Live Report #690 |
The Gil Evans Project directed by Ryan Truesdell : |
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2012年のギル・エヴァンス生誕100年を記念して、ライアン・ツルースデルの飽くなきギル・エヴァンスのオリジナル・スコアのリサーチから発表されたアルバム『Centennial - Newly Discovered Works of Gil Evans』は、同年度のグラミー賞で3部門にノミネートされ、1947年にギル・エヴァンスがクロード・ソーンヒル楽団へ提供したアレンジによる<How About You>が、66年の時を経てベスト・インストルメント・アレンジメント部門を受賞するという奇跡が起きた。
ギル・エヴァンスの没後、数人のアーティストが、マイルス&ギルのコラボレーションなどの再現に挑むが、ほぼすべてはトランスクライブしたスコアに基づいて演奏された。マイルス&ギルのコラボレーションのオリジナルの譜面は1995年にマイルス・デイヴィスの遺品の中から発見されたが、「Birth of the Cool」が出版された以外には厳重に管理され、門外不出のものとなっていた。
ギル・エヴァンス・プロジェクトを率いる若手作・編曲家ライアン・ツルースデルは、高校生の頃にマイルス&ギルの『Porgy & Bess』を聴き衝撃を受ける。そして大学時代、ボブ・ブルックマイヤーの薫陶を受けたニュー・イングランド音楽院の大学院時代にも、ギル・エヴァンス・ミュージックの探求に没頭した。2002年から、ギル・エヴァンスの最晩年に行動を共にしたマリア・シュナイダーのプロダクション・アシスタントを務め、その紹介でアニータ・エヴァンス、マイルス・エヴァンス(tp)、ノア・エヴァンスら、エヴァンス・ファミリーの知遇を得る。2010年に亡きギル・エヴァンスの書斎にアクセスすることを許可されたツルースデルは、3日間でおよそ5,000枚のスコアをスキャンして現在まで解析を続けている。2011年3月には、セント・ピータース教会の“Prez Fest”で、イーストマン・スクールの学生グループに、フランク・キンブロウ(p)、スティーヴ・ウィルソン(as,ss,fl)、アンディ・ベイ(vo)に、ギル・エヴァンスと共演したヘレン・メリル(vo)、フィル・ウッズ(as)、ハワード・ジョンソン(tuba)らを迎えて発見したスコアの一部を演奏し、生誕100年の2012年に向けてギル・エヴァンス・プロジェクトが始動した。同年4月には、インパルス・レコード創業50周年の記念コンサートの一環で、マリア・シュナイダー・オーケストラのメンバーを中心とした本格的なギル・エヴァンス・プロジェクトで1961年の『Out of the Cool』(Impulse!)を再現。そして8月には、発見された未録音の50曲から執筆時期の異なる10曲をセレクトして、アルバム・レコーディングを開始した。ギル・エヴァンス生誕100年の2013年5月13日にアルバムはリリースされ、その週にギル・エヴァンス・プロジェクトはジャズ・スタンダードに出演、夏から秋にかけて、ニューポート・ジャズ・フェスティヴァルや、ヨーロッパのフェスティヴァルを巡回し、100周年を各地で祝福した。昨年も、5月半ばのギル・バースデイ・ウィークには、ジャズ・スタンダードに登場し、クロード・ソーンヒル楽団時代の1940年から50年代初頭の諸作品、『New Bottle, Old Wine』(World Pacific) &『Out of the Cool』の50年代後半から、60年代初頭。『The Individualism of Gil Evan』(Verve)を中心とした60年代中期、そしてMiles & Gilのコラボレーションで、ギルの書斎から発見されたスコアの再現と、4つのヴァリエーションでギル・エヴァンス・ミュージックの全貌に迫った。その後もスキャンしたスコアの解析、ミズーリ州のデュルリー大にあるクロード・ソーンヒル楽団のスコア・アーカイブをリサーチしたツルースデルは、さらなる未録音スコアを発掘し、今年のジャズ・スタンダードでのバースデイ・ギグで、2ndアルバムのライヴ録音を敢行した。前半の3日間は、クロード・ソーンヒル楽団に提供したアレンジメントを中心に、50年代半ばまでの作品。後半3日は、『New Bottle, Old Wine』、『The Individualism of Gil Evans』の50年代後半から、60年代の作品にスポットが当たる。
