Concert Report #754

NISSAY OPERA 2014
『アイナダマール(涙の泉)』

2014年11月15日 日生劇場
Reported by 藤堂 清 (Kiyoshi Tohdoh)
Photos by 林 喜代種 (Kiyotane Hayashi)

曲目
『アイナダマール(涙の泉)』
作曲:オズバルド・ゴリホフ
台本:デイヴィッド・ヘンリー・ウォン(スペイン語翻訳:オズバルド・ゴリホフ)

指揮:広上淳一
演出:粟國淳
美術:横田あつみ
照明:大島祐夫
衣装:アレッサンドロ・チャンマルーギ
振付:マリアーノ・ブランカッチョ
音響:遠藤宏志
映像:栗山聡之
原語指導:濱田吾愛
合唱指揮:服部洋一
管弦楽:読売日本交響楽団
合唱:C.ヴィレッジシンガーズ
舞台監督:大仁田雅彦

キャスト
マルガリータ・シルグ:横山惠子
ヌリア:見角悠代
ロルカ:清水華澄
ルイス・アロンソ:石塚隆充
ホセ・トリバルディ:加藤宏隆
闘牛士:柴山秀明
教師:狩野賢一

オペラ『アイナダマール』は、2003年のタングルウッド音楽祭でコンサート形式で初演、改訂を経て2005年サンタフェ・オペラで舞台上演された。ドーン・アップショウ、ケリー・オコーナー等を主役に録音されたCDは、グラミー賞を獲得している。作曲したオズバルト・ゴリホフは、アルゼンチンに生まれアメリカで音楽教育を受けたユダヤ人、その両親はウクライナとルーマニアからの移民といった具合に、さまざまな文化的背景を持つ。
このオペラは、スペインの有名な詩人フェデリコ・ガルシア・ロルカをめぐる3つの情景で構成されている。第1景は『マリアナ』と題され、ロルカの戯曲『マリアナ・ピネーダ』の1969年の上演の舞台裏、マリアナを演ずるマルガリータ・シルグがこの戯曲を通じたロルカとの出会いを回想する。第2景は『フェデリコ』、ロルカがマルガリータのハバナ公演への同行依頼を断りスペインに残り、グラナダでファシストに殺害される場面。第3景は『マルガリータ』と名付けられ、生涯マリアナ役を演じ続け、ロルカの思いを伝えてきたマルガリータ・シルグの死とそれを引き継ぐヌリアたち、そしてマルガリータを迎えるロルカが「自由」を歌ううちに幕となる。
CD録音やいくつかの劇場での公演のビデオなどで見たり聴いたりした印象では、音楽的に充実しているが超絶技巧や大きな声を必要とすることもなさそうで、フラメンコ調のダンスも見せ場となるのではないかと考えていた。
実際、主役であるマルガリータの横山、ロルカの清水、ヌリアの見角、それぞれに堅実な歌を聴かせてくれた。問題は劇場いっぱいにぐるぐると回るような増幅音響が使われていたこと。シンセサイザーやギターが使われていることから、ある程度使用されることは予想していたが、冒頭の女声合唱からあまりに大きな音でガンガンと聴かされるとは思っていなかった。マリアナ・ピネーダの処刑(1831年)を悼むロマンセがまったく異なる音楽に聞こえた。それにかぶるように歌うマルガリータとヌリアの声も同じように増幅され、歌っている場所とは違う場所から聞こえてきた。オペラ歌手だけの場面ではだいぶ自然な音になるのだが、ルイス・アロンソ役は大きく増幅され、かなり抵抗を感じた。PAの使用を否定するわけではないが、声の芸術であるオペラ(ミュージカルでも)では、もう少し配慮が必要ではないかと感じた。音楽面でも舞台構成の面でも親しみやすい曲であることは分かったが、それだけに少し残念な初演となったように思う。
オペラの前にロルカの生涯を紹介するような寸劇が行われたが、「ロルカの知識がある程度ある人」はオペラだけを鑑賞できるようにしていただいた方がよかった。

藤堂 清 Kiyoshi Tohdoh
東京都出身。東京大学大学院理学系研究科物理学専攻博士課程修了。ソフトウェア技術者として活動。オペラ・歌曲を中心に聴いてきている。ディートリッヒ・フィッシャー=ディースカウのファン。ハンス・ヴェルナー・ヘンツェの《若き恋人たちへのエレジー》がオペラ初体験であった。

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