Live Report #728 |
Montreux Jazz Festival 2014 Japan Day |
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モントルーときいて、『Bill Evans Trio at Montreux Jazz Festival』のシヨン城のジャケットが頭に浮かんだら、モントルージャズという言葉に反応したら、あるいは、ディープ・パープル<Smoke on the Water>に想いがある方なら、モントルーは行ってみる価値があるかも知れない。単にジャズを満喫したいという向きには、実は今のモントルー・ジャズ・フェスティバルはジャズ以外の比率が非常に高いこともあり、ノースシー・ジャズフェスなど違ったオプションがあるのだが、それでもレマン湖畔のエリアには不思議な魅力が存在し、そこでジャズを聴くということには特別感があって、先述の方ならその期待が裏切られることはない。他方、ホテルが高いし取りにくそう、アクセスが不便そうなど、モントルーを敬遠しがちだが、ジュネーブ国際空港から直通電車1本+徒歩で行ける。宿泊すると現地交通機関の無料パスがもらえる。深夜でも列車でローザンヌなどのホテルに戻ることもできる。私も敬遠してきた一人だが思った以上に使い勝手がよいことが今回分かったし、不思議とまた行きたいと思わせる魅力があった。
今年7月11日に開催されたジャパン・デイは、日本とスイスの国交樹立150周年を祝うイベントとして開催された。出演は上原ひろみ、布袋寅泰、松本ゆりふぁ、中村明一フォレスト、MIYAVI、H ZETTRIO、そして、ブルーノート東京・オールスター・ジャズ・オーケストラ directed by エリック・ミヤシロだ。モントルー・ジャズ・フェスティバルの創始者、故クロード・ノブスが日本からトップミュージシャンを呼びたいが、「日本のアーティストの名前は難しくて覚えられないから、いっそ“ブルーノート東京ビッグバンド”としてモントルーに出演してみては?」というアイディアがあったそうで、それが、最近のエリック・ミヤシロの活動と一致して、3年越しに実現することになった。
ブルーノート東京・オールスター・ジャズ・オーケストラの会場は、レマン湖畔の公園に組み上げられた仮設ステージだ。エリアへのアクセスは自由。飲食のブースもまわりに多数並んでいる。
当日は小雨が降っている状況だったが、観客はよい音楽を求めて集まってきた。
まず、ステージにピアノの林正樹と、ヴォーカルの松本ゆりふぁが現れ、エリックが紹介した後、デュオでの演奏が始まる。<Stars><甘いミルク><You Named Me Blue>の3曲。歌詞の言葉の壁はないわけではないものの、集まって来た観客が松本の曲とその歌を楽しんでいる。特筆すべきは、林のピアノソロになると会場が少し静まりピアノの音に集中して聴くようになる。確かにエレピではあったが、林のピアノは光っていた。
そしてオーケストラが登場。1曲目は『Steps Ahead / Magnetic』に収められたマイク・マイニエリの名曲<Trains>だ。オリジナルではマイケル・ブレッカーがAKAI EWI(ウインド・シンセサイザー)を使い複雑なプログラミングでハーモナイズされたテーマを吹くが、エリックはそれぞれの音を各楽器に割り振り、より高度なハーモナイゼーションを行う。あるときは個人ごとに分かれてばらばらに音が出ているようでもあり、ときに3セクションがそれぞれまとまり違う方向に動きながら絡み合う。2014年1月のライブでこの編曲を聴いたときに、バラバラに動き、グループで動き、全体で動く、この動きにイルカの群れが見えた。エリックは、ハイスクール時代にイルカに助けてもらったことがあり、また最近では故郷ハワイでのドルフィン・スイムから大きなインスピレーションを受けていると語っているので、本人はそう思っていないかも知れないが、あながち外れてもいないと思う。あのリチャード・ボナ・バンドもテーマ曲のように使っているだけにこのドライブ感、そしてソリストの秀逸なソロを聴きつけて、急激に人が集まって来た。
次いでエリックが作編曲家として尊敬するボブ・ブルックマイヤーの<Boom Boom>、さらにイリアーヌ・イリアスの曲をボブが編曲した<Just Kidding>を演奏する。
ウェザーリポート的に構成されていたイエロージャケッツの<Downtown>もブラス・アンサンブルでより広がりを持つ。再びステップス・アヘッドのナンバーへ。『Steps Ahead』からドン・グロルニックの<Pools>。かつて、ライブ・アンダー・ザ・スカイでドン自身がサックス・アンサンブルに編曲したことがあるが、オーケストラでも心地よいハーモニーを聴かせてくれる。オーケストラだけで演奏するパートの最後に、エリックが、世界観とストーリーが好きだというパット・メセニーの曲から、『Speaking of Now』に収められた<The Gathering Sky>。ここでは林正樹(p)、井上陽介(b)、山木秀夫(ds)のすばらしさが際立つ。先立って、レマン湖を見下ろすストラビンスキー・オーディトリアムのホワイエでの、リハーサルを見る機会があり、この3人がトリオで楽しそうに演奏する最高の音を耳にしたが、そっちではCF-X(本番はエレピ)、ジャズベース(本番はウッドベース・メイン)、そして「ゴミ箱」を叩く山木。もはや楽器を選ばずに最高のグルーヴを生み出す三人に脱帽だった。
管楽器のソロについて言及しなかったが、日本最高のソリスト集団である。いうまでもなく聴衆を圧倒していたし、日本最高とは言ったが、世界に通用するソロで観客を湧かせていた。
