Live Report #712

グンジョーガクレヨン+橋本孝之(.es)

2014年7月23日 阿佐ヶ谷Yellow Vision
Reported & photographed by 剛田武(Takeshi Goda)

ぱらぽ〜ら・!****
企画:グンジョーガクレヨン

=出演=
橋本孝之(as)
グンジョーガクレヨン:
組原正(g)
前田隆(bs)

これまでJazz Tokyoで何度か紹介した大阪の即興デュオ.es(ドットエス)のサックス/ハーモニカ/ギター奏者・橋本孝之はこの春から東京に在住している。仕事の都合だというが、数年前から筆者を含め数多くのラヴコールがあったにも関わらず、昨年12月まで東京でのライヴを行わなかった彼が、あっさりと都内に移ることになったことは運命の悪戯と云うべきだろうか?否、むしろ2009年の結成から約4年の月日をかけてじっくりと機をうかがい、ようやく実現した東京上陸がきっかけになって、彼らの運命が大きく啓かれたと云う方が正しい。昨年の東京2デイズを含め、工藤冬里、向井千恵、浦邉雅祥、美川俊治、福岡林嗣、河端一、佐藤薫、鈴木創士、タバタミツルなどのベテランから、冷泉やソルジャーガレージなど若手まで様々な音楽家と交わってきた大阪の新進演奏家が、さらに交流の範囲を広げ、大海に漕ぎ出す時が到来した。

そのひとつの果実がこの日のグンジョーガクレヨンとの邂逅である。ギタリスト組原正を中心に1979年に結成されたグンジョーガクレヨンは、当時のパンク/ニューウェイヴ・シーンで前衛ロックの急先鋒としてセンセーションを巻き起こし、80年代半ばからはより自由度の高い即興演奏にスタイルを変遷させ、30年以上に亘り活動する不屈の音楽集団。長年セルフコンテインド・グループとしてほぼ同じメンバー同士で音楽を熟成させてきた彼らも、最近外の音楽家との交流を活発化させ、より啓かれた活動に意欲を燃やしている。1年前には想像すらしなかった両者の共演は、ある意味起こるべくして起こった惑星直列現象と言えるかもしれない。

現在はドラムに宮川篤志を加えたトリオで活動することが多いグンジョーはこの日はドラムレスのツー・ストリングス編成だったが、演奏姿勢にブレはない。特異なギター奏法で"パンク版デレク・ベイリー"と呼ばれた組原は、奇矯なスタイルで異彩を放ったデビュー当時に回帰し、最近は女装でステージに立つ。正反対に寡黙な前田はベースを弾くと人格が変わったように過激に弦を掻きむしる。橋本を迎えての第一音からハイテンションな一斉掃射が炸裂、共演者を脅し煽るような容赦ない音の強度で攻め立てる。炎上するような演奏環境は、橋本にとっては我が意を得たり。引き裂くようなフリークトーンでガソリンに火を注ぐ。音楽演奏というより、破壊衝動が全開したような30数分が過ぎ去った後に残された、ブーンと蜂が飛ぶような耳鳴りと脳髄の痺れが心地よい。

第二部は打って変わって緊張感に満ちた橋本のサックス・ソロでスタート。実はライヴでソロ演奏をするのは初めてに近く、心構えが出来てなかったというが、組原が時折叩くハイハットだけをバックに立ち昇る残響感のあるアルトの音色は、ソロCDのタイトル通りカラフルな独自性を発揮する。もはや弦楽器の痕跡すらないグンジョーふたりの音塊が激しく襲い掛かる中で、橋本の透徹したテクスチャーは一瞬たりとも揺らぐことはなかった。

延べ70分に亘る長時間演奏は、橋本にとっては初体験だったという。三者が一歩も譲らず語り合い、諍い、睦み合った芳醇な時間は、紛うことなく明日への糧として、演者・聴者いずれにとっても、類い稀な経験になったことは間違いない。この出会いの更なる進展に、運命の女神が微笑んでいることは、終演後の三人の充実の笑顔を見れば明らかだろう。 (剛田武 2014年9月11日記)

剛田 武 Takeshi Goda
1962年千葉県船橋市生まれ。東京大学文学部卒。レコード会社勤務。
ブログ「A Challenge To Fate」 http://blog.goo.ne.jp/googoogoo2005_01

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