Live Report #690

The Gil Evans Project directed by Ryan Truesdell :
Music for Claude Thornhill

First Set:May 14, 2014@Jazz Standard, NYC
Reported and photographed by Takehiko Tokiwa

・Buster's Last Stand
・How High the Moon.
・Can't We Talk it Over.
・How About You.
・Easy Living ~ Everything Happens to Me ~ Moon Dreams
・Avalon Town
・Gypsy Jump
・Sunday Drivin'
・It's the Sentimental Thing to Do.
・Yardbird Suite

Personel
Ryan Truesdell (conductor)
Augie Haas , Greg Gisbert, Matt Jordrell (tp)
Steve Wilson, Dave Pietro, Donny McCaslin, Scott Robinson, Brian Landrus (wood wind)
Ryan Keberle, Mashall Gilkes (tb)
Adam Unsworth, David Peel (french horns)
Marcus Rojas (tuba)
James Chirillo (g)
Frank Kimbrough (p)
Jay Anderson (b)
Lewis Nash (ds)
Wendy Gilles (vo)
Jesse Han, Jessica Taskov (fl), Steve Kenyo (cl, fl)         

 2012年のギル・エヴァンス生誕100年を記念して、ライアン・ツルースデルの飽くなきギル・エヴァンスのオリジナル・スコアのリサーチから発表されたアルバム『Centennial - Newly Discovered Works of Gil Evans』は、同年度のグラミー賞で3部門にノミネートされ、1947年にギル・エヴァンスがクロード・ソーンヒル楽団へ提供したアレンジによる<How About You>が、66年の時を経てベスト・インストルメント・アレンジメント部門を受賞するという奇跡が起きた。
 ギル・エヴァンスの没後、数人のアーティストが、マイルス&ギルのコラボレーションなどの再現に挑むが、ほぼすべてはトランスクライブしたスコアに基づいて演奏された。マイルス&ギルのコラボレーションのオリジナルの譜面は1995年にマイルス・デイヴィスの遺品の中から発見されたが、「Birth of the Cool」が出版された以外には厳重に管理され、門外不出のものとなっていた。

 ギル・エヴァンス・プロジェクトを率いる若手作・編曲家ライアン・ツルースデルは、高校生の頃にマイルス&ギルの『Porgy & Bess』を聴き衝撃を受ける。そして大学時代、ボブ・ブルックマイヤーの薫陶を受けたニュー・イングランド音楽院の大学院時代にも、ギル・エヴァンス・ミュージックの探求に没頭した。2002年から、ギル・エヴァンスの最晩年に行動を共にしたマリア・シュナイダーのプロダクション・アシスタントを務め、その紹介でアニータ・エヴァンス、マイルス・エヴァンス(tp)、ノア・エヴァンスら、エヴァンス・ファミリーの知遇を得る。2010年に亡きギル・エヴァンスの書斎にアクセスすることを許可されたツルースデルは、3日間でおよそ5,000枚のスコアをスキャンして現在まで解析を続けている。2011年3月には、セント・ピータース教会の“Prez Fest”で、イーストマン・スクールの学生グループに、フランク・キンブロウ(p)、スティーヴ・ウィルソン(as,ss,fl)、アンディ・ベイ(vo)に、ギル・エヴァンスと共演したヘレン・メリル(vo)、フィル・ウッズ(as)、ハワード・ジョンソン(tuba)らを迎えて発見したスコアの一部を演奏し、生誕100年の2012年に向けてギル・エヴァンス・プロジェクトが始動した。同年4月には、インパルス・レコード創業50周年の記念コンサートの一環で、マリア・シュナイダー・オーケストラのメンバーを中心とした本格的なギル・エヴァンス・プロジェクトで1961年の『Out of the Cool』(Impulse!)を再現。そして8月には、発見された未録音の50曲から執筆時期の異なる10曲をセレクトして、アルバム・レコーディングを開始した。ギル・エヴァンス生誕100年の2013年5月13日にアルバムはリリースされ、その週にギル・エヴァンス・プロジェクトはジャズ・スタンダードに出演、夏から秋にかけて、ニューポート・ジャズ・フェスティヴァルや、ヨーロッパのフェスティヴァルを巡回し、100周年を各地で祝福した。昨年も、5月半ばのギル・バースデイ・ウィークには、ジャズ・スタンダードに登場し、クロード・ソーンヒル楽団時代の1940年から50年代初頭の諸作品、『New Bottle, Old Wine』(World Pacific) &『Out of the Cool』の50年代後半から、60年代初頭。『The Individualism of Gil Evan』(Verve)を中心とした60年代中期、そしてMiles & Gilのコラボレーションで、ギルの書斎から発見されたスコアの再現と、4つのヴァリエーションでギル・エヴァンス・ミュージックの全貌に迫った。その後もスキャンしたスコアの解析、ミズーリ州のデュルリー大にあるクロード・ソーンヒル楽団のスコア・アーカイブをリサーチしたツルースデルは、さらなる未録音スコアを発掘し、今年のジャズ・スタンダードでのバースデイ・ギグで、2ndアルバムのライヴ録音を敢行した。前半の3日間は、クロード・ソーンヒル楽団に提供したアレンジメントを中心に、50年代半ばまでの作品。後半3日は、『New Bottle, Old Wine』、『The Individualism of Gil Evans』の50年代後半から、60年代の作品にスポットが当たる。

