Concert Report #692 |
マティアス・ゲルネ |
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シューベルトの三大歌曲集を一気に歌う機会が持てるということは、それ自体、その歌手の力量に対する大きな評価だろう。
オーストリアのシュヴァルツェンベルクで毎年夏に行われているシューベルティアーデ音楽祭では、6月から8月にかけて20〜30回の歌曲の夕べが行われており、三大歌曲集はほぼ毎年取り上げられてきているが、ある年の三大歌曲集が一人の歌手に任されることはそれほど多くない。そういったなか、2009年のこの音楽祭で、マティアス・ゲルネはクリストフ・エッシェンバッハのピアノとともに三大歌曲集による歌曲の夕べを行っている。
ゲルネは2007年の来日公演でも三大歌曲集による三晩のコンサートを行っており、今回は私にとって二度目の体験となった。
1967年生まれのゲルネ、体が楽器である歌手にとって、音楽面での経験の積み重ねと声楽的な技術が良い調和をうむ時期にきていると言えよう。彼の声は会場全体をその響きで埋めるような印象で、顔の向きや体の向きをどんなに変えようが、その響きは聴き手を包み込んでくれる。そういったある意味全方位的な厚い響きにもかかわらず、歌詞は明瞭に聞きとることができる。
第1夜の『美しき水車小屋の娘』、前回はブレスの驚異的な長さを活かし、全体的にゆったりめのテンポで歌っていたのだが、今回は出だしは早めに歌いだした。それだけでなく、息継ぎを頻繁にいれるかのようにフレーズを短めに切ることが目立った。息が短くなってきたのかとも考えたが、後半に入ると、ゆったりとした歌い方へと変えていき、最後の「小川の子守歌」では会場全体が濃密な空気に包まれたように感じられた。娘と出会い、彼女の心を得た喜び、ライバルの登場と失恋、といったストーリーを持つこの歌曲集、7年前とは異なるアプローチを意識的にとったということだろう。
第2夜の『冬の旅』にはそのようなはっきりとしたストーリーの流れがあるわけではなく、曲ごとに異なる心象風景が描かれている。ゲルネの歌い方はその一つ一つを分析し音にしているように感じられた。歌曲集全体を通じた流れではなく、曲ごとに完結した歌の集まりを聴いたという印象が残った。
第3夜は、ベートーヴェンの連作歌曲集『遥かなる恋人に寄す』と『白鳥の歌』のレルシュタープの詩による歌曲を前半とし、後半にハイネの詩による6曲を歌うという構成で、これも前回と同じ。ベートーヴェンは曲の間をあけずに演奏されることもあり、少し長めの1曲の中に起伏があるといった感じであった。『白鳥の歌』はもともと歌曲集として構想されていたわけではない。その意味では、曲ごとにあるいは節ごとに細かな表情付けを行っても、その曲の世界に閉じたものであり、次の曲を聴くときは白紙の状況でのぞめる。一聴衆としては、ゲルネの与えてくれる世界を味わうには一番よいものであった。「アトラス」、「影法師」といった歌での振幅の大きな表現は、バリトンの第1人者であることをはっきり教えてくれた。
正直なところ、マティアス・ゲルネは私にとって苦手な歌手の一人である。曲の中でもテンポを大きく変えたり、極端にゆっくりした歌い方をしたりというところが、どうも好きになれない。ただ実演で聴いて感動したことは一回はある。ピアニストのピエール=ロラン・エマールと共演し、ベルクとシューマンを歌った2009年のリサイタル。エマールのピアノのがっちりとした構成に支えられ、ゲルネの長いブレスや細やかな言葉遣いが骨組みを得たように感じられた。それと比較すると、アレクサンダー・シュマルツは伴奏ピアニストとして歌手に合わせる能力は高いのだろうが、全体を見渡す力には欠けるように思う。録音では、エッシェンバッハ、レオンスカヤといったピアニストと共演しているのだから、実演でもそういった音楽的な骨組みを作れる人と共演してくれればと思う。
追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley
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#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣
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JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi
#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報
シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻
音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美
カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子
及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)
オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美
ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)
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#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義
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#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
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