Live Report #702

Simon Phillips "Protocol II"
featuring Andy Timmons, Steve Weingart and Ernest Tibbs
サイモン・フィリップス “プロトコル II”
フィーチャリング・アンディ・ティモンズ、スティーヴ・ウェインガート、アーネスト・ティブス

2014年6月2日 18:30 コットンクラブ東京
text by Hideo Kanno
photos by 米田泰久/courtesy of Cotton Club

Simon Phillips (ds)
Andy Timmons (g)
Steve Weingart (key)
Ernest Tibbs (b)

1. Intro
2. Protocol
3. Stern Crazy
4. Wildfire
5. Soothsayer
6. Kumi Na Moja
7. Moments of Fortune
8. Upside in Downside Up

9. Indian Summer

プログレッシブな曲とプレイが、優しく観客を楽しませる衝撃のライブ

7月11日、スイスのモントルージャズ・フェスティバルで、Hiromi The Trio Projectを聴く。会場は「モントルー・ジャズ・クラブ」と名付けられた縦長の部屋。上原ひろみ、アンソニー・ジャクソン、サイモン・フィリップスのおなじみのメンバー。彼らの演奏は上原ひろみ目当てではない観客を含め少しずつ着実に心を掴んでいく。その複雑でありながら分かりやすく強力なグルーヴを生み出すドラマーのサイモン・フィリップスは、TOTOへの参加、ジェフ・ベック、カルロス・サンタナ、マイケル・シェンカー、スタンリー・クラークらのグループへの参加などの経歴の中で、モントルーの大会場オーディトリア・ストラヴィンスキーでも演奏してきている。いや、1988年のミック・ジャガー来日以来、東京ドームでも演奏してきた。その大観衆を熱狂させるパワーと繊細さをもって臨む、コットンクラブの距離感とアットホームな空間でのリーダーライブ、それだけでなんと贅沢だろう。
コットンクラブの暖色系のインテリアに置かれたバンドのセッティング。通常、ドラムスは中央または右側であることが多いが、今回は左側にドラムスがあり、ベース、ギター、キーボードと続く。ドラムセットはTAMAで、ツインバスドラム、タムも多く10個はあると思う。これはテクニックを視覚的に見せるというより、完璧を目指すサイモンならではの、音程と音色への徹底したこだわりだ。
デビュー・アルバム『Protocol』(Food for Thought)をリリースしたのが1988年。25年目にしてその続編となる『ProtocolU』(Phantom Recordings)を制作し、録音メンバーである、アンディ・ティモンズ(g)、スティーヴ・ウェインガート(keyb)、アーネスト・ティブス(b)を引き連れての来日になる。なお、今回の来日では、6月1日〜2日のコットンクラブ公演の他、5月30日〜31日、ブルーノート東京でも公演があり、同系列の神田小川町「Cafe 104.5」で、5月29日、ドラム・クリニックが行われ、予約開始時に瞬間的に一杯になったことも付記しておこう。
<Protocol>は、デビュー・アルバムから。25年前の作曲にして、たくさんの心地よいリズムのエッセンスが何層にもたっぷり詰め込まれ絡み合い、しかもスピード感と統一感のある素晴らしいコンポジション。オリジナル・テイクは打込み&ドラムだが、それを適確に歌い上げることのできる最高のミュージシャンたち。ここでサイモンとこのグループの凄さにすでに打ちのめされる。<Stern Crazy>は、マイク・スターンの変態気持ち良い音を連想させる曲。そういえば、サイモンはリー・リトナー&マイク・スターン with ザ・フリーウェイ・バンドでも来日し最高の演奏を聴かせてくれた。<Wildfire>、<Soothsayer>、<Moments of Fortune>、<Upside In Downside Up>と、『ProtocolU』からたっぷり聴かせてくれる構成が嬉しい。<Kumi Na Moja>は、『Another Life Time』(Phantom Recordings、1999)から。いずれも、1曲1曲の作曲が素晴らしく、サイモンをはじめメンバーの超絶なテクニックによって、楽しくグルーヴし、色彩感、立体感がある美しい絵を紡いでいく。 鳴り止まない拍手とスタンディング・オベーションに応えて『Symbiosis』(Lipstick Records、1995)から<Indian Summer>。変拍子ながら、シンプルで力強くかっこいいリフに、サイモンのドラムソロが光る。
人柄が音に出るというのだろうか、Hiromi The Trio Project にも通じるが、プログレッシブであり、楽譜に書いたらとんでもなく複雑な音楽でありながら、一曲一曲の持つストーリー性と明快なグルーヴが観客を置き去りにすることがない。すばらしいテクニックが強面ではなく、和やかに微笑みかけてくるような、観客をもてなし、一緒に楽しもうという優しい時間。そして丸の内コットンクラブはその感覚にふさわしい特別なハコだ。息が切れそうな超絶プレイの後でも、日本語を交えてゆる〜くMCをするのだから、音楽と観客と日本への愛が、否が応でも伝わってくる。MCの中で何気なく「生中」とも言っていた(以前、上原ひろみと自由研究と称して、生ビール中ジョッキの通称「生中」と「中生」の地域分布を調べていた)。
サイモン・フィリップスは、ジャズクラリネット奏者の父シド・フィリップスのディキシーランド・スタイルを中心に演奏するバンドで6歳から16歳まで演奏していたことも、音楽のディテールから客席とのコミュニケーションまで気を配ることに影響しているのだろうか。そして、その耳の確かさは、レコーディング/ミキシングエンジニアとしても活躍し、自宅にレコーディングスタジオを持つまでになっている。
サイモン・フィリップスをメインストリーム・ジャズとは呼ばないだろうが、当時としては難解なビバップがその理論(後付けだけど)を観客が理解しなくても、心地よく楽しませモダンジャズへの道を拓いたように、超絶なテクニックや複雑な曲を通じて、たくさんの人をハッピーにするのなら、まさにメインストリーム・ジャズのあるべき発展形は意外にこんなところにあるのかも知れない。ジャズという意味では、同じ曲を違うミュージシャンが演奏して発展することにも関心があり、たとえば、上原ひろみとアンソニー・ジャクソンで『ProtocolU』の何か1曲を演奏したら面白いと思うのだけれど。観客には学生が多く、ドラムスを叩きそうな若い層も多く、サイモンのインパクトがこの10年後に彼ら彼女らの中でどう開いていくのかも楽しみだ。(神野秀雄)

【JT関連リンク】
上原ひろみ ザ・トリオ・プロジェクト/ALIVE
http://www.jazztokyo.com/five/five1093.html

【関連リンク】
サイモン・フィリップス 公式ウェブサイト
http://www.simon-phillips.com/content/
サイモン・フィリップス&プロトコールU 公式ウェブサイト
http://protocol-2.com/
コットンクラブ
http://www.cottonclubjapan.co.jp/jp/sp/artists/simon-phillips/
ブルーノート東京
http://www.bluenote.co.jp/jp/artists/simon-phillips/
Café 104.5 サイモン・フィリップス ドラムクリニック
http://www.cafe1045.com/music/drum_clinic.php

Protocol U Protocol Another Life Time Hiromi the Trio Project / ALIVE

神野秀雄 Hideo Kanno
福島県出身。東京大学理学系研究科生物化学専攻修士課程修了。保原中学校吹奏楽部でサックスを始め、福島高校ジャズ研から東京大学ジャズ研へ。『キース・ジャレット/マイ・ソング』を中学で聴いて以来のECMファン。
https://www.facebook.com/hideo.kanno.7?fref=ts

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