Live Report #755

リヴィオ・ミナフラ Livio Minafra ピアノ・ソロ

2014年11月19日 神戸チキンジョージ
Reported by 神子 直之(Naoyuki Kamiko)
Photo by Domenico Coduto
タイトル写真提供:イタリア文化会館 大阪

リヴィオ・ミナフラ (piano, percussion)

セット・リスト
1. Cerbiatto *
2. Atella
3. The prayer in the temple
4. Choo Choof *
5. Campane *
6. Muezzin, a prayer dedicated to Muslems *
7. Pioggerellina di Bogota
8. Blue Kong **
9. Nella Notte il Cristallo *

encore: Bulgaria *

tunes played on:
*Livio Minafra "La Fiamma e il Cristallo" (Enja ENJ-9521 2)
**Livio Minafra "La Dolcezza Del Grido" (Leo LR 384)
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南イタリアの海へ、リヴィオのピアノは私達を誘(いざな)う。

「イタリアン・インスタビレ・オーケストラ(IIO)」を主宰するピーノ・ミナフラの息子、リヴィオ・ミナフラのピアノ・ソロ・コンサートを聴いた。

私の聴いた「IIO」のアルバムでは、イタリアの風土を織り交ぜた時にフリージャズの咆哮を感じさせる雑多な世界観が展開されていた。今回のピアニストは父親の影響を受けているはずだし、多彩なパーカッション等を同時に用いるということで、近い音楽が演奏されると期待していた。

それは違った。

観客席よりも一段高い舞台、そこには蓋を開けられたグランドピアノとその横の机に様々な楽器とも呼べない音源が並ぶ。リヴィオが登場して椅子に腰かけて弾きだしたその第一声は、そこに閃光が走ったかと思われるような、高音部のグリッサンドだった。

曲は徐々にそのリズム構造を明らかにし、高速の5拍子がAを通奏低音で奏される上で、口笛が鳥の歌を真似る。私たちはまるで、さわやかな風の吹く南イタリアの海辺で、カーテンが揺れるのを、波が打ち寄せるのを見ながら、鳥の歌に耳を傾けているかのよう。

この曲と次の曲の間に彼はこう話した。「夜と昼、そういった対極の関係が好きだ。この曲は自然について、次の曲は人々について」

2曲目は人々の踊り。譜面台に乗るパーカッションを合いの手のように効果的に使い、喧騒に包まれたバルの雰囲気が紡ぎだされる。イタリアならではのビゼーのハバネラが聞こえた。

3曲目、奈良のお寺を訪れた時に作ったという曲。ベルチャイムの糸を手で、口で引っ張って、おごそかな境内の風景を醸し出す。ここで、アドリブが基づくG#ドリアン(A♭では断じてない)の響きで、ドビュッシーのピアノ曲集「版画」の<塔>が頭をよぎる。

4曲目、「シュッシュッ、ポッポッ、って日本語では言いますね」と言って始めた曲は、汽車の乗客になった気分。剣の舞が、歓喜の歌が、通り過ぎる。高速で走る汽車の窓から見える目にもとまらない風景を表現するのに、テニスボールを高速で動かして鍵盤を弾くのは笑った。ベース音はかかとで弾いた。

5曲目、Cペダル上での音の遊び。南イタリアの海岸の風景が見えた気がする、とマネージャーのDomenico Codutoにメールしたら、「教会の鐘楼からの正午の南イタリア海岸の音をイメージしている」と返答があり、納得。

コンサートは、続く。次の曲は、イタリア人の彼が感じるコーランの祈り。南イタリアがイスラム教を身近に感じているとは初めて知った。また、観客に持っているカギを出させ、リヴィオの指揮に合わせて鍵音で演奏に参加させたり(ここでボレロの引用があったのは何なのだろうか)、20年前十代の時に書いたという難曲、膝に乗せたおもちゃのピアノでメロディーを弾きながら退場した現地のフォークソングのテイストの曲、それらが奏された。

アンコールを求める観に応じて出てきた彼は、舞台に近い青年を一人指名して、「曲が始まって合図をしたら、ピアノの廻りのものをピアノの中に入れて下さい」と指示をした。パーカッションを、テニスボールを、ペットボトルを、その青年が不安げにピアノの弦の上に敷き詰める。曲が進むにつれ、ジョン・ケージが用いたプリぺアド・ピアノのように、くすんだ音が流れ出す。ものがすべて入ってしまい、曲が終わった。まるで、私のピアノにはすべてが入っているんです、それは音を軋ませることもあるかもしれないけど、そこに流れる音楽(人生)は、それに影響を受け時にはねのけ、続いて行くのです、とでも言いたげに。

リヴィオの歌は、ナポリ民謡ではなく、カンツォーネでもなく、そこに存在する30代の人間が受け止めたものを印象主義者のようにエレガントに表出するものであった。クロード・ドビュッシーの<海>は、南仏の地中海を描いたものと言われるが、リヴィオはフランスの隣の国の海をピアノで表現、いや、ドビュッシーのテイストを参照しながら海の印象をピアノで表現した画家であると言える。そこには土着的な泥臭さは無く、常に人間として成長し続ける一ピアニストが見つめる世界を、洗練された音楽、音の戯れで、自分に、自分が囲まれている世界に、演奏を通じて淡々と語っている。

終演後、リヴィオは自分の音楽の出自について、音楽学校で勉強しながら(卒業試験はラヴェルの<夜のガスパール>とのこと)、同時に、自分のピアノミュージックを構築するよう努めたと話していた。その時々がその局面であり成果であると言えるが、その根底には、音楽どうこうよりもこの世界が何なのか考えなさいと言う、父親ピーノの存在があるように思える。

彼が来たイタリアのプーリア地方、行ったことはないが、オリーブの名産地でオリーブオイルが美味しいとこのこと。リヴィオに教えてもらった現地名産のワインの銘柄を種々楽しみながら、美味しい料理と彼の音楽で時を過ごせることがあるのを楽しみにしたい。

神子直之 Naoyuki Kamiko
1963年(昭和38年)東京生まれ。東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。高校生時代に出会ったECMミュージックがやりたくて東大ジャズ研に入る。今もピアニストとして年に十数回のライブを東京および京都で行っている。「Azimuth」の大ファンで、ネットでKenny Wheeler (incomplete) discographyを執筆・公開した。好きな作曲家はマーラー、オネゲル、デュティユーなどなど。

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