Concert Report #695

Jack DeJohnette Trio

2014年5月22日 青山Blue Note Tokyo
Reported by 稲岡邦弥
Photo by Yuka Yamaji(山路 ゆか)

Jack DeJohnette (ds, p)
Ravi Coltrane (ts,ss,sopranino)
Matthew Garrison (el-b)

ジャックから久しぶりにメールが届き、自分のトリオでブルーノートに出演するので聴きに来い、と。カメラマンの内藤忠行氏にも声を掛けよ、とのお達し。ジャックとは1973年にデイヴ・ホランドbとデュオ・アルバム『タイム&スペース』を制作以来、何度も仕事を共にする機会があった。内藤さんを交えた3人では、内藤さんのアートビデオ『ゼブラ』の音楽をレスター・ボウイーtpと1984年に制作している。ジャックはこの『ゼブラ』が大のお気に入りで、会えばいつも『ゼブラ』の話になる。
ジャックが自身のグループを率いての来日は1991年の「スペシャル・エディション」以来、じつに23年ぶりのことになる。率いてきたのは、ラヴィ・コルトレーン(1965~)とマシュー(マット)・ギャリソン(1970~)。ラヴィはジョンとアリスの3人兄弟の次男で、マットはコルトレーン・カルテットのベーシスト、ジミーの息子。ふたりとも幼い頃に父親を亡くしており、1942年生まれのジャックとは年齢的に親子的な関係になる。
ジャックにとって、コルトレーン(1926~1967)とマイルス(1926~1991)は文字通りメンター的存在で、ラヴィ、マットとの共演はジャックにとって特別な感懐があるに違いない。しかも、コルトレーンの<カウントダウン>(『ジャイアント・ステップス』)や<ワイズ・ワン>(『クレッセント』)をジュニアたちと演奏する心持ち。一方で、父親のスピリットを次の世代に継承させる意図もあるに違いない。ラヴィは父親の衣鉢を継ぐような演奏を聴かせたが、マットはカスタム・メイドの5弦ベースをまるでギターのように苦もなく操る。時にはMACにつないだエフェクターでシンセ・ギターのような効果を醸し出す。このベースは1982年、スティーヴ・カーンの「アイウィットネス」で来日したアンソニー・ジャクソンの6弦ベースを六本木ピットインで目の当たりにしたとき以来の驚異であった。このふたりの音楽的には異質も言える新旧の接着剤的存在となったのがジャックのドラムス。両者の中間に陣取りさまざまにチューニングされたタムと多くのシンバルを駆使し、ひとつのカラフルなサウンドスケイプを描き出すことに成功していた。ジャックについて違和感を覚えたことがひとつ。スティックのグリップである。左手は当然スナップを利かせる親指と人差し指の付根で挟むレギュラー・グリップだと思っていたところ、ロック系ドラマーのように両手ともマッチドで握っている!これはオープンなリズムを叩くためのこのトリオ用のグリップだと思い尋ねたところ、10年ほど前に握りを変えたという。おそらくリストを痛めたのが理由だと思うが最後まで気になった。セットの最後にジャックがピアノのソロで披露したのはマイルスの(正確にはビル・エヴァンスとの共作)<フラメンコ・スケッチ>(『カインド・オブ・ブルー』)で、あきらかにマイルスへのオマージュと聴いた。ジャックはキャリアをピアニストとしてスタートさせており、すでに2作のピアノ・アルバムを制作、第1作『ジャッキーボード』(1973)は筆者が制作に携わった。
終演後のドレッシング・ルームには中平穂積氏が写真集『ジャズ・ジャイアンツ 1961~2013』を持参、献呈されたラヴィやマットが父親の写真を感慨深そうに見ていたのが印象的だった。
なお、ジャックによれば、このトリオに加えてドン・バイロンをホーンに迎えたカルテットを新たに始動させたとのことで、このバンドではドンにはテナーを吹かせるという。さらにパット・メセニー「ユニティ・バンド」の新メンバー、ジュリオ・カルマッシが参加、トランペットとピアノを担当とのこと。ジャックは今後このふたつのバンドに集中するという固い決意を口にした。

稲岡邦弥(いなおか・くにや)
兵庫県伊丹市生まれ。1967年早大政経卒。音楽プロデューサー。著書に『改訂増補版 ECMの真実』編著に『ECM catalog』(以上、河出書房新社)『及川公生のサウンド・レシピ』(ユニコム)共著に『ジャズCDの名盤』(文春新書)。
Jazz Tokyo編集長。

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#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
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#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
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