Live Report #681

JAZZ非常階段+JAZZBiS階段
2014年4月22日(火)新宿Pit Inn
Reported by 剛田 武
Photos by Yuko Under

非常階段:
JOJO広重(g)
T.美川(electronics)
JUNKO(vo)
岡野太(ds)

坂田明(as,cla)
大友良英(g)
ヒラノノゾミ(electrinics)
ファーストサマーウイカ(ds, vo)

        

第1部
1. JOJO広重(g)T.美川(electronics)大友良英(g)
2. T.美川(electronics)ヒラノノゾミ(electronics)
3. 大友良英(g)ヒラノノゾミ(electronics)ファーストサマーウイカ(ds)
4. さようなら世界夫人よ/JOJO広重(g)ファーストサマーウイカ(vo)

5. JOJO広重(g)JUNKO(vo)ヒラノノゾミ(electronics) 
6. 坂田明(cla)JUNKO(vo)

7. 坂田明(as)T.美川(electronics)ファーストサマーウイカ(ds)

8. 坂田明(as)岡野太(ds)



第2部
1. JOJO広重(g)大友良英(g)ヒラノノゾミ(electronics)ファーストサマーウイカ(ds)

2. T.美川(electronics)大友良英(g)岡野太(ds)

3. 坂田明(as)大友良英(g)JUNKO(vo)岡野太(ds)

4. JOJO広重(g)T.美川(electronics)坂田明(as,cla,vo)大友良英(g)JUNKO(vo)岡野太(ds)ヒラノノゾミ(electronics)ファーストサマーウイカ(per)

アンコール:
JOJO広重(g)T.美川(electronics)坂田明(as)大友良英(g)ヒラノノゾミ(electronics)ファーストサマーウイカ(ds) 

T.美川's cap L to R JOJO広重 大友良英 坂田明 前列L to R:
T.美川 JUNKO
ヒラノノゾミ ファーストサマーウイカ
後列L to R:
JOJO広重 大友良英 坂田明 岡野太

結成35周年を迎えたノイズ・バンド非常階段による異種ジャンル格闘コラボレーション「階段プロジェクト」のひとつの究極型が、ジャズとノイズの融合=「JAZZ非常階段」だといえる。2012年4月9日に新宿ピットインで、坂田明と豊住芳三郎(ds)を迎えて初めて開催され、ピットイン始まって以来の大音量の演奏が渦巻くカオス空間を生んだ。

ジャズの世界では高柳昌行の集団投射をはじめとしてノイズ的な演奏は60年代から試みられていたし、ジミ・ヘンドリックスのフィードバック・ギターやロックバンド頭脳警察の曲の即興パートに影響された若き日のJOJO広重に、集団即興ノイズ演奏の具体的なヒントを与えたのが山下洋輔トリオだったという事実があるにも拘らず、ジャズとロックの水と油のような世界観の隔たりのために、両者が交流することはほとんど無かった。30年以上経って、ジャズの坂田・豊住が、ロックの非常階段と、ジャズの聖地新宿ピットインで共演したことは、両者のみならず、世界の音楽シーンにとっても待ち望まれたペレストロイカであったことは間違いない。

この日のステージはレコーディングされ、同年9月に『made in Japan〜live at Shinjuku Pit Inn 9 April, 2012』としてCDリリースされた。注目すべきは、同時発売で非常階段と坂田明が新たにスタジオで吹き込んだスタジオ録音盤『made in studio』がリリースされたことである。収録された4つの組み合わせの異なる演奏には、このプロジェクトが一回限りの饗宴に終わるはずのない、新たな予感が漲っていた。

それを証明するように、JAZZ非常階段は、坂田と豊住、勝井祐二(vln)、山本精一(g)、大友良英(g)などをゲストに迎え、年1、2回のペースで新宿ピットインや大阪・名古屋で開催されてきた。ノイズ・ファン、フリージャズ・ファン、ロック・ファンが入り乱れるライヴの現場は、毎回演奏者と観客が生み出す異常なまでの熱気と昂奮に溢れた祝祭空間に生まれ変わった。激烈な轟音、激しいアクション、客席へのダイビング、渦巻く大歓声と怒号、スタンディングオベーション。それはまさに、あらゆる規制や束縛から解放さ れ、自由に音楽を謳歌する、生身の人間の究極の歓びのカタチであった。

今回、そのカオスが新たな局面に突入した。以前レポートしたボーカロイドとのコラボレーション「初音階段」と同時期にスタートした階段コラボ「BiS階段」で共演するアイドル・グループ「BiS(新生アイドル研究会)」の参画である。現在までの階段コラボの中で、最も常軌を逸し、最も驚きに満ち、最も話題性の高いユニットが「BiS階段」だと言えよう。当初は非常階段(JOJO広重)の悪ノリとも捉えられた「アイドル+ノイズ」の融合は、音楽的好奇心旺盛な「研究員」と呼ばれるアイドル・ファンに予想以上に歓迎され、それまで「ストイックであることが美徳」という不文律を頑に守ってきたノイズ・ファンの心をも溶かし、大きな関心を引き起こした。面白いのは、海外メディアがこぞってこのユニットを高く評価したことと、アイドルとノイズに加え、さらに幅広いジャンルが参入した拡大ユニットが派生したことである。パンクバンド「原爆オナニーズ」を加えた「原爆BiS階段」、パフォーマンス集団「電撃ネットワーク」との「電撃BiS階段」、ロックバンド「ソウル・フラワー・ユニオン」との「ソウルフラワーBiS階段」など、単なる足し算を遥かに超えた「アルケミー(錬金術)」が次々と実現した。JOJO広重が1984年に立ち上げた自主レーベルに「アルケミー・レコード」と名付けたことは、決して夢物語ではなかったのである。

