Concert Report #715 |
オリヴィエ・メシアン ハラウィ〜愛と死の歌〜 |
---|---|
演奏者二人の音と色に包まれ、別世界に連れていかれた60分間
オリヴィエ・メシアン、1908年に生まれ1992年に亡くなった文字通り20世紀を生きたフランスの作曲家である。この12曲からなる歌曲集『ハラウィ』は、1945年から1949年にわたって作曲された「トリスタン3部作」の第1作である(他は『トゥランガリラ交響曲』と『5つのルシャン』)。歌詞はメシアン自身によるもので、フランス語にケチュア語(インカ帝国の公用語)を交えたもの。
ソプラノのサラ・マリア・ズンは1978年ドイツ生まれ。16〜21世紀を歌うとの紹介が書かれているが、20、21世紀の歌曲やオペラを活動の中心としている。ピアノの中川賢一はアンサンブル・ノマドのピアニスト・指揮者をつとめるなど、やはり現代音楽を活動の中心としている。
このメシアンの大曲、聴く機会が少ない歌曲集ということもあり、演奏者二人による曲目解説があった。主題のモチーフを弾いたり、曲の初めの部分を歌ってみせたりしながら、歌曲集全体の流れや、作曲者の意図が説明された。分かりやすく効果的だったと感じた。
休憩をはさんで行われた演奏も充実したものであった。ズンは軽めの声のソプラノで美しい高音をもっている。その一方で中低音でのしっかりとした響きがあり、さらに叫びのような声も用い表現の幅をひろげていた。中川のピアノは、彼女の歌を支えるだけでなく、音色の変化によりさまざまな表情を作り出していた。歌曲集前半で、愛を歌うソプラノに対してのピアノの不気味な音色変化。愛する二人の転換点ともいえる6曲目での「Ahi!」という言葉の鋭さ。残された者の死と二人の再会をえがく9曲目の激しさ、10曲目の静謐さ。12曲目での安心感、ピアノが静かに全曲を終える。
声の多様な表情、ピアノの色彩的な幅のひろさ、これらは『ハラウィ』という歌曲集を歌う上で必須のものだろう。ズンと中川による演奏はそれを備えていたと思う。歌詞を読んでいるとシュールな印象を受けるが、それがより自由な音楽を生み、演奏者の自発的な発想を要求することにつながっているのだろう。彼ら二人の音と色に包まれ、別世界に連れていかれた60分間であった。
サラ・マリア・ズンの今後の活動に注目していくとともに、このような機会を作ってくれた武蔵野文化事業団に感謝したい。
追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley
:
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣
:
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi
#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報
シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻
音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美
カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子
及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)
オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美
ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)
:
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義
:
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄
Copyright (C) 2004-2015 JAZZTOKYO.
ALL RIGHTS RESERVED.