Live Report #756

マリア・シュナイダー・オーケストラ・サンクスギヴィング・ウィーク・レジデント・ギグ10周年@ジャズ・スタンダード
Maria Schneider Orchestra10th Anniversary Thanksgiving week resident gig at Jazz Standard
on November 26, 2014.

2014年11月26日 ジャズ・スタンダード、ニューヨーク
Reported & Photographed by 常盤武彦 (Takehiko Tokiwa)

Maria Schneider Orchestra
Maria Schneider (conductor, arr)
Steve Wilson, Dave Pietro, Rich Perry, Donny McCaslin, Scott Robinson (sax)
Greg Gisbert, Mike Rodriguez, Augie Haas , Freddie Green (tp)
Keith O’Quinn, Ryan Keberle, Marshall Gilkes, George Flynn (tb)
Gary Versace (accordion)
Lage Lund (g)
Frank Kimbrough (p)
Jay Anderson (b)
Clarence Penn (ds)
Rojério Boccato (per)

Set List (1st Set)
Last Season
Lembrança ☆
Gumba Blue
The Thompson Fields ☆
Home ☆
Hang Riding
Walking by Flashlight ☆
☆は来年リリースのニュー・アルバム『The Thompson Fields』収録曲

 サンクスギヴィング・ウィーク(感謝祭週間、11月下旬)にニューヨークのジャズ・クラブ、”ジャズ・スタンダード”で、マリア・シュナイダー・オーケストラが演奏するレジデント・ギグは、今年で10周年を迎えた。このギグは、ニューヨーク・ジャズ・シーンに、秋の深まりと一年の終わりが近いことを告げる風物詩として、すっかり定着した。感謝祭当日の木曜日を除き、火曜日から日曜日まで、一日2セット、金、土は3セットの合計12セットを、新旧のオリジナル曲で彩った。2日目水曜日のファースト・セットを、お伝えしよう。

 2014年のマリア・シュナイダーは、前年春にリリースしたオペラ歌手のドーン・アプショウとのコラボによる『The Winter Morning Walk』が、グラミー賞のクラシック音楽部門で作曲賞、ヴォーカル賞、録音賞を受賞して、快調なスタートを切った。3月には、ジャズ・アット・リンカーン・センターに登場、また5月にもバードランドでギグと、例年以上にニューヨークでその演奏に触れるチャンスが多かった。8月には、ネット上で制作資金を募る アーティストシェアのニュー・プロジェクト『The Thompson Fields』が始動。8月下旬にアヴァター・スタジオで、2007年にリリースされた『Sky Blue』から7年の時を経て、ラージ・ジャズ・アンサンブル作品『The Thompson Fields』がレコーディングされた。来年4月21日のリリースに向けて、現在ミックス・ダウンが佳境に達している。これらの過程は、アーティストシェアのウェブサイトでアルバムを予約すれば、新作について語るシュナイダーや、レコーディング、ミキシング・スタジオのシーン、参加ミュージシャンのインタビューなどを閲覧し、制作過程をシュナイダーとシェアすることが出来る。

