March 23th
1st set
Super Jet
Adagio
Emily
Passion Flower
Stella by Starlight
Lotus Blossom

2nd set
???? (from Standard)
Pavane pour une infante defunte
Lamp is Low
Clotilde
Romance
Magic Samba
Airgine
Zoo

小橋敦子( こはし・あつこ)
慶大卒。ジャズ・ピアニスト。翻訳家。エッセイスト。在アムステルダム。
http://www.atzkokohashi.com/

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