Live Report #757 |
MIKARIMBA featuring Steve Gadd, Eddie Gomez, John Tropea, Richard Stoltzman & Duke Gadd |
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マリンバのハッピー・グルーヴを創る、名手たちの奇跡のプロジェクト
ミカリンバの名前を最初に目にしたのは、スティーヴ・ガッドのウェブサイト。本当にたくさんのレコーディングやプロジェクトに取り組むスティーヴにあって、「ミカリンバ」をプロデュースし強力にアピールする。打楽器の神様スティーヴを夢中にさせるマリンバの名手、吉田ミカとは何者なのか?
熊本県天草出身。2000年、トロント大学上級演奏家コース修了。在学中、パーカッショングループNEXUSに師事。2001年『Steve Reich / Triple Quartet』(Nonesuch)に参加。スティーヴ・ガッドによるとPASIC 2005(The Percussive Arts Society International Convention)でミカと友達になったと言う。2005年に天草国際音楽祭「アイランドマジック」にスティーヴ、エディ・ゴメス、リチャード・ストルツマンを招聘する企画を行う。そこで彼らはミカの才能を見いだし意気投合。2008年にエディがスティーヴにミカのアルバムをプロデュースすることを勧め、2010年に『Mikarimba』(ビデオアーツ)が生まれる。2009年に来日公演を収録したDVD『Mika Marimba Madness』(Big Round)、2013年3月に最新作『If You Believe』を録音。カーネギーホールでの6回のコンサート、そこでチック・コリアやジョン・ゾーンの曲を初演。
そしてやってきた今年の来日公演。あれれ、名前がミカ・ストルツマンに。というわけでミカの演奏に先駆けて、10月5日、調布市グリーンホールで「塩谷哲&リチャード・ストルツマン Bach to Bach」を聴く。バッハ<ゴールドベルク変奏曲><G線上のアリア>から、ジョージ・ガーシュイン、セロニアス・モンクまで素晴らしい自由なインタープレイを聴かせる。リチャードも気に入ったという塩谷の<Life with You>が最後に演奏され、ピアノとクラリネットが美しく響き合う感動のひとときとなった。リチャードとキース・ジャレットの共演を「Tokyo Music Joy 1986」で聴く機会があったが、変わらずそしてより円熟したクラリネットの音を聴かせてくれた。そして、全国8カ所11公演のミカリンバツアー開始に向けて東北へ。
2週間後のブルーノート東京。右側に位置する巨大なDeMorrow のマリンバが目を引く。横幅でヴィブラフォンの2倍はありそうだが体積はその3乗の迫力だ。その横幅だけ4本マレットでの演奏は難しいことになる。そして中央右寄りにリチャード、後方にスティーヴ&デューク・ガッド、左からジョン・トロペイ、エディ・ゴメスが並ぶ。
私はフルートの巨匠ジェームス・ゴールウェイのマスタークラスからはしごしたのが裏目に出て、<A列車>に乗り遅れてしまい、2曲目<Samabata>から。<Hushabye>を連想するような進行だが、サウダージに溢れた一曲、ジョン・トロペイのギターとエディのベースが切ない空気を作り、マリンバがふくよかな音で歌う。<Marika Groove>は、マリンバを愛し所有もしているチック・コリアがミカに書き下ろした曲であり、これをCD化することが新作『If You Believe』を制作するモティベーションともなった。この日の演奏はYouTubeで公開されているのでご覧いただきたい。 http://youtu.be/BVICR_dsFs8 マリンバの特性を知り尽くしたチックが書いただけに、サステインは長くないものの、マリンバ特有の柔らかく豊かな響きを最適にグルーヴへと導く心憎いデザインがあり、特別な世界観がある。そしてこの最高のメンバーでの最高の演奏だ。スティーヴが息子デュークに捧げた<The Duke>では、スキャットも披露するなごやかで楽しい演奏になり、一方、デュークが作曲した<The Last Mojitos>も演奏された。
6人の対等なインタープレイと書きたいところだが、よい意味での立ち位置の違いを感じる。何といっても、今回はミカのマリンバとリチャードのクラリネットの深い親密なインタープレイがコアになってきている。嫉妬するくらい素晴らしいパートナーであることを感じさせる。マリンバとクラリネット、いずれもブラスに比べて鳴りにくい素材を優しく甘く響かせるという特性の中で、物理的な相性の良さにも驚かされる。そして、プロデューサーであり、ときに優しく見守りながら、一緒に楽しむスティーヴ。彼はミカのグルーヴするマリンバが大好きで、必ずしも自分が音を出さなくても、ミカが自分に代わって叩くことだけで満足しているようですらある。チックがミカにマリンバで叩いて欲しくて曲を書くのもそれに近いかも知れない。新鮮な感覚で色彩を添えるデューク・ガッド。そして、豊かな表現力で温かくサポートする達人2人、エディ・ゴメスとジョン・トロペイ。でも脇役という訳ではなくって、スティーヴにミカのプロデュースを勧めたのがエディ・ゴメスであり、「ミカリンバ」のプロジェクトの中心であり続ける。そしてアコースティックを極めても良さそうに思える「ミカリンバ」で、ジョンのギターのエレクトリックが作るアクセントは大きく、またジョンの音でなければいけない必然性がある。『Chick Corea / Friends』、『Chick Corea / Three Quartets』、『Steps / Smokin’ in the Pit』を聴き込んだ者としては、スティーヴ&エディのリズム隊を聴ければ損はないなんて下心もあるわけだが、上記の絶妙で素敵な立ち位置の前には「リズム隊」なんてステレオタイプはどこかへ消え去ってしまった。考えてみるとマイク・マイニエリが出てきそうな人脈だが、それもミカがマイクにジャズを師事しているから人脈の輪はつながっている。
