Live Report #674

三上 寛 再見参!「生歌 生ギター」

2014年4月4日 白楽Bitches Brew
Reported by 稲岡邦弥
Photos by 相本 出

三上 寛 (vo, g)         

Jazz Tokyoのコントリビュータのひとりから「三上寛のCDを紹介したいのだけど...」とやや遠慮勝ちに問合せがあった。「もちろん、問題ないですよ。Jazz Tokyoのコンセプトは Jazz and far beyondですから...」と答えた。アメリカのDownbeat誌は“Jazz and Beyond”を謳っているが、Jazz Tokyoは beyondどころかfar beyond。ジャズとともにクラシックはもちろん、邦楽やアングラ系ロック、エスニックまで何でもあり。人気連載エッセイ「タガラ・ラジオ」では、アイドル系からJ-pop、NYダウンタウン系からクラシックまで何でもござれのてんこ盛り。ももクロやオザケンが頻繁に顔を出す。そんな折りも折り、白楽のビッチェズ・ブリューに三上寛が出演するというので、大学の同期会をドタキャンして聴きに出掛けた。

ビッチェズ・ブリューは20人も入れば満員になる小ぶりのジャズ・バーなので、 手を伸ばせば触れる距離で聴く三上寛の存在感は想像をはるかに超える。役者として数十本を超える映画やTVドラマに出演しているキャリアがあるからなおさらだ。ギブソンのエレアコを抱え、目を閉じ、腹の底から声を絞り出す。と思うと、マイクに唇(くち)を付けささやくように語りかける。少し深めにかけたリヴァーブが効果的だ。前回は素で通したようだが、三上のように役者でもありアシッド系と呼ばれるパフォーマンスの場合は、アンプを通さないとそのスキルが充分生かせないだろう。歌詞はメロディに乗せたりセリフになったり、ヴォイスもシャウトしたりウィスパーだったり変幻自在だから。そうだ、三上は詩人でもあったのだ。詩作は、同郷の寺山修司(1935~1983)の影響で始めたとのことだが、当夜も寺山の思い出を語りつつ寺山の<戦士の休息>を歌った。<戦士の休息>は、世界フライ級とバンタム級の2階級を制覇した現代最高のボクサー、ファイティング原田に捧げられた詩。ちなみに、寺山のボクシング好きは並外れていて、<明日のジョー>の主題歌の作詞も手掛けている。作曲はジャズ界の逸材、八木正生である。寺山は劇団・天井桟敷の旗揚げ公演の初日、客席に張ったリングにボクサーと沖至を上げトランペットを吹かせた。沖はヒットしてくるグラヴをかいくぐりながらラッパを吹いたという、これは寺山に沖至を推薦したビッチェズ・ブリューのオーナー、杉田誠一の証言。三上は内外のジャズ・ミュージシャンとの共演も多く、フェイクやアドリブもお手のもの。当夜も島倉千代子の<東京だよ、おっかさん>、藤圭子の<夢は夜開く>を歌ったが、フェイクをはるかに超えた三上の歌として唄う。元歌と通底しているのは情念だけである。<東京だよ、おっかさん>は、18歳でひとり青森の田舎から上京した三上の母恋歌、<夢は夜開く>は三上のブルースだ。フォークに語りはつきものだが、三上のテーマは徹底的に“ふるさと”。生まれ故郷の北津軽、高校時代を過ごした五所川原、同郷のヒーロー、太宰治と寺山修司。それに“70年代”、か。三上が上京したまさにその年発生した連続射殺事件。遺言として永山則夫(当時19才)と三上寛のTVドキュメンタリーを制作したのは、ジャーナリストの田原総一郎だったが、三上は<ピストル魔の少年>を作詞・作曲した。犯人へのシンパシーが問題になり、デビュー・アルバム『三上寛の世界』(1971)自主回収の原因となったこの歌を生で聴けるとは思わなかった。まてよ、聴けたと思ったのは妄想か。三上の口から「永山則夫」の名が出たのははっきり記憶しているのだが。三上寛を目の前にして、僕の頭の中では過去と現実が激しく交錯していた。
店から横浜まで連れ立って帰ったのだが、三上は音楽にもアルコールにも微塵も酩酊せず、ひとり誰よりも覚醒していた。
5月3日、僕はまたあの幻惑の世界に身を置くことになるのだろう。(稲岡邦弥)

* 関連リンク;
http://www.jazztokyo.com/column/sugita/column_65.html


稲岡邦弥(いなおか・くにや)
1967年、早大政経卒。『改訂版 ECMの真実』『ECM Catalog』(共に、河出書房新社)『ジャズCDの名盤』(文春新書)
本誌編集長。

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