Concert Report #694

新国立劇場 新制作
マスカーニ『カヴァレリア・ルスティカーナ』
レオンカヴァッロ『道化師』

2014年5月21日 新国立劇場
Reported by 佐伯ふみ
Photos by 林 喜代種

指揮:レナート・パルンボ
演出:ジルベール・デフロ
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
合唱:新国立劇場合唱団+TOKYO FM 少年合唱団

【キャスト】
『カヴァレリア・ルスティカーナ』
サントゥッツァ:ルクレシア・ガルシア
ローラ:谷口睦美
トゥリッドゥ:ヴァルテル・フラッカーロ
アルフィオ:成田博之
ルチア:森山京子
『道化師』
カニオ:グスターヴォ・ポルタ
ネッダ:ラケーレ・スターニシ
トニオ:ヴィットリオ・ヴィテッリ
シルヴィオ:与那城敬

 ヴェリズモ・オペラの代表2作、新制作の上演。イタリア・オペラらしい、ダイナミックな声と管弦楽の競演を聴けると期待して出かけたが、今回は残念ながら、新国立劇場の公演には珍しく低調であった、と言わざるを得ない。主たる原因は演出と指揮。

 古代のアレーナ(円形劇場)を2作に共通する舞台装置としたのは良いアイデアだった(美術・衣裳:ウィリアム・オルランディ)。特に『道化師』では、これに旅芸人の馬車とピエロの電飾が効果的に配され、劇中劇と観客たちを上手く見せていた。ただし『カヴァレリア〜』では、円形劇場の通路をコーラスの歌手たちが一列で移動するシーンが散見され、「群衆」のダイナミックな動きが制約されたように思う。

 この群衆の動きこそ、今回、演出で最も不満だったところ。人間のありのままの感情の動きを激しく表出させる真実主義(ヴェリズモ)のオペラだというのに、コーラスはほとんど常に、きまじめに整列し正面を向いて、実にお行儀よく歌うのである。見ていて学芸会の合唱を思い出した。歌手たちの舞台上の動きについて、演出家がどのような考えをもち、どの程度明確な指示を出し、練習を積んだのか、疑問を抱かせるシーンはほかにも多々あった。
 たとえば『カヴァレリア〜』の冒頭、舞台中央に置かれた、大きな磔刑のキリスト像を男たちが無言で運んでいく。その動きがいかにもぎこちない。村人であるにもかかわらず、きちんと整列し、とってつけたように軍隊式に、ぎくしゃくと動く。妙に抑えた音楽と合わせて、その時点ですでに大きな疑問符が頭に浮かぶ。トゥリッドゥにサントゥッツァが取りすがり、冷たくあしらわれるシーン。ここは演出のせいなのか、はたまたガルシア(サントゥッツァ)が膝でも痛めて自由に動けないのか? 判然としないが、なんとも動きが鈍重で、迫真性とか緊迫感が今ひとつ。ミサを終えた村人をトゥリッドゥが居酒屋に誘うシーンももどかしい。村人たちは舞台上で間がもてず、そのままあっさりと袖に引っ込んでしまいそう。トゥリッドゥの「乾杯!」の言葉が唐突に響く。

 演出と並んで、指揮にも大いなる疑問。特に『カヴァレリア〜』。ゆっくりと抑えめに始めたのはまあいい、しかしそこから音楽がアッチェレランドしない、火がつかない。なぜこんなにも、生気のない音楽にしなければならないのか?

 歌手については、『カヴァレリア〜』の主演ふたり(ルクレシア・ガルシアとヴァルテル・フラッカーロ)、そして『道化師』のカニオ(グスターヴォ・ポルタ)は健闘。アルフィオは残念ながら、粗野な肉体派にしては、体格・声量とも迫力不足。トゥリッドゥのほうが強そうに見えては困るのだ。こういうとき、主役は外人、脇が日本人、というおきまりの配役法に、改めて疑問を感じる。一方『道化師』のシルヴィオ・与那城敬は、立ち姿も声も、ネッダを魅了するにふさわしい二枚目ぶりで感心。幕開けのトニオの前口上、ヴィットリオ・ヴィテッリが素晴らしく、盛んな拍手を浴びていた。この日いちばん強い印象を残したのは、ネッダのラケーレ・スターニシ。コケティッシュな魅力と、芸達者な演唱。他の演目での再登場を期待したい。

佐伯ふみ
1965年(昭和40年)生まれ。大学では音楽学を専攻、18〜19世紀のドイツの音楽ジャーナリズム、音楽出版、コンサート活動の諸相に興味をもつ。出版社勤務。筆名「佐伯ふみ」で、2010年5月より、コンサート、オペラのライヴ・レポートを執筆している。

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