   マリア・シュナイダー・オーケストラは、2000年に”ジャズ・スタンダード”でのライヴ・アルバム『Days of Wine & Roses』を 録音している。11月のサンクスギヴィング・ウィークのレギュラーに抜擢されたのは2005年からだが、近年は連日ソールドアウトの大盛況だ。今年も”ジャズ・スタンダード”がオープンする午後6時30分にはすでに長い列が延びていた。
 2日目のこの日も、新旧作品がミックスされた構成だった。1994年のデビュー・アルバム、2000年の”ジャズ・スタンダード”でのライヴ・アルバムに収録されている<Last Season>で幕を開ける。イントロを飾るフランク・キンボロウ(p)は、オリジナルと同様だが、当時はグループに参加してなかったアコーディオンのゲイリー・ヴァサースと、デイヴ・ピエトロ(as,ss,fl)がメロウなソロを紡ぐ。ステージにロジェリオ・ボカット(per)が加わり、シュナイダーが90年代終わりに訪れて以来、愛してやまないブラジルの音楽をモチーフとしたニュー・アルバム収録曲<Lembrança>は、クラレンス・ペン(ds)と、ボカットの激しいリズムの応酬の上で、ライアン・ケバリー(tb) がエッジの効いたソロを執った。2012年の初演から、時間をかけて構成が完成されている。 デビュー作の『Evanescence』から、<Gumba Blue>がセレクトされる。20年に亘って演奏されているレパートリーだが、優れたメンバーによって、毎回新たな命が吹き込まれ、成長を続けているとシュナイダーは語った。旧作は、日によってソロ・オーダーが異なり、違った側面を聴かせる。そしてニュー・アルバムのタイトル曲<The Thompson Fields>が、満を持して演奏された。シュナイダーの故郷ミネソタ州ウィンダムの幼なじみ、農場主のトニー・トンプソンに捧げられた曲で、サイロの上から見渡せる広大な農地の風景を、幼い日々の思い出に重ねて描いた大作だ。2009年にアーティストシェアで資金を募って制作され、毎年演奏されて好評を博してきた。オーケストラ結成時からの古参メンバーのキンボロウと、2012年から本格的に加入したラージュ・ルンド(g)が、幻想的なアンサンブルの上で、美しいトーンで歌い上げる。続く<Home>は、2012年のニューポート・ジャズ・フェスティヴァルで初演された。同フェスティヴァルのプロデューサーの、ジョージ・ウェイン(p)に捧げられた曲である。この曲も、ニュー・アルバムに収録される予定である。99年の初めてのブラジル訪問は、振り返ってみると自らの音楽にとって大きなターニング・ポイントであったと、シュナイダーは語っている。深い陰影を帯びていた彼女の音楽は、明るく歓喜に満ちたサウンドへと変貌を遂げたという。<Hang Gliding>は、当時の体験をモチーフに描かれた曲だ。飛び立つ前の、高揚感とためらいをグレッグ・ギスバートがフリューゲルホーンで描き、飛び立った昂奮と滑走感を、ダニー・マッキャスリン(ts)が激しいプレイで表現する。エンディングは、前作『The Winter Morning Walk』から<Walking by Flashlight>のビッグバンド・アレンジ・ヴァージョンで、オリジナルと同じくスコット・ロビンソンのアルト・クラリネットが、フィーチャーされる。テッド・クーザーが、癌との闘病生活のリハビリテーションで、強い日光を避けて早朝に散歩をしてアメリカ中西部の自然とふれあい生きる歓びを描いた詩に、シュナイダーが音楽でさらなるストーリーを奏でる。シュナイダー自身も2003年に乳癌を患い、作曲と闘病、死への恐怖の狭間で、自らの内面と対峙し、音楽の本当の意味を探求した経験を持つ。人生の転換点となり、シュナイダーの音楽にも、大きな影響を及ぼした。すべてを克服して完成したのが、自ら現時点の最高傑作と誇る2004年度のグラミー賞ラージ・ジャズ・アンサンブル部門を受賞した、『Concert in the Garden』である。10年の時を経て、いよいよ次なる高い到達点を望むニュー・アルバムが、リリースされる。この日のセットでは、その50%ほどが明らかになった。ニュー・アルバムと来年のリリース・ツアーへの期待が、大いに高まる。

関連リンク
Maria Schneider http://www.mariaschneider.com
Jazz Standard http://www.jazzstandard.com

フランク・キンボロウ ゲイリー・ヴァサース マリア・シュナイダー
ディヴ・ピエトロ ロジェリオ・ボカット クラレンス・ペン
ライアン・ケバリー ラージュ・ルンド グレッグ・ギスバート
ダニー・マッキャスリン スティーヴ・ウィルソン スコット・ロビンソン
リッチ・ペリー マーシャル・ギルケス マイク・ロドリゲス
マリア・シュナイダー・オーケストラ マリア・シュナイダー・オーケストラ マリア・シュナイダー

常盤武彦 Takehiko Tokiwa
1965年横浜市出身。慶應義塾大学を経て、1988年渡米。ニューヨーク大学ティッシュ・スクール・オブ・ジ・アート(芸術学部)フォトグラフィ専攻に留学。同校卒業後、ニューヨークを拠点に、音楽を中心とした、撮影、執筆活動を展開し、現在に至る。著書に、「ジャズでめぐるニューヨーク」(角川oneテーマ21、2006)、「ニューヨーク アウトドアコンサートの楽しみ」(産業編集センター、2010)がある。

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