Concert Report #741

東京都交響楽団 第776回定期演奏会Bシリーズ
2014年10月20日 サントリーホール

東京都交響楽団 第777回定期演奏会Aシリーズ
2014年11月4日 東京芸術劇場

Reported by 藤原聡(Satoshi Fujiwara)

東京都交響楽団 第776回定期演奏会Bシリーズ
<演奏者>
マーティン・ブラビンズ(指揮)
スティーヴン・オズボーン(ピアノ)
<曲目>
ヴォーン・ウィリアムズ:ノーフォーク狂詩曲第1番ホ短調
ブリテン:ピアノ協奏曲op.13(1945年改訂版)
※オズボーンのアンコール/ドビュッシー:前奏曲集第2巻より「カノープ」
ウォルトン:交響曲第2番

東京都交響楽団 第777回定期演奏会Aシリーズ
<演奏者>
マーティン・ブラビンズ(指揮)
クロエ・ハンスリップ(ヴァイオリン)
<曲目>
ヴォーン・ウィリアムズ:ノーフォーク狂詩曲第2番二短調(ホッガー補完版/日本初演)
ディーリアス:ヴァイオリン協奏曲
※ハンスリップのアンコール/ペーテリス・プラキディス:2グラスホッパーズ・ダンス
ウォルトン:交響曲第1番変ロ短調

 今回のブラビンズ指揮による第776回、第777回の定期演奏会はイギリス音楽ファンには聴き逃せない回である。ヴォーン・ウィリアムズ、ブリテン、ディーリアス、ウォルトン。日本のコンサートではなかなか演奏されない作曲家とその楽曲ばかりで構成されたコンサートであった。ここでは776回をメインにレポートする。
 第1曲はヴォーン・ウィリアムズの『ノーフォーク狂詩曲第1番』。作曲者がイングランド東部のノーフォーク州周辺で採取した民謡を素材にした、いかにも素朴でしんみりとした情感に満ち溢れた美しい曲であるが、ここでは都響の清澄な弦の音色が最大限に生かされる。第2曲目のブリテンは作曲者24歳時の才気に溢れた作品だが、ブリテン独特の個性がまだ完全に開花していないところもあり、むしろプロコフィエフやラヴェルなどの影響が顕著である。楽曲はいわゆる「協奏曲」というよりも、ピアノはオケの中に組み込まれている。その意味では、敢えて言えばブラームスの協奏曲的でもある。演奏はオズボーンのピアノとブラビンズの指揮共々、部分を掘り下げるよりは全体の流れで聴かせた演奏と言える。その淀みのない演奏は見事であったが、ブリテン独特の「臭み」は中和された感もある。だからこそ、このとっ散らかった曲の様相を把握し易かったとも言えるが、いずれにせよ大変水準の高い名演であったのは間違いない。それにしてもオズボーン、この曲を完全に暗譜で弾いていたのには驚嘆させられる。そもそもこの曲をレパートリーにしているピアニストもそうはいないだろうが、恐らくオズボーンが最高なのではなかろうか。ここで聴衆の喝采に応えてアンコール、ドビュッシーの『前奏曲集第2巻』から<カノープ>(何かイギリスの小品が出てくるかと思っていたら意外)。こちらは柔らかなニュアンスに満ち溢れた名演であった。
 休憩を挟んでのトリはウォルトンの『交響曲第2番』。ジョージ・セルの録音でそれなりに有名であるが、同じ作曲家の『第1番』に比べると相当に渋く手強い印象がある(終曲のパッサカリアがその印象を強めていると思う)。『第1番』はたまに演奏されても、この『第2番』は滅多にコンサートのプログラムを飾らないのではないか。ここでもブラビンズはさすがの手腕を発揮。とにかく、この指揮者が当たり前のように気負いなく振っていくのに対し、都響が完璧につけて行く。恐らく都響にとってもほぼ初めての曲と想像されるが、とてもそうは聴こえない。ブラビンズの解釈は、ここでも「何も足さない、何も引かない」といった風情のものであるが、そのまとめ方の上手さが実に際立つ。特にパッサカリアでの変奏の描き分けが見事。他の指揮者ならここまで整然とした演奏にはならなかったのは間違いない。こういうある種晦渋な曲は、実演で接すると腑に落ちるケースは多々あるけれども、筆者にとってもまさにそれで、曲の「かたち」が見渡せたのが収穫。
 最後に777回の定期演奏会にも若干言及するが、ここではヴォーン・ウィリアムズ協会から「1度限りの蘇演」との条件付きで2002年に録音、2003年に慈善公演で公開演奏されて以来、演奏も出版も認められなかった『ノーフォーク狂詩曲第2番』(ホッガー補完版)が取り上げられた。都響からの強いアプローチによりヴォーン・ウィリアムズ協会から出版と演奏の許諾が得られたとのことである。この日もブラビンズと都響は卓越した演奏を聴かせてくれたが、トリのウォルトンの『交響曲第1番』が、こちらも整然としたまとまりがありながらも、この曲独特の圧倒的な力感の放出がいささかも中和されることなく鮮烈に表出されたのが素晴らしかった。彼らには今後も定期的にイギリス音楽を取り上げて頂きたい!

藤原聡 Satoshi Fujiwara
代官山蔦屋書店の音楽フロアにて主にクラシックCDの仕入れ、販促を担当。クラシック以外ではジャズとボサノヴァを好む。音楽以外では映画、読書、アート全般が好物。休日は可能な限りコンサート、ライヴ、映画館や美術館通いにいそしむ日々。

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