Concert Report #698

ヤニック・ネゼ=セガン(指揮)フィラデルフィア管弦楽団

2014年6月3日(火)19:00 サントリーホール
Reported by 藤原 聡
Photos by 林 喜代種

モーツァルト:交響曲第41番ハ長調K.551『ジュピター』
マーラー:交響曲第1番ニ長調『巨人』
(アンコール)
J・S・バッハ(ストコフスキー編):小フーガト短調BWV578

 フィラデルフィア管弦楽団、2012年から音楽監督に就任したヤニック・ネゼ=セガンとの初の来日公演である。今回は中国ツアーのオプション的な来日でサントリーホールでの2公演のみであったが、その第2夜(6月3日)を聴くことができた。
 1曲目のモーツァルト:『ジュピター』では、ネゼ=セガンが就任後2年にしてこの名門オケをほぼ掌握している様が手に取るように分る演奏である。しっかりと歌わせながらも、強弱の変化や思い切った間の取り方、楽章間のテンポのコントラストなど(しかし終楽章は速かった!)、かなり個性的な表現だ。もちろんピリオド奏法に色目を使った表現でもなければ、モダンの流儀で無難な出来を目指している訳でもない。ネゼ=セガンがフィラデルフィア管という最高の「楽器」を用いて、その表現力を最大限に発揮させるべくネゼ=セガン流のモーツァルトを披露した、というところか。評価は分かれるだろうが、筆者は大いに楽しんだ。これだけ「いじくり回せる」のは凄い才能だ。しかしフィラデルフィアの弦楽器は魅力的な音ですね。
 メインはマーラー:『巨人』。ここでは、指揮者の解釈云々の前に、オケの「音」にまず注意が行ってしまう。弦楽器はやはり豊穣(でありながらも節度があり美しい)、木管群もカラフル(オーボエが特に素敵)。しかし金管群、特にトランペットがくすんだ音でパワーを開放しない。かなり抑制して弦楽器を主体としたバランスの上に乗っかり、全体としての融和が目指されているようだ(そしてシンバルが妙でした)。これも指揮者の指示によるものなのか。2010年4月、デュトワに率いられたフィラデルフィアは、目の覚めるような華麗な音の波状攻撃であったから、その違いに驚いたのだ(こちらは『火の鳥』『春の祭典』)。ネゼ=セガンは、マーラーのスコアからとにかく様々な音色と表現を引き出して来ており、その意味ではやはりここでも瞠目すべき才能を感じ取れたのだが、敢えて言えばモーツァルトでは楽しめた「俺流」が、マーラーにおいては作曲者に寄り添うよりは指揮者のエンタテインメント性が前面に出て来ていると感じた(例えば、それまでは比較的抑制されたトーンで演奏されて来たと感じた演奏が、終楽章コーダ−ホルンは起立させた。ただスコアの指示よりは少しタイミングが早かった−に至って猛烈な音量と加速を伴って打ち上げ花火的に爆発したところなど)、全く個人的な感想ではあるが、そこにいささかの違和感があったと告白せねばならない。
 と、ネゼ=セガンの才能とオケの素晴らしさには納得しつつも、若干の「喉に小骨のつっかえた感」が抜け切らなかったところに、アンコールとして指揮者自らの紹介で告げられたのがJ.S.バッハ:『小フーガ』(ストコフスキー編曲版)。来ました。これはまさに「ザ・フィラデルフィア」。文句なし。ネゼ=セガンも終演後にそのスコアを手に持って高々と掲げておりました。ストコフスキーとフィラデルフィア管弦楽団に対してのリスペクト。
 まあ上述のような細かい点はあるし、正直に言えばフィラデルフィアとしてはアンサンブル的にはいささか緩いと感じられる箇所もあったけれども、何せまだ指揮者は就任して2年、これからさらにコンビネーションも緊密になって演奏も良くなるのは間違いない。であるから、もう次の来日公演も気になるところであります。

藤原 聡(ふじわら・さとし)
代官山蔦屋書店の音楽フロアにて主にクラシックCDの仕入れ、販促を担当。クラシック以外ではジャズとボサノヴァを好む。音楽以外では映画、読書、アート全般が好物。休日は可能な限りコンサート、ライヴ、映画館や美術館通いにいそしむ日々。

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