取材日の2日目の編成は、ts x 2, as x 2, bs, tuba, tb x 2, french horn x 2, tp x 3に、ギターを含むリズム・セクションにヴォーカルと、1947年にギル・エヴァンスが9ヶ月の間フルート陣( fl x 2 + cl & fl)を増強した編成で、曲によって、ヴォーカルと、2フルート+クラリネットが、オフとなる。木管奏者は、それぞれクラリネット、フルートの持ち替えで、独特のフェザー・タッチ・アンサンブルを創り上げた。セットリストは予告通り、ギルがクロード・ソーンヒル楽団に提供した1940年代のレパートリーが中心で、<How High the Moon>は、1950年にベティ・カーター(vo)に提供したアレンジメントである。ツルースデルは、ベティ・カーター・グループに長年在籍した、ルイス・ナッシュ(ds)がこの夜のグループに参加してくれたのは、名誉なことと讃えた。<Moon Dreams>は、ジョン・ルイス(p)、ジェリー・マリガン(bs)と競作したマイルス・デイヴィス(tp)の『Birth of the Cool』 に書いたアレンジメントだ。これに同時期に書かれた、<Easy Living>と<Everything Happens to Me>を、メドレーにつなげた。1947年に書かれた作品には、3人のフルート&クラリネット・セクションが加わる。<Avalon Town>は2ヶ月前のデュルリー大のアーカイヴのリサーチで発見されたアレンジメントだ。グラミー賞受賞曲の<How About You>は、ツルースデルの恩師ボブ・ブルックマイヤー(tb)が50年代初頭にソーンヒル楽団に在籍していた頃、深夜の最終セットの終わりにいつも演奏していたエンディング・テーマで最も思い出深い曲と語った佳曲である。当時いち早くビバップのエッセンスを取り入れたギル・エヴァンスだが、ベニー・グッドマン(cl)や、ジーン・クルーパ(ds)、デューク・エリントン(p)、カウント・ベイシー(p)らのスウィング全盛時代に、現代でも斬新さを失わないアレンジを、すでに60年以上前に創造していたと言うことは、改めて驚異を感じるところである。演奏技術の上では、遙かに進化を遂げているはずの、現代ニューヨークの精鋭ミュージシャン達を、譜面以上のニュアンス、表現がチャレンジングとうならせる。40年代の録音クオリティでは、窺い知れないギル・マジックのディテイルが、ライアン・ツルースデルのジャズ考古学とも言える地道なリサーチで、長い時を超えて明かされた。この週の演奏は、名匠ジェイムス・ファーバーにより録音され、アーティストシェアとブルーノートのジョイントレーベルから、来年2月にリリースされる予定である。2015年には、マリア・シュナイダー・オーケストラや、ヴァンガード・ジャズ・オーケストラのニュー・アルバムのリリースも期待され、グラミー賞ラージ・ジャズ・アンサンブル部門、アレンジメント部門の大激戦が、予想される。(常盤武彦)
関連ウェッブサイト:
Ryan Truesdell : http://www.ryantruesdell.com
Gil Evans Project : http://gilevansproject.com
Jazz Tokyo:http://www.jazztokyo.com/best_cd_2012b/best_cd_2012_inter_04.html
常盤武彦(ときわ・たけひこ)
横浜市出身。慶応義塾大学を経て1990年NYU卒業。NJ州ホーボーケンに居を定めフォト・ジャーナリストとして活躍。著書に『ジャズでめぐるニューヨーク』(角川oneテーマ21)、『ニューヨーク アウトドアコンサートの楽しみ』(産業編集センター)。
http://www.tokiwaphoto.com
追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley
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#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣
:
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi
#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報
シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻
音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美
カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子
及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)
オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美
ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)
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#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義
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#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄
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