Concert Report #746

小曽根 真&アルトゥーロ・サンドヴァル
“Jazz meets Classic” with 東京都交響楽団

2014年10月24日 東京芸術劇場コンサートホール
Reported by 神子直之(Naoyuki Kamiko)
Photo by 青柳聡(写真提供:東京文化会館)

小曽根 真 Makoto Ozone (piano)
アルトゥーロ・サンドヴァル (trumpet, **vocal, ***piano)
*ジョシュア・タン (conductor)
*東京都交響楽団
(*第一部のみの出演)

プログラム

第1部:
バーンスタイン:「キャンディード」序曲
ショスタコーヴィチ:ピアノ協奏曲第1番 ハ短調 op.35(ピアノとトランペット、弦楽合奏のための協奏曲)
ラヴェル:ボレロ(小曽根スペシャル)
第2部:
ジャズ・セッション
− 曲名は事前発表無し。筆者の聞き取りおよび提供された情報による。 −
ハリー・ウォーレン:あなた無しでは
小曽根真:タイム・スレッド
小曽根真:53rd St. Blues
ジョン・ターナー&ジェフリー・パーソンズ&チャールズ・チャップリン:スマイル**
エドワード・ヘイマン&ヴィクター・ヤング:恋に落ちた時**
ジョン・コルトレーン:ジャイアント・ステップス
ジョゼフ・コズマ:枯葉
ジェローム・カーン:煙が目にしみる***
(作曲者曲名不明の速いワルツ)***
レイ・ノーブル:チェロキー

アンコール:
セロニアス・モンク:ブルーモンク
チャーリー・パーカー:ドナ・リー**
ジョニー・グリーン:身も心も

東京都の主催する東京文化発信プロジェクトのメイン公演として催行されたコンサート。日本を代表するジャズピアニストと世界的トランペッターがまずショスタコーヴィチ等のクラシックで共演し、続いてジャズのセッションを行う、この試みは芸術劇場コンサートホールを埋め尽くした満席の観客の心にどう響いたか。

第1部、そそくさと終わった<「キャンディード」序曲>に続いて、小曽根とサンドヴァルが登場し、ショスタコーヴィチの<ピアノ協奏曲第1番 ハ短調 op.35>が始まった。ゆっくり目のテンポであるが、小曽根のピアノが小気味よく軽快に響く。少々ナーヴァスに見えたサンドヴァルのトランペットは、多少後ノリではあるものの存在感を示していた。この、ショスタコーヴィチに良くある悲惨な現状から無理強いされた歓喜への道程と捉えることができる曲において、リズムの一部に(それも徐々に)スイングを足し、終楽章のカデンツァでは即興あるいはオリジナルを足すという演出はジャズとクラシックに通じた小曽根ならではのもの。一本調子な馬鹿っぽいフレーズをトランペットが吹き続けた後の大団円もキッチリ決まって爽快。

<ボレロ>は、ラヴェルによるオリジナルに多分途中の18小節とコーダの4小節を足したオーケストラに対して、即興演奏と思われるピアノをオーギュメントする構成。フランス近代音楽の代表作の一つである原曲に、時に対峙し、時に融合する小曽根のピアノは、クラシック音楽がかつて今よりも取り入れていた即興という方法を、ソフィスティケートされたジャズのやり方で取り戻そうとしているかに思える。一方で、単純にクレッシェンドするオーケストラの音響に、孤独な戦いを挑んだピアニストが呑み込まれていくようにも見えた。すでに額縁に入ってしまったクラシックの名曲に即興で新たな息吹を吹き込もうとすることはクリエイティブであると同時にチャレンジングである。そのような方法論が今後どのような進展を見せるか、聴衆に何を訴えかけることができるのか、注視したい。

第2部は、ジャズの名手である二人によるお得意のナンバーを揃えたセッションであった。1曲目の<There Will Never Be Another You(あなた無しでは)>は日本のジャムセッションでもよく演奏される人気曲、2曲目は小曽根作のバラードの佳曲。曲の美しさとサンドヴァルの音色が本当に素晴らしかった。4曲目あたりからは、小曽根による日本語訳を交えたサンドヴァルと小曽根の対話を挟みながら、和やかにステージは進んだ。4曲目から2曲、サンドヴァルがスタンダードのバラードの素晴らしい歌唱を披露。さらに、ジョン・コルトレーンによる、和声進行が特徴的でテンポが速い難曲である<ジャイアント・ステップス>が、二人によって事も無げに演奏されると、次にはバロックスタイルのイントロが付いた<枯葉>が続くなど、日本の観客、とくにクラシックの聴衆にアピールする曲を次々に演奏した。さらに驚いたのは、サンドヴァルのピアノがまた流暢で、その腕前も超一流だったことである。このジャズの時間は3曲のアンコールを含めて1時間以上に及び、満席の観客は皆喝采を送った。

東京はクロスカルチュラルな都市であるため、その発信すべき独自の文化は何、と問われると、結局それはクロスカルチュラルなものと言うしかないのか。だとすると、様々な旧来の文化、様式から、新たな文化的活動や価値観を生じさせることを目指すことは東京型の文化発信であると言える。今回の小曽根真とアルトゥーロ・サンドヴァルによるコンサートは、彼らの演奏がクロスカルチュラルであることに加え、聴衆に対しても、クラシックファンに対してジャズのセッションを体験させるという意味でもクロスカルチュラルであり、主旨に合致した大きな成果であったと言える。ここでの色んな意味での邂逅がどのような枝を伸ばし葉をつけ、どのような花を咲かせるのであろうか。楽しみに期待したい。

神子直之 Naoyuki Kamiko
1963年(昭和38年)東京生まれ。東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。高校生時代に出会ったECMミュージックがやりたくて東大ジャズ研に入る。今もピアニストとして年に十数回のライブを東京および京都で行っている。「Azimuth」の大ファンで、ネットでKenny Wheeler (incomplete) discographyを執筆・公開した。好きな作曲家はマーラー、オネゲル、デュティユーなどなど。

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