Concert Report #683

フィリップ・ジャルスキー & ヴェニス・バロック・オーケストラ

2014年4月25日(金) 東京オペラシティ コンサートホール タケミツメモリアル
Reported by 藤堂 清
Photos by 林 喜代種

曲目
ポルポラ:歌劇『ジェルマーニコ』序曲※
ポルポラ:歌劇『アリアンナとテーゼオ』より「天をご覧なさい」
ポルポラ:歌劇『身分の知れたセミラーミデ』より
     「これほど憐れみ深く貴方の唇が」
ヘンデル:《12の合奏協奏曲》第4番 op.6-4 HWV322※
ヘンデル:歌劇『アルチーナ』より「甘い情愛がわたしを誘う」
ヘンデル:歌劇『アルチーナ』より「いるのはヒルカニアの」
------------------休憩----------------
ヘンデル:歌劇『オレステ』より「凄まじい嵐にかき乱されながらも」
ヘンデル:歌劇『アリオダンテ』より「戯れるがよい、不実な女め」
ヘンデル:《12の合奏協奏曲》第1番 op.6-1 HWV319※
ポルポラ:歌劇『ポリフェーモ』より「いと高きジョーヴェさま」
ポルポラ:歌劇『ポリフェーモ』より「愛しの人を待つあいだ」
---------------アンコール-------------
ヘンデル:歌劇『リナルド』より「私を泣かせてください」
ヘンデル:歌劇『セルセ』より「オンブラ・マイ・フ」
※ オーケストラのみ演奏

カウンターテナー:フィリップ・ジャルスキー
オーケストラ:ヴェニス・バロック・オーケストラ

カウンターテナーのトップスターの一人、フィリップ・ジャルスキーの力量と魅力にノックアウト、といったところだろうか。
18世紀前半に活躍した二人の作曲家、ニコラ・ポルポラとゲオルク・フリードリヒ・ヘンデルのオペラ・アリアを対比するように並べたコンサート。この二人の作曲家は、1733年から1735年の3年間にわたり、ロンドンでそれぞれのオペラ団(ヘンデルの王立アカデミー、ポルポラの貴族オペラ)による「オペラ対決」を繰り返した。ポルポラ側にはファリネッリ(映画でご存じの方もあるだろう)、ヘンデル側にはジョヴァンニ・カレスティーニという主役となるカストラート歌手(男性去勢歌手)がおり、これらのアリアは彼らの声楽技巧を最大限引き出すように作られている。
19世紀後半以降はカストラートはなくなり、ポルポラやヘンデル等のオペラを上演する場合(その機会も少なくなっていたが)は、カストラートが歌っていたパートを女性歌手が歌うのが通例となっていた。20世紀後半になって男性が裏声や頭声を用いてソプラノやアルトの音域を歌うカウンターテナーが(再)登場し、舞台上の男性役を担当するようになった。それとともにバロック期のオペラ上演も増えてきている。
フィリップ・ジャルスキー、マックス・エマヌエル・ツェンチッチ、フランコ・ファジョーリといった若手は、それ以前のカウンターテナーたちのように裏声くささを感じさせない声と技術を持つようになっている。
すっかり前段が長くなってしまったが、今回のコンサートでジャルスキーが取り上げたアリアは、二人のカストラート歌手の声域、技巧の違いがわかる。高い音域も得意であったファリネッリの特徴は「いと高きジョーヴェさま」によく示された。カストラート歌手の伝説的な息の長さがどこまで再現されているかまでは分からないが、幅広い声域での歌唱、再現部での装飾の見事さには圧倒された。一方「戯れるがよい、不実な女め」でのたっぷりと旋律を聴かせるところの響きの美しさは、カレスティーニの声の魅力を反映したものであっただろう。
伴奏を務めたヴェニス・バロック・オーケストラ、指揮者なしということで、出だしはアンサンブルに不安を感じたが、ジャルスキーが加わるとしっかりとまとまり、いきいきとした音楽を聴かせてくれた。
体全体が、音楽に同期し、興奮し、熱くなった2時間であった。
ヘンデルに関しては、女声歌手もリサイタルでとりあげる機会も増えてきているし、国内でのオペラ上演も行われている。ポルポラの(舞台)上演も期待したいものである。


藤堂清 kiyoshi tohdoh
東京都出身。東京大学大学院理学系研究科物理学専攻博士課程修了。ソフトウェア技術者として活動。オペラ・歌曲を中心に聴いてきている。ディートリッヒ・フィッシャー=ディースカウのファン。ハンス・ヴェルナー・ヘンツェの《若き恋人たちへのエレジー》がオペラ初体験であった。

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