Concert Report #700

ウィーン・カンマー・オーケストラ演奏会

2014年6月5日 東京オペラシティコンサートホール
Reported by 丘山万里子

指揮:シュテファン・ヴラダー
演奏:ウィーン・カンマー・オーケストラ
ピアノ:牛田智大

<曲目>
モーツァルト:ディヴェルティメント ニ長調K.136(125a)
ショパン:ピアノ協奏曲第2番 へ短調Op.21
モーツァルト:交響曲第41番 ハ長調K.551「ジュピター」
<牛田のアンコール>
テクラ・バダジェフスカ:乙女の祈り

 ウィーンらしい響きを小振りな室内管弦楽で楽しみたい、という気持ちもあったが、主たる興味はショパンの協奏曲を弾く牛田智大に。1999年生まれの14歳、現在モスクワ音楽院ジュニア・カレッジに在籍する少年ピアニストである。8歳から5年連続でショパン国際コンクールin Asia一位、12歳でCDデビューを果たす。この年齢で聴いたピアニストといえば、キーシン、中野翔太、ニュウニュウ(は12歳の時)が私には鮮烈だが、牛田がどうだったかと言うと。もともと、天才少年少女の類には留保の思いが強いのだが、彼に関しては天才というより、清冽でナイーブな音楽少年、といった自然さが好もしい印象を残した。何より、大好きだという第2楽章のラルゲットでの憧憬にみちた歌に思わず惹き込まれる。ショパンの青春の恋心を伝えるこの楽章の甘く切ない面差しにそっと寄り添うように音を紡ぐ。思春期の心の抱くこまやかな感性が楽句のひとつひとつに染みとおり、スケール(音階)やアルペジオ、トリルの波がスワロフスキの繊細なガラス細工を思わせる光彩を放って旋律をいろどる。マズルカ風の終楽章は、その独特のリズムが思い切り良く弾み、センスの良さを感じさせた。ピアニストでもあるヴラダーの行き届いたオーケストラ・コントロールにサポートされ、ショパンへの想いの丈を素直に伝えた好演である。ピアノ初級者なら『エリーゼのために』の次にあこがれる『乙女の祈り』をアンコールに選んだのにも感心した。世阿弥に「年々去来の花を忘るべからず」という言葉があるが、牛田は年齢に見合った自分らしい花を咲かせることを心得ているようだ。喝采にぴょこぴょこと恥じらうようにお辞儀する初々しさが会場の笑みを誘う。ロシアでの研鑽がどのようにこの少年を育ててゆくか、ゆっくり見守りたい。
 モーツァルト2曲は、いかにもウィーンの室内管らしいふうわりした弦、管の響きが心地良い。指揮棒なし、ヴラダーの柔らかにうねる身体と指先は、その響きに豊かなニュアンスをほどこし、またきっちりしたメリハリをつける。『ディヴェルティメント』のプレスト楽章でのフーガでの優美かつ的確な立体感、『ジュピター』のフィナーレにおける対位法の輝かしい構築など、なめらかな歌謡性のなかにくっきりした造型を鋳込み、モーツァルトの音の愉悦を味合わせてくれた。


丘山万里子
東京生まれ。桐朋学園大学音楽部作曲理論科音楽美学専攻。音楽評論家として「毎日新聞」「音楽の友」などに執筆。2010年まで日本大学文理学部非常勤講師。著書に「鬩ぎ合うもの越えゆくもの」「からたちの道 山田耕筰論」(深夜叢書)「失楽園の音色」(二玄社)、「吉田秀和 音追い人」(アルヒーフ)、「波のあわいに」(三善晃+丘山万里子/春秋社)他。

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