Concert Report #715

オリヴィエ・メシアン ハラウィ〜愛と死の歌〜
Olivier Messiaen : Harawi Chant d'Amour et de Mort

2014年8月21日 武蔵野市民文化会館 小ホール
Reported by 藤堂 清(Kiyoshi Tohdoh)

サラ・マリア・ズン Sarah Maria Sun (ソプラノ/soprano)
中川賢一 Ken'ichi Nakagawa (ピアノ/piano)

曲目
オリヴィエ・メシアン:「ハラウィ〜愛と死の歌〜」
1. La ville qui dormait, toi お前、眠っていた街よ
2. Bonjour toi, colombe verte こんにちは、お前、緑の鳩よ
3. Montagnes 山々
4. Doundou tchil ドゥンドゥ チル
5. L'amour de Piroutcha ピルーチャの愛
6. Répétition planetaire 惑星の反復
7. Adiue さようなら
8. Syllabes 音節
9. L'escalier redit, gestes du soleil 階段は繰り返し言う、太陽の身振り
10.Amour oiseau d'étoile 愛の星鳥
11.Katchikatchi les étoiles 星のカチカチ
12.Dans le noir 闇のなかに

演奏者二人の音と色に包まれ、別世界に連れていかれた60分間

オリヴィエ・メシアン、1908年に生まれ1992年に亡くなった文字通り20世紀を生きたフランスの作曲家である。この12曲からなる歌曲集『ハラウィ』は、1945年から1949年にわたって作曲された「トリスタン3部作」の第1作である(他は『トゥランガリラ交響曲』と『5つのルシャン』)。歌詞はメシアン自身によるもので、フランス語にケチュア語(インカ帝国の公用語)を交えたもの。
ソプラノのサラ・マリア・ズンは1978年ドイツ生まれ。16〜21世紀を歌うとの紹介が書かれているが、20、21世紀の歌曲やオペラを活動の中心としている。ピアノの中川賢一はアンサンブル・ノマドのピアニスト・指揮者をつとめるなど、やはり現代音楽を活動の中心としている。
このメシアンの大曲、聴く機会が少ない歌曲集ということもあり、演奏者二人による曲目解説があった。主題のモチーフを弾いたり、曲の初めの部分を歌ってみせたりしながら、歌曲集全体の流れや、作曲者の意図が説明された。分かりやすく効果的だったと感じた。
休憩をはさんで行われた演奏も充実したものであった。ズンは軽めの声のソプラノで美しい高音をもっている。その一方で中低音でのしっかりとした響きがあり、さらに叫びのような声も用い表現の幅をひろげていた。中川のピアノは、彼女の歌を支えるだけでなく、音色の変化によりさまざまな表情を作り出していた。歌曲集前半で、愛を歌うソプラノに対してのピアノの不気味な音色変化。愛する二人の転換点ともいえる6曲目での「Ahi!」という言葉の鋭さ。残された者の死と二人の再会をえがく9曲目の激しさ、10曲目の静謐さ。12曲目での安心感、ピアノが静かに全曲を終える。
声の多様な表情、ピアノの色彩的な幅のひろさ、これらは『ハラウィ』という歌曲集を歌う上で必須のものだろう。ズンと中川による演奏はそれを備えていたと思う。歌詞を読んでいるとシュールな印象を受けるが、それがより自由な音楽を生み、演奏者の自発的な発想を要求することにつながっているのだろう。彼ら二人の音と色に包まれ、別世界に連れていかれた60分間であった。 サラ・マリア・ズンの今後の活動に注目していくとともに、このような機会を作ってくれた武蔵野文化事業団に感謝したい。

藤堂清 Kiyoshi Tohdoh
東京都出身。東京大学大学院理学系研究科物理学専攻博士課程修了。ソフトウェア技術者として活動。オペラ・歌曲を中心に聴いてきている。ディートリッヒ・フィッシャー=ディースカウのファン。ハンス・ヴェルナー・ヘンツェの《若き恋人たちへのエレジー》がオペラ初体験であった。

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