Live Report #675

フレッド・ハーシュ・トリオ

2014年4月7日(月) 丸の内コットン・クラブ
Reported by 多田雅範
Photos by 米田泰久/写真提供:Cotton Club

Fred Hersch (p)
John Hébert (b),
Eric McPherson (ds)

1. You and the Night and the Music
2. Arcata
3. I Fall In Love Too Easily
4. Skipping
5. Black Dog Pays A Visit
6. Days Gone Bye
7. Change Partners
8. The Peacocks
9. Bemsha Swing
Enc) Valentine (solo)         

ついに、フレッド・ハーシュのピアノの音を生で体験できた。昨年のソロ公演、来れなかった。それにしてもコットン・クラブはアーロン・パークスといいフレッド・ハーシュといい、旬の世界最高ネタを仕入れるブッキングが続いている。ニューヨークの活気を、もっともリアルタイムで届けてくれるハコだ。

このひとのピアノは今、世界最高峰にある。トリオやソロのヴィレッジ・ヴァンガード・ライブ盤でグラミー賞をものにしているジャズ・ピアニストだけど、もうジャズ・ピアニストの枠は超えてる。白血病の死の淵から帰還した天使の指。音楽の神さまは、ハーシュを地上に遣わしている。もうブラッド・メルドーの先生だと紹介する必要はない知名度、だいたいメルドーは現代的ロックフレイバで師を変奏させたことは明白になっている。

その軽やかさ、音の芯の強度、粒立ち、そして武道家ならわかると思うけれど瞬時瞬時の可変性の自由度の高さ、「すべての音がイクラの粒だ!」おれの名言、ちょっとハズしている、それにこのピアノの音そのもの!魅惑の引力はピリス級。この音だけでごはん何杯もいける。やっぱりハズしている。

福島恵一さんがアンドラーシュ・シフについて「即興的瞬間」と指したものと同質の高み。(http://miminowakuhazushi.blog.fc2.com/blog-entry-94.html

ファースト・セットではロンリーウーマン〜ナーディスとリレーした素晴らしいセットだったという。ぼくが聴いたセカンドではそれは演らなかったけれど、現在のハーシュの到達と好調は最近の名盤群よりもさらに高みにある、それは唖然とするばかりだ。

つうか、やはり録音では録れないのだ。このピアノの音。音。音。

イクラの粒だとか、ピリスでもないしとか、可変性の自由度とか口走ってしどろもどろになっていたけれど、キュートすぎるリボンちゃんが「こういうピアノは世界的にみてもあとは渋谷毅しか居ないと思う」と発言、ま、まさに!それだ。天啓のような連想だな。

ベースのジョン・エイベアの的確で音楽を感覚的浮遊に加速させる、いわゆるジャズ文法に安寧としない(堕ちない)知性はトーマス・モーガン級のものがある。

エリック・マクファーソンのデジタルでズラしを織り込むような感覚的スイングも聴きものだった。

このトリオでしか出せないビートのコンビネーションがある。この悦び!それはもう現代ジャズにとっては、長らくジャレット・トリオ、メルドー・トリオが基幹OSみたいなものだったから、その真似事エピゴーネンには飽き飽きしてたんだろう、それすらかなりの技能と熟練が必要なものなのだし。だからってデジタル・ビートや人力トラムンベースにしたところで、コンビネーションの空間性の構築が更新されていなければ逃げにしか感じられないものだ(若いひとが飛びつくのはいたし方ない)。

で、そもそもフレッド・ハーシュのピアノ演奏が、ジャズ史から宙に浮いている。クラシックのピアニシモの系譜・・・と、くちを突いて出るが。そもそも昨年に、フランスの響きの魔術師ブノワ・デルベックとダブル・ピアノ・トリオ(!)レコーディングをやったハーシュ、その視線の先が気になる。グラミー賞取った大御所が手がける冒険じゃないだろうに。どこまでも地上の価値スケールには届かないサウンドを思考するハーシュはやはり天使だと、これもまた逃げの形容になるけれども、思わざるを得ない。(多田雅範)


多田雅範(ただ・まさのり)
Niseko-Rossy Pi-Pikoe。1961年、北海道の炭鉱の町に生まれる。東京学芸大学数学科卒。元ECMファンクラブ会長。音楽誌『Out There』の編集に携わる。音楽サイトmusicircusを堀内宏公と主宰。音楽日記Niseko-Rossy Pi-Pikoe Review。

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