Live Report #729

タロス・ジャズ・フェスティヴァル 2014
Talos Jazz Festival 2014

2014.9.11~14 イタリア/ルーヴォ・ディ・プーリア
http://www.talosfestival.it/
photo & text: Roberto Masotti

近年、と言ってもそこそこ最近のことだが、イタリア南部のいくつかのフェスティヴァルに出掛ける機会に恵まれた。たとえば、ロッチェッラ・イオーニカ(Roccella Jonica、カラブリア州レッジョ・カラブリア県)、ノーチ(Noci)、ルーヴォ・ディ・プーリア(Ruvo di Puglia、共にプーリア州バーリ県)、パレルモ(Palermo、シチリア州パレルモ県)などである。それぞれのフェスティヴァルでは、“Rumori Mediterranei”(地中海の音)、“Europa Jazz Festival”(ヨーロッパ・ジャズ・フェスティヴァル)、“Talos”(ルーヴォにあるヤッタ・コレクションのなかの古代から伝わる巨大なプーリアの壺。ギリシャ神話の巨人タロスが描かれている)、“Curva Minore” (パレルモのコンテンポラリー・ミュージック団体)など魅力たっぷりのタイトルを掲げ、アヴァンガルドに向かう傾向をもちつつジャンルの異なるジャズを横断する内容をアピールしている。しかし、これらのフェスティヴァルの多くは開催がなんらかの理由で中断されたり、キャンセルに見舞われることが多く、われわれは各地独特の味わいや雰囲気、それにプロの聴き手を含め一般聴衆をもてなしてくれるホスピタリティが忘れられず寂しい思いをすることになるのである。

それぞれのストーリーについては幸い写真が多くを語ってくれるだろうが、ルーヴォの行政当局の文化担当官パスカーレ・デ・パロの深甚なるサポートを得てこのフェスティヴァルを存続、再開させるために果たしたピノ、息子のリヴィオ、マルゲリータ・ポルフィード夫人、母親から成るミナフラ・ファミリーの情熱と頑張りについては私の口から直接お伝えすべきだと思う。じつを言うと、ジァンルイージ・トロヴェージのクラリネットとのデュオ・コンサートでハープシコードを演奏、ダンス公演の幕を開けたのもマルゲリータ夫人だった。このコンサートは未発表の新曲で構成されサプライズの連続だったが、とても趣味の良い内容でもあったのだ。残念だったのは、雨天のためパラスポートという音楽にはふさわしくない施設での演奏を余儀なくされ、残響が大きいため、いつもは明晰なキース・ティペッツのソロも犠牲になってしまった。フランク・ザッパを演奏したタンキオ・バンドもひどいアコースティックに悩まされたのは言うまでもない。

Trovesi& Margherita Porfido
ⓒRoberto Masotti
Tankio Band
ⓒRoberto Masotti

翌12日の金曜日は、イタリア系オランダ人の写真家フランチェスカ・パテーラの小規模だがとても意義のある個展を観ることから始まった。彼女の写真はストレートだが独特の風合いを持ち、アムステルダムのビムハウスでは何シーズンも個展を開く実力者のひとりである。彼女の鋭く内面に肉迫する写真はとても貴重で写真に多くを語らせることに成功している。ルーヴォ・フェスティヴァルはいつもヴィジュアル・アート、とくに写真に強い関心を示している。何年か前に私自身も招待を受け、「ジャズ・エリア」というタイトルの個展を開いたことがある。チェリー・ダインズ監督の映画『Misha Envoort』(『ミーシャ、etc』 http://www.youtube.com/watch?v=nf4cPcg1WP8)も上映されたがミーシャの内面に迫る映画で絶対見逃すべきではない。ミーシャとはもちろんオランダのカリスマ的ピアニスト、ミーシャ・メンゲルベルクのことで、退行変性という難病に自由を奪われていくこのアナーキーな人物の日常を追った内容である。

Francesca Patella Exhibition ⓒRoberto Masotti

次いで、素晴らしいピアツェッタで(ジャンルイージ)トロヴェージの「オロビコ・クァルテット」と日本ツアーを打ち上げたばかりの「インスタント・コンポーザズ・プール・オーケストラ」(ICPO) を聴いた。「オロビコ」は<ル・ミルフィーユ・ボッレ・ブルー>などのポピュラー・ソングを素晴らしいアレンジで聴かせ、ICPOはいわば室内楽的ジャズとインプロ・コンテンポラリー・ミュージックをミックスした内容といえば良いか。長い道程を共に歩んできたハン・ベニンクと仲間たち。ミーシャ・メンゲルベルクの椅子は空席のままだが、今さら説明の必要はないだろう。彼は仲間たちと共にそこに存在し続けているのである。素晴らしい新作も出た。ICPはエックス・コンヴェーント・ディ・ドメニカーニで大勢の参加者と共にワークショップを主宰し、広い中庭でのコンサートで締めた。