 取材日の2日目の編成は、ts x 2, as x 2, bs, tuba, tb x 2, french horn x 2, tp x 3に、ギターを含むリズム・セクションにヴォーカルと、1947年にギル・エヴァンスが9ヶ月の間フルート陣( fl x 2 + cl & fl)を増強した編成で、曲によって、ヴォーカルと、2フルート+クラリネットが、オフとなる。木管奏者は、それぞれクラリネット、フルートの持ち替えで、独特のフェザー・タッチ・アンサンブルを創り上げた。セットリストは予告通り、ギルがクロード・ソーンヒル楽団に提供した1940年代のレパートリーが中心で、<How High the Moon>は、1950年にベティ・カーター(vo)に提供したアレンジメントである。ツルースデルは、ベティ・カーター・グループに長年在籍した、ルイス・ナッシュ(ds)がこの夜のグループに参加してくれたのは、名誉なことと讃えた。<Moon Dreams>は、ジョン・ルイス(p)、ジェリー・マリガン(bs)と競作したマイルス・デイヴィス(tp)の『Birth of the Cool』 に書いたアレンジメントだ。これに同時期に書かれた、<Easy Living>と<Everything Happens to Me>を、メドレーにつなげた。1947年に書かれた作品には、3人のフルート&クラリネット・セクションが加わる。<Avalon Town>は2ヶ月前のデュルリー大のアーカイヴのリサーチで発見されたアレンジメントだ。グラミー賞受賞曲の<How About You>は、ツルースデルの恩師ボブ・ブルックマイヤー(tb)が50年代初頭にソーンヒル楽団に在籍していた頃、深夜の最終セットの終わりにいつも演奏していたエンディング・テーマで最も思い出深い曲と語った佳曲である。当時いち早くビバップのエッセンスを取り入れたギル・エヴァンスだが、ベニー・グッドマン(cl)や、ジーン・クルーパ(ds)、デューク・エリントン(p)、カウント・ベイシー(p)らのスウィング全盛時代に、現代でも斬新さを失わないアレンジを、すでに60年以上前に創造していたと言うことは、改めて驚異を感じるところである。演奏技術の上では、遙かに進化を遂げているはずの、現代ニューヨークの精鋭ミュージシャン達を、譜面以上のニュアンス、表現がチャレンジングとうならせる。40年代の録音クオリティでは、窺い知れないギル・マジックのディテイルが、ライアン・ツルースデルのジャズ考古学とも言える地道なリサーチで、長い時を超えて明かされた。この週の演奏は、名匠ジェイムス・ファーバーにより録音され、アーティストシェアとブルーノートのジョイントレーベルから、来年2月にリリースされる予定である。2015年には、マリア・シュナイダー・オーケストラや、ヴァンガード・ジャズ・オーケストラのニュー・アルバムのリリースも期待され、グラミー賞ラージ・ジャズ・アンサンブル部門、アレンジメント部門の大激戦が、予想される。(常盤武彦)

関連ウェッブサイト: 
Ryan Truesdell : http://www.ryantruesdell.com
Gil Evans Project : http://gilevansproject.com
Jazz Tokyo:http://www.jazztokyo.com/best_cd_2012b/best_cd_2012_inter_04.html

常盤武彦(ときわ・たけひこ)
横浜市出身。慶応義塾大学を経て1990年NYU卒業。NJ州ホーボーケンに居を定めフォト・ジャーナリストとして活躍。著書に『ジャズでめぐるニューヨーク』(角川oneテーマ21)、『ニューヨーク アウトドアコンサートの楽しみ』(産業編集センター)。
http://www.tokiwaphoto.com

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FIVE by FIVE 注目の新譜


NEW1.31 '16

追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

INTERVIEW
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義

CONCERT/LIVE REPORT
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄


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