Live Report #727

Chicago Jazz Festival 2014
シカゴ・ジャズ・フェスティバル 2014

2014年8月30日18:00〜20:00
text and photos by 神野秀雄 Hideo Kanno

1
The New Gary Burton Quintet (18:00-)
Gary Burton (vib)
Julian Lage (g)
Vadim Neselovskyi (p, melodica)
Jorge Roeder (b)
Henry Cole (ds)

Set list including;
Remembering Tano(Gary Burton)
I Hear a Rhapsody (George Fragos, Jack Baker and Dick Gasparre)
Sunday's Uncle (Julian Lage)
Bags' Groove (Milt Jackson)

2
Tom Harrell "Color of Dreams" (19:10-)
Tom Harrell (tp, flgh)
Jaleel Shaw (as)
Wayne Escoffery (ts)
Ugonna Okegwo (b)
Esperanza Spalding (b, vo)
Johnathan Blake (ds)







夏の終わりのシカゴ、街の中心部に隣接して大きく広がるミレニアムパーク内で、2014年8月28日〜31日に無料コンサートのシリーズが開催された。訪れたのは8月30日(土)夕方17:00〜20:30にジェイ・プリツカー・パビリオンで開催されたうちの、18:00ゲイリー・バートンと19:10からのトム・ハレル。ミレニアムパークは操車場の再開発で作られた広大な公園で、パビリオンは約4,4,000人の座席と約7,000人の大芝生席があり、公園とそのままつながって出入り自由で、市民が思い思いにくつろいで聴いている。ハイアットの創業者の名を冠したこのパビリオンは、フランク・ゲイリーの設計で、ステージまわりのステンレスの巨大な構造物が印象的、そして客席の周辺の金属のパイプにスピーカーが内蔵されていてどこでもよい音が聴けるという。私はその日、たまたま通りがかりで気づいたイギリスの人気グループ、ワン・ダイレクションのソルジャー・フィールドでの夜のコンサートのチケットを買っていて、その後には、伝説のブラスロックバンド、チェースを再現する、チェース・リヴィジテッド・フィーチュアリング・エリック・ミヤシロへ行く予定。そこでソルジャー・フィールドに移動する前に様子を見にという感覚で立ち寄ってみた。

ゲイリー・バートンの若手を起用したニューカルテット。ピアニストにネクスト・ジェネレーション・カルテットにも参加していたウクライナ出身のヴァディム・ネセロフスキ、ペルー生まれ、ニューイングランド音楽院出身でケニー・ワーナーやスティーブ・レイシーらと共演しているホルヘ・ローダー、プエルトリコ出身のドラマー、ヘンリー・コール、そしてゲイリー・バートンが最近の数々のプロジェクトで起用しているジュリアン・ラージ。ジュリアンは確かカリフォルニア出身。国際色豊かに才能を集めたグループ。ジュリアンとホルヘは2011年にゲイリーのカルテットで来日している。ゲイリーのブライトかつ暖かみのある音楽には、もう涼しさも感じる夏の終わりの野外がとても似合う。客席との遠すぎず近すぎない距離感もちょうどよい。途中から入ったが、まず、ゲイリーが親友アストル・ピアソラに捧げた<Remembering Tano>。『The New Gary Burton Quartet / Guided Tour』(Mack Avenue)からの一曲。スティーブ・スワロー、カーラ・ブレイ、そのときのメンバーの曲を演奏することが多かったゲイリーだが、最近、オリジナルを演奏することも増えていて、小曽根真とのデュオコンサートでもこの曲を演奏していた。私の最も好きなスタンダードの一つ<I Hear a Rhapsody>が聴けるのも嬉しく、メンバーが楽しげに視線を交わしながら演奏している。ジュリアンの<Sunday’s Uncle>はクールに燃えるゲイリーのバンドらしいサウンドの1曲。<Bags’ Groove>では、ヴァディムのピアノと鍵盤ハーモニカの同時弾き、一人共演が印象的だが、奇をてらうではなく、必然性のある豊かな表現手段となっていた。ブルースでの締め括りになったが、ゲイリーはもちろんこれだけの名手をそろえたクインテットならではの素晴らしい演奏だった。

トム・ハレルも楽しみだったが、そこそこに次に移動しないといけない。しかし、じぇじぇ、ステージに現れたのは、エスペランサ・スポールディング。メンバーリストをよく見ていなかった。最近、私が強烈なグルーヴに圧倒されているエスペランサが参加したライブに偶然居合わせるとは。席を立ち上がれなくなってしまった。
今回は2013年の『カラー・オブ・ア・ドリーム』のメンバー。トムのトランペット&フリューゲルホーンに、アルトサックス、テナーサックス、ベース2人、ドラムスのセクステット。つまりピアノもギターもなくコード楽器がない。素晴らしいミュージシャンを揃えてのこの編成、自由度が上がると言えるものの、エスペランサとウゴンナのベース2人には難しさがあるはず。しかし2人のプレイが衝突したり濁ることはなく、おだやかにインターアクトしながら強いビートを打ち出し、エスペランサのヴォイスがそれを補強しサウンドに広がりをもたらす。トムのトランペットとフリューゲルホーンの豊かな音質がとにかく気持ちがよく、3管を含む作曲とホーン・アンサンブルがアレンジもよくできているし、テナーサックスとアルトサックスのプレイも凄い。バンドとしてのスタイルの幅も広く、メインストリーム・ジャズから、ゆったりとしながらファンキーなナンバー、コレクティブ・インプロヴィゼーションまでをシームレスに演奏する。そして、エスペランサの歌をフィーチャーした演奏も素晴らしかった。
この日のコンサートは、20:30からのデイヴ・ホランド&プリズムで締め括られ、そして日曜夜フェスティバルの最後を飾ったのはサン・ラ・アーケストラだった。

モントルー・ジャズフェスティバルでのブルーノート東京・オールスター・ジャズオーケストラ・ディレクティッド・バイ・エリック・ミヤシロも自由にアクセスできる公園での無料コンサートだった。いずれもアクセス自由で無料だからこそ最高の音楽が要求されるし、優良な公演となれば友達や家族と最高の時間を楽しむことができる。ジャズファンの裾野を拡げると言う意味でも、意義は大きい。日本に目を転じると、東京JAZZでも東京国際フォーラム地上広場での無料コンサート・シリーズには力をいれているものの、会場の制約が大きく、固定席がおそらく150席程度ではないかと思う。大都市の中心の公園で、金曜から日曜までの3日間、最大11,000人が参加できる野外コンサートを提供するシカゴ・ジャズ・フェスティバルは本当に楽しく、有意義なイベントだった。夏のジャズフェスティバルの真髄の一つを見ることができた。(神野秀雄)

【関連リンク】
シカゴ・ジャズ・フェスティバル
http://jazzinchicago.org/jazzfest/
Gary Burton 公式ウェブサイト
http://www.garyburton.com
Tom Harrell 公式ウェブサイト
http://www.tomharrell.com
Tom Harrell "Color of Dreams" / Family
http://youtu.be/sxEYt976NiI

【JT関連リンク】
小曽根 真&ゲイリー・バートン・デュオ サントリーホール
http://www.jazztokyo.com/live_report/report549.html

神野秀雄 Hideo Kanno
福島県出身。東京大学理学系研究科生物化学専攻修士課程修了。保原中学校吹奏楽部でサックスを始め、福島高校ジャズ研から東京大学ジャズ研へ。『キース・ジャレット/マイ・ソング』を中学で聴いて以来のECMファン。東京JAZZ 2014で、マイク・スターン、ランディ・ブレッカーとの”共演”を果たしたらしい。

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