Concert Report #672

Point de Vue vol.8 (ポワン・ドゥ・ヴュ)

2014年3月27日(木) 津田ホール(千駄ヶ谷)
Reported & Photo by 多田雅範



小森俊明 : ピアノ三重奏曲「希望の時代」(新作初演)
平川加恵 : 静謐な日常における諧謔についての考察 (新作初演)
森山智宏 : リチェルカーレW (新作初演)
山口恭子 : エレメント 〜チェロ四重奏のための〜(新作初演)
石島正博 : 8声のマドリガル (新作初演)
鈴木輝昭 : 弦楽四重奏曲 第3番 (新作初演)

【招待作品】〜追悼演奏〜
三善 晃 : こどものための合唱組曲「オデコのこいつ」(1972)
 合唱:出雲市立第一中学校合唱部
 指揮:浜崎香子
 ピアノ:鈴木あずさ         

若い演奏家たちの、その動きの初々しさ付きの、情熱付きの、名演奏。連打。

合唱グループの多焦点聴取。

マウリツィオ・カーゲルで断ぜられない今日のハプニング。

古典も現代も突破する鈴木輝昭の弦楽四重奏のかがやき。

島根からバスで12時間かけてやってきた中学生36名の声、声、声。今日の輝き。


08年3月に、府中の芸術の森に出かけて第2回「Point de Vue」演奏会を聴いている。三善晃のマリンバ協奏曲が目当てだった。そこで聴いた鈴木輝昭の「Dialogue」(1997)の強度に「古典的でありながら現代的である語法に驚愕する」と記した。この週のコンサート通いではクロード・ヴィヴィエと鈴木輝昭と小山薫という作曲家を発見していた。

今年2月に金沢へ出かけて巨大な感動をしてきたのは、三善晃編曲の「夕焼けこやけ」管弦楽編曲鈴木輝昭だった。

この日のプログラムでも、鈴木輝昭の「弦楽四重奏曲第3番(新作初演)」が突出していた。不協和音や図形的な感覚に訴えるいわゆる現代音楽らしい作品ではなかった。調性と運動性と速度の摩訶不思議な生命体のような弦楽四重奏だった。若い演奏家たちの集中した意識の高みも、相乗効果となった。

そのほかのどの新作初演も、瑞々しかった。

石島正博の「8声のマドリガル」、合唱グループの多焦点聴取を可能にする、ぐるぐる回るような声の技法にはたまげた。

森山智宏は東京混声合唱団で新作初演を聴いたことがあった。この日の「リチェルカーレW」は、突拍子のない指示を編んだマウリツィオ・カーゲルのやり方で、あらら何をいまさらと思いながら体験していたが、不思議ととても良かった。これは奏者の意識なのかな。こちらの予想へのはぐらかし具合が心地いいとしか言えないでいる。

コンテンポラリー最前線をカッティングエッジするといった、肩にちからが入ったものが感じられない。こちらもいじわるに、時代を切り拓くサムシングニューなんて無いだろという構えで席に着いているのに。何だろう。若い奏者たちの歓びに満ちた演奏態度なのだろうか。現代音楽弾いて何十年というアスリートみたいな奏者だったなら、きっとこんなふうに聴こえなかった。

これでは作品のクオリティを批評するという現代音楽に求められるところに応じていないではないか。いや、確かにわたしはこのコンサートをものすごく楽しんだのだ。特別この日にわたしが優しい気持ちのコンディションにあったとかいう個人的なモンダイではないような気がする。

だから、そうとしか書けない。

三善晃「オデコのこいつ」は、1年以上前から準備されていたプログラムだが、昨年10月4日に先生は旅立たれ図らずもこれが追悼演奏となった。浜崎香子先生に率いられた36人の出雲市立第一中学校合唱部のみなさん。島根からバスで12時間かけてやってきたときく。学生服の少年少女が入場してくるだけで、胸が締め付けられる。この世の理不尽や生死に対する寓意、を、なぜ童声でなければならないのか。「童声+オケの三善作品は日本中どこへでも聴きに行く」とここ10年、決断ばかりは早いわたしだ。理由は何なのだ。ミヨシが童声を発見したのはどのようだったのか。聴いてはいけないこの世のものとは思えない合唱表現だ。・・・この世の叡智の限りを尽くしても届くかどうかの真実を照らすコトバが、年端のいかない童声によって唱えられるという構造。

「オデコのこいつ」を作詞した蓬萊泰三さんも会場で拍手を受けていた。

このコンサートを構成するピュアな精神に照らされて恥じない生き方を考えなければならない。そんなふうにぐっと横断歩道を踏みしめて千駄ヶ谷の駅から歩いて帰ってきた。


「Point de Vue(視座)」演奏会シリーズ(企画・構成=森山智宏・鈴木輝昭)は、邦人作曲家の紹介と発表を目的に2007年より定期的に開催され、これまでに多数の新作初演、並びに三善晃作品の紹介を行ってきた。第8回演奏会では、招待作品として、三善晃作曲 同声合唱組曲『オデコのこいつ』が、島根県出雲市立第一中学校合唱部の合唱、浜崎香子指揮、鈴木あずさのピアノにより演奏される。(多田雅範)


多田雅範(ただ・まさのり)
Niseko-Rossy Pi-Pikoe。1961年、北海道の炭鉱の町に生まれる。東京学芸大学数学科卒。元ECMファンクラブ会長。音楽誌『Out There』の編集に携わる。音楽サイトmusicircusを堀内宏公と主宰。音楽日記Niseko-Rossy Pi-Pikoe Review。

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FIVE by FIVE 注目の新譜


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追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

INTERVIEW
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義

CONCERT/LIVE REPORT
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
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