Concert Report #708

日本・スイス国交樹立150周年記念・武蔵野合唱団第47回定期演奏会

2014年7月9日(水)19:00 東京芸術劇場
Reported by 藤原聡
Photos by 林喜代種

山田和樹(指揮)スイス・ロマンド管弦楽団
林正子、市原愛(ソプラノ)、西村悟(テノール)
武蔵野合唱団

三善晃 編曲/鈴木輝昭 管弦楽編曲:混声合唱とオーケストラのための「唱歌の四季」
メンデルスゾーン:交響曲第2番 変ロ長調「讃歌」作品52

 スイス・ロマンド管弦楽団の来日は15年ぶりだという。その今回の来日は、指揮者が2012年より音楽監督を務めるネーメ・ヤルヴィではなく、われらが山田和樹であるのも意外と言えば意外、しかし納得と言えば納得である。2010年にスイス・ロマンド管と初共演を果たしたこの指揮者は、あっという間にオケの共感を獲得、2012年9月には主席客演指揮者に就任。このコンビネーションに目を付けたオランダのレーベル、PENTATONEは既に2枚CDを作成している。という訳なので、「プチ凱旋公演」的な意味合いも感じられる今回のツアー、筆者は7月9日と10日の公演を聴いたのだが、ここでは9日について書く。

 9日公演は他の日と違い特殊なプログラムで、三善晃編曲/鈴木輝昭管弦楽編曲:混声合唱とオーケストラのための「唱歌の四季」、メンデルスゾーンの交響曲第2番「讃歌」というもの。そして主催が武蔵野合唱団(コンサートの名称は別項をご覧下さい)。1998年の、まだ20歳にもならない山田和樹が初めて指揮して以来、同合唱団とは深い結びつきを保っている。恐らくは日本とスイスの国交樹立150年の記念年でもある2014年に、日本・スイス・山田和樹・武蔵野合唱団それぞれの結びつきを象徴する意味合いで何らかのモニュメンタルなコンサートを行なおうと決定されたものであろう。演奏のことを書くならば、前半の「唱歌の四季」では、山田和樹の作り出す温かみのある、有機的かつブレンドされたオケの音色が実に耳に心地よい。そして武蔵野合唱団、筆者は初めて聴いたのだがその上手さには驚く。アマチュア団体で(日本のアマチュア合唱のレヴェルは極めて高いけれど)、音色の統一という点ではまだ上を目指せるかな、というところだが、何よりも音楽がノッペリしておらず起伏に富んで躍動しているのがよい。ともすると統一感があっても平板な歌も多いのだが、この合唱団は違う。これも山田和樹の指導の賜物なのかな、と思う。4曲演奏された中では、第4曲目の「雪」での、テンポを早めに取った意外な軽快な歯切れのよさ(前半がしっとりしていたのでコントラストが絶妙)、第5曲目の「夕焼小焼」終盤での壮大な盛り上げが極めて印象的。

 そして後半の「讃歌」。ここでもオケの音自体のなんと魅力的なことか。冒頭のトロンボーンによる基本主題。温かみがあり深く、落ち着いてゆったりしている。そして、この形容詞はオケ全体にも当てはまる。決してエッジを鋭くしないまろやかな音色、合奏時の和声感の見事さ、十分にソリスティックでカラフルでありながらも全体が調和している管楽器群など。その意味で、録音で聴くあのアンセルメの指揮するスイス・ロマンドの特徴は脈々と受け継がれているのか、と感じる。正直申し上げてこのオケがここまで素晴らしいとは思っていなかった。脱帽。もちろん、その素晴らしさを引き出したのは山田和樹だろう。この指揮者は、曲によってかなりアプローチを変えて来る印象があるが、ここでのメンデルスゾーン(全曲を暗譜で指揮!)は極めてまっとうな、作曲者の個性−構成感と節度−を守った正攻法の名演だったと思う(ちなみにこの翌日の10日のメイン・プログラムは「シェエラザード」。ここでは、曲の性格を考慮したかなりアクの強い<ヤマカズ節>が随所に炸裂していた。この辺り、良い意味でこの指揮者、<芸人>である)。合唱団も暗譜、凄い! 3人のソリストも好演、特にテノールの西村悟が落ち着きと輝きを兼ね備えていて印象的だ。

 演奏終了後の和やかな空気も見ていて嬉しくなる。いい雰囲気だ。オケのメンバーは聴衆に手を振り、客席を向いてお辞儀をする。演奏者と客席が一体となった、素晴らしいコンサートであった。

藤原聡
代官山蔦屋書店の音楽フロアにて主にクラシックCDの仕入れ、販促を担当。クラシック以外ではジャズとボサノヴァを好む。音楽以外では映画、読書、アート全般が好物。休日は可能な限りコンサート、ライヴ、映画館や美術館通いにいそしむ日々。

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