Live Report #682

三木俊雄 フロントページオーケストラ
Toshio Miki Front Page Orchestra

2014年4月24日(木) 19:30〜 青山 ボディ&ソウル
Reported and photographed by 神野秀雄

三木俊雄(ts) 近藤和彦(as) 浜崎 航(ts, ss, fl)
松島啓之(tp, flgh) 奥村 晶(tp, flgh)
片岡雄三(tb) 山岡 潤(euph)
福田重男(pf) 上村 信(b) 柴田 亮(ds)

1. Stop & Go
2. Papillon
3. Escher’s Vision
4. A House is not a Home (Burt Bacharach, Hal David)
5. Echoes of the Forest

6. Suspent (浜崎 航)
7. If I Told a Lie
8. Rachel’s Lament
9. 隅田川
10. Quantum Leap

11. Time on My Hand

作編曲:三木俊雄 (4. 6を除く)

Jazz Tokyo 新年号恒例の「ことしの このCD(国内盤) 2013」を見た瞬間、驚かれた方も多いと思う。同じアルバム・ジャケットが3枚並んだ。『三木俊雄 フロントページオーケストラ/ストップ&ゴー』(55 Records)だ。少なくとも神野と多田雅範さんは10月23日リリースのこのアルバムを聴いていなかった。そうすると、おそらく『ストップ&ゴー』を聴いていた選者の半分以上が『ストップ&ゴー』を選んだのではないかと思われ、ひとつの事件だった。ちなみに、大友良英が『あまちゃん』『Quintet - Sextet』で計2枚選ばれたのも2013年を特徴するできごとだった。
フロントページオーケストラは1996年に活動を開始。神田TUC、原宿キーノートを経て、2001年から青山ボディ&ソウルで定例ライブを行ってきた。2004年にファースト・アルバム『ハーモニー・オブ・ザ・ソウル』をリリースしている。「ことしの このCD」事件は個人的にとても気になっていて、何か責任すら感じてしまって、フロントページオーケストラに何が起こっているのかを確かめるべく、ボディ&ソウルで隔月最終木曜日(いまのところ偶数月)に行われている定例ライブに足を運んだ。実は以前、定例ライブに通っていた時期があり、ちょっとブランクをおいての再会になる。
オーケストラが動き出すとすぐ、三木のブラス・アレンジの巧みさと自由さに驚かされる。10人という「最小限のラージ・アンサンブル」だが、ひとつひとつのパートが無駄のない大切な動きを見せ、全体像としてダイナミックに躍動し、繊細さを常にもっている。マリア・シュナイダー的な感性を見る瞬間もあったが、全体に三木独自のアレンジ手法で、他に例のないサウンドを生み出す。近藤、浜崎、松島、奥村、片岡、山岡という日本最高の管楽器ミュージシャンたちが美しいアンサンブルを奏で、そして、極上の個性に溢れたソロプレイを繋いで行く。編成上特異的なのは、山岡のユーフォニアムの存在だろう。日本のほぼすべての中学高校にある吹奏楽の世界で、ユーフォニアムはメジャーな楽器で根強い人気を持つが、吹奏楽を卒業してみるとほぼ居場所がないという不遇の金管楽器だ。この音域をユーフォニアムで包み込む三木の感性、そしてそれに応える山岡の力量は大きい。
そして、リズム隊が素晴らしくオーケストラの方向を特徴づける。柴田が自由自在のドラミングでバンドのテクスチャーと色彩感を作り、上村の表現力豊かなベースとともに強力なグルーヴを生んでいく。福田のピアノは透明感があり、文字通り肩の力が抜けた弾き方で優しく、ときに鋭くブラスサウンドに溶け合っていく。この3人しか出せないオンリーワンのサウンドだ。

私が何年か前までフロントページオーケストラのライブに通っていたのは、2004年に伊藤君子のレコーディングをきっかけに小曽根真 featuring No Name Horses が結成され、次いでバンドとしての『No Name Horses』(Verve/ユニバーサル)を2006年にリリース。そのメンバー構成にエリック・ミヤシロ EM ビッグバンドとともに、三木俊雄フロントページオーケストラが色濃く反映され、両バンドに関心を持ったことが背景にある。当時、三木の人柄を表したような誠実で堅実なプレイとアレンジには魅力を感じながらも、どこかもどかしさを感じる点があった。
だが久しぶりに聴く、三木もフロントページオーケストラも見違えるように変貌を遂げていた。以前は、美しいハーモニーではあったが静的な印象があり、今はハーモニーが踊り出すようなマジックがあり、そこに三木独自の音が存在するという感覚がある。自分もサックスを吹くものとして、ジャズに求めていた興奮と充実感が率直にここにあることに気づかされる。悠雅彦主幹もFive by Five(CDレヴュー)で『ストップ&ゴー』を“会心のリアル・ジャズ・アルバム”と最大級の賛辞を贈っていて、リアル・ジャズをキーワードにしたこの文章に完全に同意する。
今後も青山ボディ&ソウルでの定例ライブが隔月最終木曜日に予定されており、次回は6月26日だ。ぜひ、ライブでこの興奮を体験して欲しい。(神野秀雄)

【JT関連リンク】
ことしの このCD(国内盤)2013
http://www.jazztokyo.com/best_cd_2013a/cd2013a.html
Five by Five 『ストップ&ゴー』text by 悠 雅彦
http://www.jazztokyo.com/five/five1040.html
及川公生の聴きどころチェック『ストップ&ゴー』
http://www.jazztokyo.com/best_cd_2013a/best_cd_2013_local_07.html
『ストップ&ゴー』 text by成田正
http://www.jazztokyo.com/best_cd_2013a/cd2013a.html

関連リンク
『ストップ&ゴー』 PV
http://www.youtube.com/watch?v=_BIBSwfH8kc
『ストップ&ゴー』55 Records
http://www.fiftyfiverecords.com/55records/catalogue/stop-go/

神野秀雄(かんの・ひでお)
福島県出身。東京大学理学系研究科生物化学専攻修士課程修了。保原中学校吹奏楽部でサックスを始め、福島高校ジャズ研から東京大学ジャズ研へ。『キース・ジャレット/マイ・ソング』を中学で聴いて以来のECMファン。

WEB shoppingJT jungle tomato

FIVE by FIVE 注目の新譜


NEW1.31 '16

追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

INTERVIEW
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義

CONCERT/LIVE REPORT
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄


Copyright (C) 2004-2015 JAZZTOKYO.
ALL RIGHTS RESERVED.