Live Report #680

アルフレッド・ロドリゲス&ザ・インヴェイジョン・パレード

2014年4月15日 ブルーノート東京〜東京・南青山
Reported by 悠雅彦
Photos by Great The Kabukicho/提供:BlueNote Tokyo

<1st Set>
1.Invasion Parade
2.Veinte Anos
3.Timberobot
Anc. El Guije

アルフレッド・ロドリゲス(p)
ホルヘ・ヴィストル(tp)
アリエル・ブリンゲス(ts、ss)
レイニエ・エリザルデ(b)
ヘンリー・コール(ds、perc)

 アルフレッド・ロドリゲスは3年前の11月だったか、トリオを率いてブルーノート出演したときの集中力と力感が炸裂するような演奏に強い衝撃を受け、秘かに注目していた。このときもクィンシー・ジョーンズ・プレゼンツと、さりげない形ながらも宣伝チラシには記されていた。ところが昨年、ジャズ界の大御所的リーダー、あるいは名物プロデューサーとして歴史に大書される活躍を繰り広げたクィンシー・ジョーンズの特別公演をブルーノートが主催したとき、熱演を披露したのがゲストとして名を連ねたロドリゲスだったとあとで聞いた。かつてクリフォード・ブラウンやサラ・ヴォーンをプロデュースした彼が惚れ込むくらいだから、このロドリゲスというピアニストがただ者ではないというだけでなく、彼が21世紀のジャズ・シーンをになう最も才能豊かな俊英ジャズ・アーティストだとの確信をもっていたことが分かる。吹込プロデュースまで手がけている理由がそこにある。
 かくしてロドリゲスの本格的な羽ばたきが始まったのだ。キューバ生まれの彼が2009年に米国へ移住し、音楽家としての活動を本格化させた一事については、クィンシーの介在なしには考えられない理由がここにある。チャーリー・ヘイデンの働きかけでニューヨーク・デビューを果たし、やがてマイアミへ移住した20年前のゴンサロ・ルバルカバの動向と重なる。大きな違いは黒人系のルバルカバに対して、ロドリゲスがスペイン系の美青年を印象づける白人演奏家だという点だろうか。
 そのアルフレッド・ロドリゲスは5人編成のニュー・グループで登場。そのお披露目となる初日のファースト・セットを聴いて、大げさだとの非難は承知の上で言うのだが、ロドリゲスは言うに及ばず他の4人のメンバーの力量を含めたグループ自体が目をみはる素晴らしさだった。彼が新たに主宰したこのニュー・グループ、Invasion Parade (インヴェイジョン・パレード)のメンバーは察するところキューバ出身のようだが、みな一筋縄ではいかない能力と技法の持主だ。ロドリゲスが米国移住後に結成したユニットだから、もしかすると彼の呼びかけでキューバから米国へ拠点を移して活動し始めた若手かもしれない。
 2011年に次ぐロドリゲスの今回のブルーノート出演は、クィンシー・ジョーンズ制作のデビュー作から約2年ぶりとなる第2作『The Invasion Parade』の発売記念を銘打ったコンサートのためである。
 そのグループ名でもタイトル・チューンでもある「Invasion Parade」で第1幕を切って落とした演奏。ブリンゲスのソプラノ・サックスのカデンツァ風ソロで始まり、テーマ提示後に速いテンポの刺激的リズムがエリザルデのベースとコールのドラムスによって繰り広げられる中、ロドリゲスがピアノの化身と化したかのような、奔放を通り越して全身が真っ赤な火の玉 となった無伴奏ソロを繰り広げて聴衆を釘付けにした。ロドリゲスに次いではホルヘ・ヴィストルのソロ。平凡だと思った出だしからの展開途中で熱した火花が飛び始めると、彼もまた驚くべきプレイを発揮した。これらのソロがテーマの和声によるのか、あるいは単なるモチーフに基づいて行われているのかはこの演奏からだけでは分からない。だが、ソロでも各メンバーが次々にリレーする従前のパターンを脱し、リズミックなアンサンブルやリズムの展開を挟むようにしてメンバー個々がかなりのスペースを与えられてソロ(多くは無伴奏ソロ)を繰り広げる彼らの演奏は、新鮮な興趣に富むだけでなく聴く者を強く刺激する。こうしたドラマの運びゆえか演奏時間は長くなる。1時間を悠に超えるファースト・セットで演奏した曲は、アンコールの「El Guije」を含めてもわずか4曲。
 2曲目の「Veinte Anos」。オープニングでソロを披露しなかったレイニエ・エリザルデのベース・ソロが冒頭を飾る。彼もまた魅力的なトーンとピッチのよさが印象的なベーシストだった。ブリンゲスはここではテナーに持ち替え、短調のメランコリックなテーマを吹く。一転してキューバ往年のセステート・アバネーロやトリオ・マタモロスの哀愁味豊かなソンをしのばせるこの曲や、3曲目の「Timberobot」での随所で流れ出るキューバの黄金時代の調べやリズミックな魅力は、現地でじかに体験した者にはすこぶる懐かしい。後者ではトランペットとテナーがテーマをはじめ随所でジョイント演奏し、オープニングの曲などとは違った趣の展開を見せる。ロドリゲスはこの2曲も含めてほぼ全曲でソロを披露したことになるが、今後さらにどんな発展を見せてくれるのかと期待がふくらむ。
 最も印象的だったのは、5人が5人とも一騎当千の強者ぞろいだったことと、ソロでは全員がそれぞれに違う芸風(気風)のプレイで自由奔放な展開を披瀝したこと。しかもロドリゲスを筆頭に全員のソロがみな思いおもいのストーリーを持っていたことと、そのファンタジーに郷愁や追想といったエモーションが立ちこめるかのような情景を漂わせていたことが、とりわけ印象的だった。最後に、ドラマーのコールが随所で聴く者を酔わせるリズムを展開して演奏を引っ張ったのはお見事。


悠 雅彦(ゆう・まさひこ)
1937年、神奈川県生まれ。早大文学部卒。ジャズ・シンガーを経てジャズ評論家に。現在、朝日新聞などに寄稿する他、ジャズ講座の講師を務める。

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