Trovesi Orobico Quartetto ⓒRoberto Masotti
Above four:ICPO ⓒRoberto Masotti
Above nine:ICPO workshop ⓒRoberto Masotti

イヴニング・コンサートの幕開けはピアツェッタでのハン・ベニンクによる素晴らしいアコースティック・ソロ。続いて、ルイ・モホロ、キースとジュリーのティペッツ夫妻らが参加した「ミン=アフリック・オーケストラ」による『マンデーラのために』。モホロとティペッツの存在感、ジュリー・ティペッツの美しい声、オッタヴィアーノ、トラモンターナ、サンナらの素晴らしいソロイストたち…彼らがひとつになった一体感、この演目はフェスティヴァル全体を通じたハイライトのひとつだった。ヴィヴァ、マンデーラ!

Above two:Han Bennink ⓒRoberto Masotti
Above three:For Mandela by MinAfric Orchestra ⓒRoberto Masotti
Above two:For Mandela by MinAfric Orchestra @Rehearsal ⓒRoberto Masotti

9月14日(日)
グリフォ・ワイナリーでのアフターヌーン・コンサートは雰囲気も変わって、ロベルト・オッタヴィアーノが主導、「スティーヴ・レイシーの音楽」に捧げられた。内容も素晴らしく感動的だったが、集客が良かったことも挙げておこう。続いて、テアトロ・コミュナーレというこぢんまりとした雰囲気の良い会場で、若手実力者でピアノとマルチ・インストゥルメンタルのリヴィオ・ミナフラが、この日はピアノを中心に南アフリカのレジェンド、ルイ・モホロのドラムスと対峙、緊張感に溢れたデュオ演奏を披露した。

Above Four:Roberto Ottaviano ⓒRoberto Masotti
Above six:Livio Minafra & Louis Moholo ⓒRoberto Masotti

続いて登場したのは、アコーディオンとチェロのデュオ(パイエール、ヴァルチック)だったが、タンゴのクリシェに満ちたイージー・リスニング調の演奏で私の趣味ではなかった。幸いなことに、彼らはつなぎで、その後に登場した大規模なバンドのパフォーマンスに救われた。彼らは、ブラス、シンガー、アクロバット、火食い術師、ミュージシャン、リズム・セクションから成る大混成部隊で、ニーノ・ロータからサン・ラまで自由に往き来、はたまたナポリ民謡まで登場する賑やかさはまるで獰猛なタランチュラの上に乗っているような感覚を覚えたものだ。そうだ、忘れないうちにひと言、現地で楽しみたかったらアトラクション;Cesare Dell’Anna & Girodibandaを雇うことを忘れずにね!(PRをやっちまったね!)

Paier & Valcic ⓒRoberto Masotti
Above nine:Cesare Dell’Anna & Girodibanda ⓒRoberto Masotti

素晴らしいフィナーレ!祭りは終わった!来年のルーヴォの目玉には何を用意してくれるのだろうか!?(ロベルト・マゾッティ)

ロベルト・マゾッティ Roberto Massoti
1947年イタリア・ラヴェンナ生まれ。1972年からミラノを拠点に活動。1973年からECMのセッションを撮影、数十作のカヴァー写真、数百作のライナー写真を提供。1976年から2008年までECMのイタリア・レップとしてプレスを担当。1979年から19年間、妻のシルヴィア・レリと「Lelli e Masotti」の名で、ミラノ・スカラ座のオフィシャル・フォトグラファーを兼務。その間、スカラ座と3度の来日、東京で2度の写真展を実現。最近は、アーティストの等身大の全身像を使ったインスタレーション「Life Size Acts」、コンピュータに取り込んだ映像とミュージシャンとの共演「improWYSIWYG」を展開中。

インタヴュー:
http://www.jazztokyo.com/interview/interview104.html

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FIVE by FIVE 注目の新譜


NEW1.31 '16

追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

INTERVIEW
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義

CONCERT/LIVE REPORT
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄


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