Concert Report #740

ロベルタ・マメリ&ラ・ヴェネシアーナ〜ある夜に〜

2014年10月16日 王子ホール
Reported by 藤堂 清 (Kiyoshi Tohdoh)

ソプラノ:ロベルタ・マメリ
音楽監督/チェンバロ:クラウディオ・カヴィーナ
演奏:ラ・ヴェネシアーナ(古楽アンサンブル)

曲目
クラウディオ・モンテヴェルディ: オペラ「オルフェーオ」より 我が愛するペルメソスの川から
ビアージョ・マリーニ: パッサカリオ
モンテヴェルディ: 「音楽のたわむれ」より ああ、私は倒れてしまう
モンテヴェルディ: 「愛の神よ どうすればいいのか」より リトルネッロ
ジョヴァンニ・フェリーチェ・サンチェス: 他の男が暴君のように
モンテヴェルディ: 「マドリガーレ集 第5巻」より シンフォニア(こんなに素晴らしい響き)
ニコラ・フォンテイ: エリンナの涙
モンテヴェルディ: 「マドリガーレ集 第7巻」より シンフォニア(チェトラの調べに合わせて)
モンテヴェルディ: 「マドリガーレ集 第7巻」より なんて心地よいのだろう
***** 休憩 *****
モンテヴェルディ: 「マドリガーレ集 第4巻」より シンフォニア(私は泣き、溜め息をついた)
タルクイニオ・メールラ: 子守唄によせた宗教的なカンツォネッタ
モンテヴェルディ: シンフォニア(つれない娘たちのバッロ)
モンテヴェルディ: オペラ「アリアンナ」より アリアンナの嘆き
モンテヴェルディ: オペラ「ポッペーアの戴冠」より シンフォニア
フランチェスコ・カヴァッリ: オペラ「カリスト」より 情熱をもやし、嘆き、涙して
モンテヴェルディ: オペラ「ウリッセの帰郷」より シンフォニア
モンテヴェルディ: 「マドリガーレ集 第8巻」より ニンファの嘆き
***** アンコール *****
パーセル:「ダイドーとエネアス」より ダイドーの嘆き
ヘンデル:「リナルド」より 私を泣かせてください

ロベルタ・マメリはローマ生まれのソプラノ、モンテヴェルディやヘンデルといったバロック音楽を主なレパートリーとしている。ラ・ヴェネシアーナの一員として、あるいは、単独で来日してのリサイタルは何度かあったが、彼女をソリストとするこの団体のコンサートは初めてである。
プログラムは「〜ある夜に〜 ERA LA NOTTE」というタイトルが付けられ、モンテヴェルディと彼に次ぐ時代の作曲家の曲で構成されている。その多くは「嘆き」を歌ったものであった。マドリガーレ集の声部を器楽で演奏する曲を交えることで、独唱者の負荷軽減を図っていた。
マメリの声の響きは演奏されている空間全体を包み込むように広がり、聴衆の体に共鳴する。大きな声を出さなくとも、スーッと入り込んでくる。ヴィブラートが少なく、音程が安定しているのも気持ちがよい。彼女は、歌詞のなかのある言葉を強調したり、節単位で盛り上げたり、抑えたりといった歌い方で、歌の意味、表情の印象を強める。そのよい例が、後半に歌われたメールラの『子守唄によせた宗教的なカンツォネッタ』。この曲は子守唄ではあるが、幼子イエスを抱くマリアが、いずれイエスに訪れる受難に思いをはせつつ歌う曲。のちにイエスの加えられることになるさまざまな苦痛を強い声で悲痛な響きを伴って歌い、一方で「眠りなさい(dormi)」といったように歌うときには柔らかな響きを用いる。カヴィーナのチェンバロ・指揮もそれに寄り添い、この音楽全体を構築していた。
バロックの声楽曲、同じような言葉が続きまた曲も繰り返しが多いため平板に聴こえることも多いが、歌手が、そしてその歌をサポートする奏者がより踏み込んだ音楽作りをすれば、形式の決まった音楽からも、多様な世界が生み出されることをマメリ等が示してくれた。
『アリアンナの嘆き』の冒頭の"Lasciatemi morire"の悲痛な響き、それは即座に聴衆を彼女が置き去りにされた島に連れていってしまう。あとはアリアンナの嘆きの渦のなかでもまれることになる。
アンコールの2曲も嘆きの歌。2曲目に歌われたヘンデルのアリアはABAというこの時代の形式に従ったものだが、最初のAを終えたところでカヴィーナは手を止めた。しばしの沈黙のあと、アンコールだから仕方がないかというようにパラパラと拍手が起き始めたのだが、マメリの要求でBから再開。繰り返しのAでは華麗に装飾音を入れて歌いあげた。
モンテヴェルディを中心としたイタリア・バロック音楽を堪能した一夜であった。技巧と表現力をそなえた若き歌姫の今後の活躍が楽しみである。

(注記)プログラムでは団体名"La Venexiana"を「ラ・ヴェネクシアーナ」と表記しているが、海外の放送局の呼び方や今回奏者で参加していた懸田氏の表記を考慮し「ラ・ヴェネシアーナ」と書かせていただいた。

藤堂 清 Kiyoshi Tohdoh
東京都出身。東京大学大学院理学系研究科物理学専攻博士課程修了。ソフトウェア技術者として活動。オペラ・歌曲を中心に聴いてきている。ディートリッヒ・フィッシャー=ディースカウのファン。ハンス・ヴェルナー・ヘンツェの《若き恋人たちへのエレジー》がオペラ初体験であった。

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