Concert Report #753

ローマ・サンタ・チェチーリア国立管弦楽団来日公演

2014年11月7日 サントリーホール
Reported by 藤原聡(Satoshi Fujiwara)
Photos by 林 喜代種(Kiyotane Hayashi)

<演奏者>
アントニオ・パッパーノ(指揮)
マリオ・ブルネロ(チェロ)

<曲目>
ヴェルディ:オペラ『ルイザ・ミラー』序曲
ドヴォルザーク:チェロ協奏曲ロ短調op.104
 ●ブルネロのアンコール/ビナレック:アルメニア民謡、J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲第6番二長調BWV1012からガヴォット
ブラームス:交響曲第2番ニ長調op.73
 ●オーケストラのアンコール/ヴェルディ:オペラ『運命の力』序曲、ポンキエルリ:オペラ『ラ・ジョコンダ』から時の踊り(後半部分)

2007年、2011年に次ぐ、パッパーノ&ローマ・サンタ・チェチーリア国立管弦楽団の来日公演である。今回のプログラミングの特徴は、ブラームスやR・シュトラウス、ドヴォルザークなどの非・イタリア系の楽曲が主に選ばれている点だろう。「ヴェルディやレスピーギだけじゃないぞ、我々は!」という訳であろうが、その結果はいかに。
とは言いながらも1曲目は彼らのおハコ、ヴェルディの『ルイザ・ミラー』序曲。筆者はこのオケの実演には初めて接したが、なるほど独特の音色である。音の重心が高く、音色はカラッとしていて軽い。湿り気がない。また、緻密さで聴かせるというよりは良い意味でそれぞれのメンバーが自由に弾いている感。機械的に合わせる事に汲々とせずに大らかである。結果、縦の線が揃っていなかったり、パートの音色の統一感がやや弱いと感じられなくもないのだが、不思議とすぐに気にならなくなる。というよりも、ドイツや日本、アメリカのオケなどとは別種の一体感があるのだ。『ルイザ・ミラー』では全体にパッパーノはかなり抑制した表現をオケに求め、終局に至って音量的な開放感を演出したのだが、これはいわゆるイタリア的なノリと爽快さとは違った落ち着きを感じさせる(まあ元々派手に盛り上る曲ではないとは言え)。
そして第2曲目はマリオ・ブルネロを迎えてのドヴォルザークの『チェロ協奏曲』。彼らにしては意外な選曲。ブルネロは、はっきり言えば大ホールで大向うを唸らせるような音量もなければ豪快な表現をする人ではない。どちらかといえば繊細な表情の変化で聴かせるタイプである。それがここでは、指揮者とオケの細心の注意を払ったサポートによって、チェロを殺すことなく実に見事に協調しているのに驚く(でも、その中でもオケの面々はかなりフリーダム)。チェロとオケ共々、表面的な迫力を超越した、繊細な美演と評せよう。尚、聴衆の熱心な拍手に応えてブルネロは上記のアンコールを弾いたのだが、1曲目のアルメニア民謡が実に印象深かった。オケのチェロパートがピアニッシモで通奏低音を奏でる中、ブルネロが何とも幽玄かつ神妙なメロディを奏でていく。まるで中近東の音楽のようにも聴こえる。そしてバッハは自在な表情付けと遊びに満ちた名演。
最後の曲目はブラームスの『交響曲第2番』。結論から書けば、想像していたよりオーソドックスな演奏であったが、しかし、そこはこのオケ。カラフルな音色、縦の線を合わせるよりも横に流れまくる豊かなカンタービレが美しい・楽しい。言うまでもなく構築的なブラームスではない。しかし、この曲ならこういう演奏も大いに納得できる。そして第4楽章コーダの追い込みは凄まじかった!
湧きに湧く会場、アンコール1曲目は来ました『運命の力』序曲(舞台下手後方にチンバッソが鎮座していたので恐らく「来る」とは予想していたが図星)。もうこれは文句なし。しかし、このぴったりと「ハマッた」感はこの日のこれ以前の曲には感じられなかったのも事実。さらにダメ押しに<時の踊り>。後半のテンポの速い部分のみの演奏だったが、この曲は前半の緩やかな部分とのコントラストがキモゆえ、いささか長くとも全曲演奏して欲しかった、というのは贅沢な不満か。演奏は最高。
以上、非常に楽しめたコンサートであったが、若干の「齟齬感」が自身の中であったと正直に告白せねばなるまい。これが何に由来するのかを考えるのもまたコンサートの楽しみ方であろう。

藤原聡 Satoshi Fujiwara
代官山蔦屋書店の音楽フロアにて主にクラシックCDの仕入れ、販促を担当。クラシック以外ではジャズとボサノヴァを好む。音楽以外では映画、読書、アート全般が好物。休日は可能な限りコンサート、ライヴ、映画館や美術館通いにいそしむ日々。

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