Concert Report #685

モイツァ・エルトマン & グザヴィエ・ドゥ・メストレ
夢のマリアージュ デュオ・リサイタル

2014年4月30日(水) 東京オペラシティ コンサートホール
Reported by 藤堂 清
Photos by 林 喜代種

曲目
F.シューベルト:
 男なんてみな悪者 Op.95 D.866-3
 至福 D.433
 乙女 D.652
 野ばら Op.3-3 D.257
 月に寄せて D.259
 糸を紡ぐグレートヒェン Op.2 D.118
W.A.モーツァルト:
 ピアノ・ソナタ第16番ハ長調 K.545(ハープソロ)
 歌劇「フィガロの結婚」より”さあ早く来て、いとしい人よ”
V.ベッリーニ:
 歌劇「カプレーティとモンテッキ」より”ああ幾たびか”
------------------休憩----------------
R.シュトラウス:
 ひどい天気 Op.69-5
 万霊節 Op.10-8
 私の思いのすべて Op.21-1
 何もなく Op.10-2
 あなたは私の心の王冠 Op.21-2
 セレナーデ Op.17-2
B.スメタナ:
 交響詩「わが祖国」より「モルダウ」(ハープソロ)
G.ヴェルディ:
 歌劇「リゴレット」より”慕わしき人の名は”
A.サリエリ:
 歌劇「ダナオスの娘たち」より”あなたの娘が震えながら”
G.プッチーニ:
 歌劇「ジャンニ・スキッキ」より”私のいとしいお父さん”
---------------アンコール-------------
R.シュトラウス:
 ときめく心 Op.29-2
F.シューベルト:
 万霊節の連祷 D.343

ソプラノ:モイツァ・エルトマン
ハープ:グザヴィエ・ドゥ・メストレ

ソプラノとハープという組み合わせによるリサイタル。単独でも美しい響きを持つもの同士が共演すれば、夢の世界へと誘ってくれるという企画だろう。
モイツァ・エルトマンは、1975年生まれのドイツのソプラノ。美貌とスタイルの良さもあり、METなど各地のオペラ劇場への出演が増えている。
ハープのグザヴィエ・ドゥ・メストレは、ウィーン・フィルのソロ・ハーピストを2010年まで勤めていた。1973年生まれのフランス人。
シューベルトとR.シュトラウスの歌曲とオペラ・アリア、そしてハープのソロ曲を、前後半それぞれ一曲というプログラム構成は、両者の得意とする曲を聴かせるという意図はわかるが、いささか雑然としているように感じられた。
ドゥ・メストレのソロ2曲は実に見事なものであった。モーツァルトのピアノ・ソナタでは、ハープの音の立ち上がりがピアノの場合とは異なり、会場全体に柔らかく響きが拡がっていき、全身が包み込まれる感じが気持ちよかった。最弱音から強い音まで美しく、ペダル操作や撥弦などによる雑音はまったく聞こえなかった。そういった技術的なすばらしさだけでなく、多少遅めのテンポなどのピアノの場合とは違う音楽表現も面白く聴けた。後半の「モルダウ」は録音では聴いたことがあったが、実演を楽しみにしていた曲。出だしの源流を表す弱音から、徐々に音量を増していく。まるで会場全体が流れになったかのようにハープの響きにつつまれる。その多様な音色と表情付けは、この曲がもともとはオーケストラのための曲だということを忘れさせる力があった。
これに対しエルトマンと共演した曲目ではこれほどの充足感を得ることはできなかった。エルトマンは細めの声ではあるが、このホールを満たす声量はある。声という点で問題を感じるのは、高音域は大きな声でしか歌えないこと、そしてそこでは歌詞の違いを明確にすることが困難となること。「糸を紡ぐグレートヒェン」で、ドゥ・メストレのハープがグレートヒェンの気持ちやそれに応じた糸車の回り具合の変化を丁寧に弾き分けているのに、彼女の歌はいささか単調に感じられる。「万霊節」などでも、ここで盛り上げてほしいのにというところがさらっと流されてしまう。
オペラ・アリアの方がエルトマンの歌としての完成度はあったが、これはどうしても彼女で聴きたいと思わされるほどの演奏ではなかった。中ではラウレッタのアリアが彼女の声にはあっていた。
ソプラノとハープの共演という形式なら、2000年代後半から続けられているディアナ・ダムラウとグザヴィエ・ドゥ・メストレによるコンサートの方により魅力を感じる。ドゥ・メストレの飛びぬけた技巧ははっきりわかっただけに、全体としての満足感が得られなかったのは少し残念であった。


藤堂清 kiyoshi tohdoh
東京都出身。東京大学大学院理学系研究科物理学専攻博士課程修了。ソフトウェア技術者として活動。オペラ・歌曲を中心に聴いてきている。ディートリッヒ・フィッシャー=ディースカウのファン。ハンス・ヴェルナー・ヘンツェの《若き恋人たちへのエレジー》がオペラ初体験であった。

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