それにしても、ジャズとアイドルがノイズを介して合体するとは予想外 だった。BiS階段のライヴでは、アイドル側が過激なステージ・パフォーマンスでファンを鼓舞することは毎度のことだったが、演奏面ではあくまでアイドル・ソングを振付けで歌うのが常だった。歌って踊ることこそアイドルのアイデンティティーと言っていいだろう。しかし、非常階段と共演を重ねるうちに、ノイズ演奏自体に興味を持つアイドルの少女も現れた。そのひとりファーストサマーウイカは、元々演劇出身でロックバンドでドラムを演奏していたという経歴の持ち主。BiSを離れて、JOJO広重とデュオ演奏を披露したこともある。もうひとり、2010年BiS結成当初からのオリジナルメンバーのヒラノノゾミは、2012年にBiS階段として非常階段と初共演した際、初対面のJUNKOに声の出し方を尋ねたという。その頃 からノイズへの興味が芽生えたのかもしれない。いつしか美川俊治の弟子と呼ばれるようになる。

1年ぶりのJAZZ非常階段のライヴにBiSのメンバーが参加したことは、今年7月に解散するBiS(当然BiS階段も解散)への餞(はなむけ)かもしれないし、深読みすれば、MCで広重が話したようにメンバーをノイズ界に勧誘するためかもしれない。動機はどうあれ、結果としては、今まで以上のカオスの極みといえるライヴ空間を創出した、前代未聞の画期的な試みとなった。ファーストサマーウイカとヒラノノゾミは、正直言ってノイズ演奏に於いては初心者に過ぎない。どんなに大胆にチャレンジしても、ジャズ界の大ベテラン坂田明はもちろん、35年間ノイズを演奏し続けてきたJOJO広重、美川俊治、 JUNKOの三人や、大阪アンダーグラウンドロック界きっての名ドラマー岡野太、故・高柳昌行に学び、世界の前衛音楽シーンで活躍する大友良英の演奏に適う訳がない。しかし注意すべきなのは、実際のライヴの現場に於いては、演奏の経験や技術だけで善し悪しが決まるのではないという事実である。ステージ・パフォーマンスに関しては、アイドルのふたりは音楽家5人に匹敵するばかりか、ビジュアル面では間違いなく勝っている。

さらに忘れてはならないのは、観客の存在である。予想通り、BiSのメンバーが出演することが発表された途端にツイッターではBiSファンの熱烈なラブコールが飛び交い、チケット発売日にはピットインの前に徹夜で並ぶ研究員の列が出来た。ライヴ当日のピットインは、明らかに普段の客層とは異なるアイドル・ファン特有の濃厚な空気が立ちこめ、一種異様な雰囲気だった。かといって演奏の邪魔をすることは一切無く、ステージを熱心に見守る真摯な姿勢は、ジャズやノイズ目当の観客と寸分違いはない。むしろタイミングの良い歓声やコール(掛け声)は、おざなりな拍手や溜め息よりもずっと演奏効果を高め、場を和ませるものだった。ネコの背を撫でるように優しい手つきでエアシンセを奏でるヒラノ、ドラムセットから立ち上がり、タンバリンを手に客席を練り歩くウイカ、それをオタ芸で盛り上げる観客が生み出す一体感は、単なるジャンルを超えたセッションには留まらない、新しい音楽パフォーマンスの在り方を示唆しているように思える。

筆者の隣に座った二人組がアイドルの現場ではお馴染みのサイリウム(ペンライト)を振って歓声を上げていた。サイリウムの眩しい光が舞うのはピットインの48年の歴史上初めてのことかもしれない。そんな歴史的行為を、何の躊躇いも無く実行してしまう素直な姿勢こそ、正しい音楽の楽しみ方ではないだろうか。

BiSの解散後、ふたりの内のどちらかが本気でノイズ演奏の道へ進むことは夢物語に違いない。しかし、この場でノイズ演奏を経験したことが、彼女たちの将来の夢の実現のために少しだけでもプラスになれば、音楽のパワーの正しさの証明と言えるだろう。(剛田武)

関連リンク;
http://www.jazztokyo.com/live_report/report583.html


剛田 武(ごうだ・たけし)
1962年千葉県船橋市生まれ。東京大学文学部卒。レコード会社勤務。
ブログ「A Challenge To Fate」
http://blog.goo.ne.jp/googoogoo2005_01

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