ミカ、リチャード、エディの3人で演奏される<Pavane>。原題は<Pavane pour une infante defunte>つまりラヴェルの<亡き王女のためのパヴァーヌ>は、リチャードの美しいメロディーにマリンバがトレモロでハーモニーをつけ、エディが支え、どこまでも美しく響き合う。先述のクラリネットとマリンバ、そしてベースの木質の相性の素晴らしさを見せつける(余談だが、原題はフランス語で韻を踏むことがポイントで、別に王女は死んでなくて、悲壮なストーリーではないそうだ)。エディ作曲のスピード感のある<Loco Motive>で盛り上がり、締め括られた。
鳴り止まない拍手に演奏されたアンコールは<Everybody Talk About Freedom>。ミカはマリンバを叩きながら、なんと英語と九州弁でラップを、これがまた楽しい。6人も心から楽しそうに演奏していて、それが客席にフィードバックされて、みんなの笑顔が印象に残る公演となった。マリンバは地味な楽器に見えながら、ハッピーなグルーヴを生み出す大きな魅力を秘めていて、その魅力とミカの才能とエネルギーに惚れ込んだスティーヴ、エディ、リチャード、チック、作曲家ビル・ダグラスらが強力にバックアップする奇跡のプロジェクトが「ミカリンバ」だ。これからも新しいグルーヴを創り出す「ミカリンバ」とミカ・ストルツマンの活躍が楽しみでならない。
【関連リンク】
Mika Stolzman Official Website
http://www.mikarimbamadness.com
Mikarimba Dream - オフィシャルブログ
http://mikarimba-stoltzman.blogspot.jp
Richard Stolzman Official Website
http://www.richardstoltzman.com
Steve Gadd Official Website - Mika Yoshida
http://www.drstevegadd.com/mikayoshida.html
Marika Groove by Chick Corea
Live at Blue Note Tokyo, October 17, 2014
http://youtu.be/BVICR_dsFs8
Pavane pour une infante defunte by Maurice Ravel
http://youtu.be/6_UaMY5h7Z8?list=UUURN0iuZLOdyyK64hrR_p9g
Irish spirit by Bill Douglas
http://youtu.be/ZEhsW0v98ps?list=UUURN0iuZLOdyyK64hrR_p9g
【JT関連リンク】
スティーヴ・ガッド・バンド/ガッドの流儀
http://www.jazztokyo.com/five/five1027.html
スティーヴ・ガッド・バンド ブルーノート東京 ライブ
http://www.jazztokyo.com/live_report/report594.html
塩谷哲トリオ ライブ
http://www.jazztokyo.com/live_report/report726.html
If You Believe (TeeGa Music) | Mikarimba (ビデオアーツ) | Mika Marimba Madness / Live in Concert 2009 (Big Round) | Steve Reich / Triple Quartet (Nonesuch) |
追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley
:
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣
:
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi
#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報
シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻
音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美
カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子
及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)
オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美
ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)
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#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義
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#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄
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