そして、エリックの紹介で、小野リサがステージに登場。私ももともと小野リサの歌、世界を旅するようなアルバムの数々も大好きだったのだが、ジャズ・ビッグバンドとの共演という点では適任なのかな?と少し思ったことがある。小野リサと塩谷哲、また小曽根真との共演を聴いてもインタープレイの末に大きなケミストリーが起きるというよりは、小野リサの歌に寄添うという印象を受けていた。それなら、歌に強烈なグルーヴを生み出すSaigenjiやNobieならどうだろうと妄想してみたりもした。だが、始まってみるとそんな失礼な心配など不要だったことがわかる。観客の一部は自然に踊り出す。サンパウロに生まれラテン・ネイティヴな小野に、スイスとはいえフランス語そしてラテン系の街の人々。静かに見える小野の歌にはそれだけのエネルギーとサウダージがこもっていた。小野リサの歌の魅力は、今まで聴こえていた以上の深いところにあるのかも知れない。そして、<A Girl from Ipanema><Samba de Uma Nota So>のようなボサノバの歌声とギター、それを包みこむビッグバンド・サウンドは、湖畔の空気に穏やかに流れていき、<Mas Que Nada>ではさらにエネルギーを持った音楽が客席を包んだ。そして、小野はここで退出する。
ジャコ・パストリアスが、マイアミ大学で編曲を学んだときに初めて書いたビッグバンド曲だという<Domingo>で締め括る。鳴り止まない拍手だったが、次の準備のためにステージを空ける必要があり、アンコールは実現しなかった。きくところによると、<Knee Deep in Rio>が用意されていたらしい。
この日本最高のメンツにして、出入り自由の公園でのコンサート、豪華でもあるが、条件はとても厳しい、演奏がよければ人が集まってくるし、満足されなければ曲の途中でも帰ってしまう。結果は、たくさんの人が集まって来て、聴き始まるともう立ち去らない。しかも小雨の中、オール・スタンディングなのにだ(芝生だが濡れていて座れない)。屋内での有料公演というオプションもあったと思うが、こちらで正解だったと思う。
欲を言えばカヴァー曲だけでなくエリック自身、あるいはメンバーの素晴らしいオリジナル曲もこの場所でこのメンバーで聴いてみたいと思った。モントルーでビル・エヴァンスと共演したエディ・ゴメスがステップス・アヘッドで演奏するまでの時間より、ステップス・アヘッドから現代までの時間の方がはるかに長くなってしまった。1980年代の今回取り上げたような曲は私自身の琴線に触れまくるところだが、そうすると、2000年以降のエリックの曲がより身近に聴こえてくる部分もあるかも知れないし、素晴らしいエリックのオリジナルをヨーロッパに問うて欲しい。
これだけのミュージシャンにしてもヨーロッパで演奏する機会は多くはない。今回の演奏とその高い評価は、それぞれの自信とエネルギーになっていると思う。実際、この直後に聴いた、井上と山木が参加した塩谷哲トリオは、大きな変化が蠢いて、公演期間中ですら進化を続け、大きく飛躍することを予感させる演奏だった。メンバーの多くが重複して参加している「小曽根真 featuring No Name Horses」のツアーも想像以上に素晴らしいものになっていた。今回の遠征の種が大きく花開くのが楽しみであるし、こういった機会がさらにあることを期待したい。
【JT関連リンク】
ブルーノート東京オールスター・ジャズ・オーケストラ directed by エリック・ミヤシロ with special guest アルトゥーロ・サンドヴァル
http://www.jazztokyo.com/live_report/report636.html
エリック・ミヤシロ EMビッグバンド STB139
http://www.jazztokyo.com/live_report/report627.html
【関連リンク】
Eric Miyashiro ウェブサイト
http://www.ericmiyashiro.com
モントルー・ジャズ・フェスティバル2014 ジャパンデイ概要
http://www.bluenote.co.jp/jp/event/montreux-jazz-festival-japan/
Montreux Jazz Festival 2014
http://www.montreuxjazzfestival.com/en/artist/blue-note-tokyo-all-star-jazz-orchestra-directed-eric-miyashiro
追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley
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#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣
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JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi
#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報
シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻
音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美
カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子
及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)
オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美
ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)
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#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義
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#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄
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