Concert Report #709

フランス国立リヨン管弦楽団演奏会

2014年7月17日(木)19:00 サントリーホール
Reported by 藤原聡
Photos by 林喜代種

指揮:レナード・スラットキン
ヴァイオリン:五嶋龍

(曲目)
バーンスタイン:「キャンディード」序曲
ラロ:スペイン交響曲
ベルリオーズ:幻想交響曲
(アンコール)
ビゼー:「カルメン」〜第3幕への前奏曲
ビゼー〜フェリックス・スラットキン:「カルメンズ・フーダウン」

 前回は2011年、準・メルクルに率いられての来日であったフランス国立リヨン管弦楽団。今回の3年ぶりの来日は、2011年から音楽監督を務めているレナード・スラットキンが指揮者である(ちなみに、この来日直前にもう1つのリヨンの楽団、フランス国立リヨン歌劇場管弦楽団も大野和士に率いられて来日していた。今は別団体だが、元々は同じ母体であった)。筆者は、7月17日の公演を聴いた。
 1曲目はバーンスタインの『キャンディード』序曲。やはりここはアメリカの賑やかな曲で最初から派手にかましてくるのか、と想像していたところ、この予想はいささか覆される。若干ゆったり目のテンポを取り、表現も落ち着いた感じである。但し、まだオケのエンジンが掛かっていないのか、まとまりという点では今一歩? やや音が荒かった印象である。2曲目はラロの『スペイン交響曲』、ヴァイオリン・ソロは五嶋龍。ここではオケの音は、冒頭の弦楽器から瑞々しさが漲り、管楽器群のカラフルな音色も耳に心地よい。明らかに興が乗って来た感。五嶋龍については、技術的には実に達者であり、どこを取っても非の打ち所がない。音楽的な意味では素晴らしいのだが、この手の曲には四角四面過ぎるというか、真面目過ぎたかも知れない(ちなみに、いかにも背筋をピンと張って律儀に歩く彼の入退場時の姿を見ていて、思わずそんなに固くならないでも、と思ってしまったが、まあ演奏内容とリンクしているとは言える)。観客の拍手は盛大だったけれど、2度目のカーテンコールでは楽器を舞台裏において「丸腰」で登場、「アンコールは弾かんよ」の頑な意思表示。まあ最近は逆にすぐ弾くケースが多く、これがともすると蛇足の感を与えてしまうこともしばしばなので、これはこれで良いと思う。
 そしてトリはベルリオーズの『幻想交響曲』。第1楽章の序奏は、かなり遅めのテンポでじっくりと歌わせる。繊細なニュアンス付けも見事。それにしても弦楽器群がしっとりと美しい。対して主部に入るや、逆にかなりのアップテンポでオケを煽り立てる。クライマックス後のコーダにおいては、「熱狂の後の慰め」という風情を感じさせるにはあまり余情がない、サッパリとした終結だとの印象。個人的にはこの辺り、表現の方向性が分裂しているのかな、と感じたり。今回特徴的だったのが第3楽章の冒頭のオーボエとコーラングレの対話の部分。テンポは極めてゆっくりとしている。恐らくあらゆる演奏の中でもかなりの遅さではないか。そして、コーラングレ吹奏の際の休符の効果的な生かし方と、途中から入ってくるヴィオラのトレモロが少し進んだ箇所でのアクセントの生かし方。かなり緻密な音作りである(ちなみに合いの手のオーボエは舞台裏ではなく、2階RB席の後ろで吹いていた−先日の準・メルクル&新日本フィルでも似た手法。筆者はRA席だったので、その距離感が絶妙だった)。この辺りを聴くだけでも、スラットキンの上手さが分ろうというもの。終結部でも同様。第4楽章と第5楽章はこれと言って特徴的な演奏ではないが、「当たり前に盛り上がった当たり前に見事な演奏」、とでも形容できるだろう。
 アンコールは2曲。スラットキン自身がアナウンス。ビゼーの『カルメン』第3幕への前奏曲と、これが傑作だったのだがレナードの父親、フェリックス・スラットキンの『カルメンズ・フーダウン』。『カルメン前奏曲』をウェスタン風に料理した気の利いたアンコールピースだ。これが1番盛り上がったかも知れない(聴衆の反応は正直です)。
 総じて、スラットキンの腕の確かさとリヨンのオケの美しさと上手さを十分堪能出来たコンサートであった。

藤原聡
代官山蔦屋書店の音楽フロアにて主にクラシックCDの仕入れ、販促を担当。クラシック以外ではジャズとボサノヴァを好む。音楽以外では映画、読書、アート全般が好物。休日は可能な限りコンサート、ライヴ、映画館や美術館通いにいそしむ日々。

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